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秋
……あかね雲の行方(7)
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元慶四年(八八〇)五月二十八日、在原業平さまが御逝去あそばしました。
わたしにとっても、宮様にとっても、この麗しき貴公子の存在は、どれほど心を潤したことでしょうや。
だから、万難を期してでも
「この御方だけは」
御見送り致さねばなりません。
わたしは山科へ隠遁して以来、初めて都へと赴きました。
もっとも在原業平さまの墓所は洛西小塩山麓に設けられた十輪寺にあります。なんでも在原業平さまは、晩年、ここに留まり、風光明媚を愛されたそうです。その古びた庵を改修して、いまは一寺にしたと伝え聞いております。
ここは平安京を隔てて、わたしの故郷でもある小野郷を盆地で挟む、まさに対面の地でもございます。
たぶん、在原業平さまは、小野へ隠棲なされた宮様のことを、都を挟んで御見守り下さったのではありますまいか。なんと、お心の広いことでしょう。
十輪寺はすぐに見つかりました。
都の蒸すような暑さを忘れるような、涼風が頬に優しい。宛てどなく彷徨い歩くうちに、真新しい五輪塔に辿り着きました。間違いない、そう直感しました。
墓所に佇むと、瑞々しい花が献じられておりました。
随分と清潔な御様子から、恐らく誰かが毎日お手入れしているのでしょう。あれほど御心根の優しいお方ですもの。在原業平さまのことを慕っておいでの方は、老若男女、きっと大勢おられるに違いない。
そして、わたしも、あの御方を兄のように想っていなければ、きっと夢中になっていたことでしょう。
そんな大人の色香を漂わせた在原業平さま。こののち、この御方を越える色好みには、断じて巡り会えますまい。
そっと五輪塔を撫でようと手を伸ばした、そのときです。
「もしや姉さま?」
ふと声がしました。
わたしにとっても、宮様にとっても、この麗しき貴公子の存在は、どれほど心を潤したことでしょうや。
だから、万難を期してでも
「この御方だけは」
御見送り致さねばなりません。
わたしは山科へ隠遁して以来、初めて都へと赴きました。
もっとも在原業平さまの墓所は洛西小塩山麓に設けられた十輪寺にあります。なんでも在原業平さまは、晩年、ここに留まり、風光明媚を愛されたそうです。その古びた庵を改修して、いまは一寺にしたと伝え聞いております。
ここは平安京を隔てて、わたしの故郷でもある小野郷を盆地で挟む、まさに対面の地でもございます。
たぶん、在原業平さまは、小野へ隠棲なされた宮様のことを、都を挟んで御見守り下さったのではありますまいか。なんと、お心の広いことでしょう。
十輪寺はすぐに見つかりました。
都の蒸すような暑さを忘れるような、涼風が頬に優しい。宛てどなく彷徨い歩くうちに、真新しい五輪塔に辿り着きました。間違いない、そう直感しました。
墓所に佇むと、瑞々しい花が献じられておりました。
随分と清潔な御様子から、恐らく誰かが毎日お手入れしているのでしょう。あれほど御心根の優しいお方ですもの。在原業平さまのことを慕っておいでの方は、老若男女、きっと大勢おられるに違いない。
そして、わたしも、あの御方を兄のように想っていなければ、きっと夢中になっていたことでしょう。
そんな大人の色香を漂わせた在原業平さま。こののち、この御方を越える色好みには、断じて巡り会えますまい。
そっと五輪塔を撫でようと手を伸ばした、そのときです。
「もしや姉さま?」
ふと声がしました。
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