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第十章

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 自警団団員としてトロペオラム達と行動を共にしない日のチィックウィードとキーメとスプライツは、
(…………)
{{…………}}
 陰から男の逆監視を続けた。

 自宅にラディッシュ不在の時は、親衛隊副隊長にドロプウォートの身辺警護を密かに協力してもらいつつ。
 男が地世信奉者たちと会い、その日の様子を報告して別れるまで。

 男がトロペオラムたちを監視し、チィックウィードたちがその男を監視する、なんとも奇妙な関係が続いたある日、信奉者たちはいつも通り「御苦労様でした」と男の労をねぎらったが、ねぎらった後に一人が、

『それにしても、いい加減に「目障りな子ら」ですね』
(!?)

 物言いに、小さく驚いた様子を見せる男を尻目に、

「やはり少々痛い思いをさせないといけませんかね」
「それには七草のガキが邪魔ですね」
「やはり狙うなら不在の時でしょう」
「報告の通りならば、おあつらえ向きに定期的に参加していない日があるようですし」

 トロペオラム達への襲撃計画を、堰を切ったように語り合い始め、苦言の一つも言わぬ男の姿勢にキーメとスプライツは、

{{しょせんは、おなじアナのムジナ(なんぉ・なんのぉ)}}

 チィックウィードに「救う価値など無い」と、再考を遠回しで促した。
 それはトロペオラム、フリージア、オキザリスを守る為の、信奉者たちや男に対する死刑宣告であったが、彼女はそれでも自身の直感を信じ、

(イノチをうばうのぁいつでもデキルなぉ。でも、ヒトのココロはメでみえないなぉ。カンタンにうばっちゃイケナイなぉ)
{{…………}}

 執行に「待った」をかけた。
 期せずして彼女の一声により、命を長らえた監視男と地世信奉者たち。
 
 しかし信奉者たちはキーメとスプライツの逆鱗に触れてしまったなど思いもせず、いつまで経っても立ち去らぬ男に不愉快を覚え、皮肉交じりに、

『貴方まだ居たのですか? もう家に帰って良いのですよ』

 帰宅を促したが、

「あ、えぇ、えとぉ……そのぉ……」

 男は口籠り、惑うばかり。
 優柔不断な態度に「抱いた不愉快」は「苛立ち」へと置き変わり、

『どうかされましたか?』
(!)

 声色の変わった歩み寄りから「命の危機を伴う圧」を敏感に感じ取った彼は反射的に、

『なぁ、何でもありませぇん♪ おっ、お疲れ様でしたぁあ♪』

 取り繕った精一杯の満面の笑顔で急ぎ立ち去った。
 逃げるように去った背を腹立たし気に見つめる一人に、もう一人が、

『もはや使い物にならないのでは?』

 声を掛けると他の者達も続々と、

「替えの利く人員は幾らでもいる」
「中途半端な思想のモノを使い続けて、こちらが捕縛でもされたら割に合わない」
「明日から集合場所も変えた方が良さそうですね」

 黒ローブのフード部分からのぞく口元に不敵な笑みを浮かべ嘲笑っていると、何処からともなく、

{{コドモにキガイをくわえてよろこぶゲスに、リソウをかたるシカクはナイ(なんぉ・なんのぉ)}}

 仄暗い声が。
 闇に生きる者達が、更なる深淵を感じさせる声に恐怖を抱き、

『『『『『誰だぁ!』』』』』

 怯え声で周囲を見回したが、
{{こたえるヒツヨウはナイ(なんぉ・なんのぉ)}}
 声は断ずると、

 シュヒイイイイイィン!

 光が風切り音を伴い暗闇に軌跡を描き、

 ドザザザァアザ!

 信奉者たちが悲鳴も無くその場に一斉に倒れると、その真ん中に、
{{…………}}
 チィックウィードが。
 眼を、白銀と漆黒に怪しく光らせ佇んでいた。

 すると物陰の闇の中から、
『殺したのですか?』
 姿を現したのは、数名の親衛隊隊員を伴った副隊長。

 佇む彼女が「チィックウィードではない」と彼は理解していてか、言葉を慎重に選んだ物言いで。

 問い掛けに、
{{コロシてはイナイ(なんぉ・なんのぉ)}}
 キーメとスプライツの、闇を纏った仄暗い声。

 普段の彼女の太陽のような明るさを、天使のような爛漫を知るが故に、あまりの違いに、あまりの暗さに隊員たちは否応なし、
「「「「「「…………」」」」」」
 緊張を禁じ得ない中、副隊長も初対面となるキーメとスプライツが放つ異様な殺気を前に「石橋を叩いて渡る」が如く言葉を選びながら、

「ありがとうございました。この者らは貴重な情報源ですので」
{{…………}}

 無言で闇に佇むチィックウィードに頭を下げ、気を失った信奉者たちの回収を隊員たちにアイコンタクトで促すと、

「では、当方らはこれで」

 再び頭を下げ、闇に紛れて姿を消して行った。
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