ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第十章

10-9

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 重傷を負ったドロプウォートの容態が安定して後――

 起きてしまった悲劇を、時系列に従い包み隠さず話すラディッシュ。
 重度に緊張した、たどたどしい物言いではありながらも誠意を以て、知りうる限りの情報の全てを真摯に語る彼の前には、

「「…………」」

 大国エルブを支える四大貴族の一翼であり、ドロプウォートの実の両親であるオエナンサ卿と夫人。
 とは言え、ドロプウォートが自作自演の反旗を翻すに当たり協力を促した仲間たちに語った言葉以外、彼女の心中までも説明するのは流石に不可能であったが。

 推測で語ってしまったら、それは誠実から外れた「保身の弁解」と取られ兼ねず。
 謝罪を交えた説明を一通り受け、

『あい分かった』

 平静に、淡々と頷く、彼女の実父であるオエナンサ卿。
 その隣に並び座る夫人も取り乱すことなく、
「…………」
 毅然と静かに頷いたが、実の一人娘が選んだ悲しき結末に「内心が平静」で居られる筈も無く、膝の上で上品に重ねられた両手は微かに震え、動揺を垣間見せ、平静であるかに見えた卿も唇の端をほんの僅かに震わせていて、押さえつけた心痛が滲んでいた。

 一人娘の親として逆上しなかったのは、自身の立場ゆえ。

 多くの民を導く立場にある責務からと、何より「信頼する愛娘が選んだ道」であったから。
 それが悲劇であったとしても。

 凛々しくあろうと努める夫妻の姿に、
(辛くない筈が無い……そしてその原因を作ってしまったのは紛れもなく……この僕だ)
 ラディッシュは心が痛かった。
 得ていた信頼を裏切る結果に二人を直視したままで居られず、

(すみません……)

 堪らず視線を落とす。
 するとオエナンサ卿は彼の苦悩を知ってか知らずか、はたまたこれ以上の同席は感情を抑えきれないとの判断からか、なお毅然とありながらも話を締め括るが如く、
「では、娘の治療は当家で行おう。して娘は何処に?」
 すかさず、

『申し訳ありませんが、それは出来ません』

 顔を上げ、即座に拒否。
 これには流石のオエナンサ卿も怒りを隠し切れず、

『それは、どう言う意味かね』

 問う言葉は丁寧でありながら、声色には確かな棘が。
 怪我を負わされた娘の父としての、殺意にも似た感情。
 
 しかし、ある決意を持つ彼は臆することなく、
「七草である彼女の護衛と看護、治療方法の探索はこちらで行います」
『『ッ!』』
 ほんの一瞬、激怒の表情を垣間見せるオエナンサ卿と夫人。
 
 怒鳴られる覚悟を瞬間的にするラディッシュ。
 それほどの無礼であるのを承知の上で断ったのだが、

(?!)

 オエナンサ卿の次の言葉に驚いた。
 以外にも二人は怒りを飲み込むように溜飲を下げ、凄みは残しつつも平静に、
『それは愛娘が傷付けられた父親を前に言っている「無礼である」と、自覚が当然あって言っているのだよねラディッシュ君』
 ヒシヒシと感じる、父親としての怒り。

 あまりの圧の強さに「元来が弱腰」が首をもたげ、怯みそうになったが、
(ここで僕が日和(ひよ)ったら無礼どころの話じゃなく、ドロプに対しても最大限の非礼になる!)
 今すぐにでも逃げ出したい「反射的ヘタレ」を、かき集めた根性で抑え込み、

『無論です』

 受けて立つが如くに毅然と答え、
「失礼を重々承知で言わせていただきますが、御両親である御二人を除き、私は卿の配下を信用出来ません。護衛役としての実力一つを取ってみてもです」
「「!」」
 即座に反論しようとするオエナンサ卿と夫人。

 しかし彼は機を与えず、畳み掛けるように、
「彼女は「天世の英雄」の生まれ変わりです」
「「?!」」
「中世人でしかない貴方方に「治療法を探せる」と御思いですか?」
「「…………」」
 これには流石に返せる言葉が無かった。

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