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第八章

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 幾日か経過し――

 驚愕の表情で、
「「「…………」」」
 何かを見つめるのはリンドウ、ゴゼン、ヒレン。

 形ばかり跪く三人の視線の先にあったのは、
「…………」
 艶やかな、素肌が透けて見えてしまいそうなドレスを纏って妖艶な笑みを浮かべ、
「…………」
 ベッドのような玉座に横たえる、女帝フルール。
 悠然と見下ろす彼女に、

(((これが、元「万年二位(ハクサン)」のオンナ……)))

 見た者を虜にせずにはおかない、その「存在感」もさることながら、ゆったりドレスさえも突き破りそうな迫力を持った彼女の胸から目が離せず、
(まっ……負けたわ……)
 人生初の敗北感を味わうヒレン。

 言わずもがなヒレンの胸もドロプウォートと双璧を成す、人もうらやむ名峰である。
 そんな彼女を以てしても、女帝フルールは「太刀打ち」さえ許さぬ、絶対的、圧倒的破壊力を見せつけていたのであった。
 しかし彼女以上に、何故かショックを受ける二人が。

((…………))

 物悲し気な顔してヒレンの胸を見つめる、リンドウとゴゼン。
 憐れむような眼差しに、
「なっ!?」
 気付いた彼女は咄嗟に両腕で胸元を隠し、

『そぉんな目で見るんじゃナイわよ!』

 キレ気味に「リンドウのささやか」を睨み付け、

「アンタが「憐れむ」のはオカシイでしょ!」
「アーシのぁ美乳しぃ! 「ただデカイ」のと一緒にするなんしぃ!」
「ぬわぁんでぇすってぇ!」

 容姿を偽る男女三人の内輪メモに、

『げにぃ愛(う)いことにぃありんすなぁ~』

 女王は妖艶な笑みの中に「愛おしさ」を窺わせると、
「妾(わらわ)の娘たちよぉ」
 謁見の間に同席していたフルール国の騎士、兵士、文官たちに視線を移し、

「皆、大儀であったぇ」

 それは退出を促す「慰労も含めた言葉」であり、女帝に仕える重臣たちは異を唱えることも無く、
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
 了承の微笑みを浮かべて静々と退出して行った。
 見知らぬ男女三人が居たにも関わらず。

 そこに見え隠れしたのは「女王に対して」のみならず、ラディッシュたち勇者組に対しても抱いている信頼の深さ。
 勇者輩出国エルブのみならず、フルール国でも得ている信任に、
(((へぇ~)))
 改めて感嘆する天世組の三人。

 やがて扉が閉まると、女王フルールの傍らに立つリブロンが、

『天世の皆さま』

 毅然とした中にも礼節を以て、
「イチ臣下でしかない私が上座に居る事を、どうかお許し下さい。私は陛下の最側近であり、御側から容易く離れる訳には、」
 変わらぬ生真面目で陳謝しようとしたが、

『構わないしぃ♪』

 跪いたままのリンドウは「ニッ」と笑って、
「身分を偽っての旅は意外と楽しいしぃ♪ なぁんかぁ興奮するのしぃ♪」
 現状を楽しんでいる様子を見せ、

「そ、そうですか」

 リブロンが、胸のつかえが少し取れた表情を見せると、
「!」
 ゴゼンが即座に反応。

「あれぇあれぇ~?! 表情が和らいだリブロンちゃんてぇカワウィねぇ~♪」
「か、かわうぃ?」

 言葉のニュアンスから「持ち上げられた」と即座に理解するリブロンではあったが、ハクサンを連想させる彼の軽さ、悪く言えば「軽薄さ」に忌避感を抱いた。
 しかし相手は「百人の天世人」の、更に「上位」の人物である。
 天世との良好な関係を保つうえでも、立場上としても、顔に露骨な嫌悪を表す訳にはいかず、苛立ちはグッと堪え、

「過分な誉め言葉を、ありがとうございます」

 大人な対応を見せた。
 その一方で、彼の癖(へき)とも言える女性に対するマメ加減に、

《またかぁ~》

 ラディッシュたち勇者組や天世の女子二人が、呆れ笑うしかない様子でいると、女王フルールが何を思った(企んだ)か、妖艶な笑みの中にからかいを交え、
「ゴゼン殿ぉ、この子(リブロン)は既に「売約済み」ゆぇ許してたもれぇ♪」
 ラディッシュを見据えた。
 その意味深な、含み笑いに、

『!?』
『へっ、陛下ぁあぁ!』

 羞恥の赤面顔して戸惑う、当事者二人。
 女王の物言いに、二人の初々しい反応に、意味をスグさま見出(みいだ)した天世の三人は、

「ラディってばぁ天然の「たらし」しぃ~♪」
「かぁ~ラディちゃん独占禁止法適用なんだョねぇ~♪」
「ふっ、不潔だわぁ!」

 三者三様の反応に、

『そぉっ、そぉんなんじゃないよぉ~!』

 不本意な言われようにラディッシュは慌てに慌て、
「ぼっ、僕なぁんかぁゴゼンさんに比べたら全然でぇ! モテ要素なんてカケラも無いなヘタレでぇ!」
 本人的には懸命に弁明したつもりであったが、

「「「「「「「「「「・・・」」」」」」」」」」

 物言いたげなジト目でラディッシュを見つめる女王フルール、リブロン、勇者組の仲間たちと、天世組。
 特に、ナンパ師ゴゼンは。
 彼の「ナンパの成功率の低さ」は周知の事実であり、本人としても自覚はあるが故に「フッ」と小さく笑って悲し気に、

「皮肉にしか聴こえないのョねぇ……」

 視線を逸らし、その悲哀に、

「へぇ?!」

 ギョッとするラディッシュ。
 フォローしたつもりであったのに、意図しない落ち込みを見せられて。
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