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第六章

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 しばし後――

 不帰の森を、更に奥へ進むパストリスであったが、
「…………」
 不安げに足を止め、
「あのぉ……」
 バツが悪そうに振り返り、

「本当に良いのでぇす?」

 そこに居たのはドロプウォート。
 申し訳なさげに何かを問う彼女に、憂いを感じさせない笑顔で、

「良いのですわぁ♪」

 笑って見せながら、
「だって貴方は、慌ただしく旅立ったあの日以来、家に帰れていないのではなくて?」
 一行は、パストリスの生家を目指していた。
「確かにぃ、両親のお墓に報告とぉ、家の掃除をしたい気持ちは、あるでぇすけど……」
 仲間を、私事(わたくしごと)に付き合わせてしまうのに抵抗を示したが、

『気にしなくて良いんだよ♪』

 ラディッシュもニコリと笑い、
「みなさん……」
 仲間の優しさにパストリスが感動する中、
「それはそうとぉ……」
 ドロプウォートが急に顔色を曇らせ後ろを振り返り、

『なぁんで貴方までぇ、ここに居りましてですのぉ!』

 不愉快そうな顔して見た先には、笑顔のチィックウィードに笑顔を返し、手を繋ぎ最後尾を歩くサロワートの姿が。
 しかし「当たり前の顔」して最後尾を歩く彼女は、ドロプウォートの苛立ちなど歯牙にも掛けず、

「アンタにとやかく言われる筋合い無いわぁ! アタシの勝手でしょ!」

 売り言葉を買い言葉で一蹴。
 するとドロプウォートも負けじと、

『私は「ラディの誓約者」ですわよ! 貴方のような輩からラディを守り、追い払う責務がありますの!』
『人を「羽虫」みたいに言ってんじゃないわよ!』
『敵である地世の七草の貴方を「羽虫扱い」してぇ何がいけませんですのぉ!』
『なぁんでぇすってぇ!』

 幼子を前に、大人げ無くいがみ合う二人に苦笑のラディッシュは「まぁまぁ」と宥めながら、

「村の子供たちが襲われそうなった不手際は謝罪してくれて、休戦もしてくれるって言うんだから、」
『ラディは甘過ぎぃなのでぇすわぁ! 口先だけの謝罪ばかりでぇ何の情報ももたらさない女などに!』

 ドロプウォートは不満を露わ、

「それにラディに対する、こ、」
「僕に対する「こ」?」

 不思議そうな顔に、
(!)
 続ける言葉を咄嗟に飲み込んだ。
彼女の恋心に、気付かせたくない「嫉妬のドロプウォート」と、高いプライドが先行して恋心に気付かれたくない「羞恥のサロワート」は期せずして、

『『なっ、何でも無い(ですわ・わよぉ)っ!』』

 乙女の気迫のデュオに、
「え?! あっ、うん、そう?! そ、それなら良いんだけどぉ?」
 気圧されつつ、
(息ピッタリで、仲が良いのか悪いのか……)
 戸惑う、ラディッシュ。

 そんな大人たちの「大人げない騒乱」に挟まれる形になったチィックウィードはヤレヤレ笑いを浮かべ、彼女の呆れを目にしたパストリスも思わず苦笑い。
 お茶を濁す様に、
「ここを抜ければ、もぅスグなのでぇすぅ」
 草木で出来た「獣道のトンネル」に屈んで入って行き、 その光景に、

『ほぉおぉぉおおぉぉ!』

 驚嘆の声を上げるチィックウィード。
 大人たちへの「呆れ」も忘れた様子で両眼をキラキラと輝かせ、

『ボウケンのニオイがするなぉ♪』

 トンネルに駆け込んで行った。
 その一方で、トンネルの入り口を懐かし気に見つめるのはラディッシュとドロプウォート。
 過ぎ去った日々を追懐(ついかい)するも、

「「…………」」

 一人足りない。
 それはワガママを散々言いたい放題、人を振り回すだけ振り回しておいてその挙句、エルブ国を守る為に「帰らぬ人」となった、百人の天世人ラミウム。
 否応なく思い出された「彼女が居ない現実」に、寂しさ、悲しさが甦って来たが、

『こんなトコに入ったら服が草まみれになっちゃうじゃない!』

 想い、煩う時間さえ許さぬ不満声が。
 声の主は当然の如く、サロワート。
「「…………」」
 ラディッシュが困惑笑いを浮かべる中、センチメンタリズムな空気を台無しにされたドロプウォートは過剰な作り笑顔で以て、
「それは困りましてですわねぇ~何でしたらぁ「ここでお別れ」して下さってもぉ、此方は一向に、構いませんのですわよぉ~♪」
 嫌味の笑顔を残し、屈んでトンネルに入ると、

『んなぁ!?』

 カチンと来るサロワート。
 女の意地もあって、

『入らないとは言ってないでしょ!』

 続けて屈んで飛び込んだ。
「…………」
 不安げな顔して穴を見つめるラディッシュ。
(こんな調子で、大丈夫なのかなぁ……)
 一抹の不安を抱きつつ、屈んで後に続いたが、トンネルに入るなり、

(ッ!!!?)

 声も出せずに驚愕した。
 眼前に、四つん這いで進む「サロワートの尻」が。
 しかも彼女が動くたび、スカートの裾から「見てはいけない物」がチラチラと。
 咄嗟に眼を逸らしつつ、

(どっ、どどどどどうしよう! 教えてあげた方が良い?! でも……)

 教えた途端に逆ギレされる光景が、真っ先に眼に浮かんだ。
 しかし、
(だからって……)
 教えずに後バレして、女子組から一斉に白い眼を向けられるのはもっと回避したく、

(うっ、うぅ~っ! どぅしてぇサロワートさんってぇ、こぅも「肝心なトコが無防備」なんだよぉ~)

 進むに進めず頭を抱えて困惑していると、気付いた「四つん這いサロワート」が顔だけ不機嫌に振り返り、
「何をモタモタしてるよぉラディ、置いて行くわよ! アンタも早く、」
 来いと言おうとしたが、赤面顔を背ける彼の様子から全てを悟り、

『ちょ!!!』

 羞恥の赤い顔して咄嗟に裾を後ろ手に押さえこそしたが、狭い通路内では方向転換もままならず、
「らっ、ラディ! アンタ! みっ、見たんじゃないでしょうねぇ!」
 責める様なまくし立てに慌てたラディッシュは思わず、

『見てない見てないチラッとしか「見えて」ない!』

 正直に言ってしまってから、
「あっ……」
 失言に気付いた時には、既に遅し。
 彼女は耳まで真っ赤に染め上げ、

『バカァーーー! 絶っ対に前を見て進むんじゃないわよォ!』

 憤慨したが、前を行くドロプウォートたち女子組は、
(((ナニをイマさらぁ……)))
 呆れ交じりの苦笑を浮かべていた。

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