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第六章

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 トンネルから出る先頭のパストリス――

 後続の仲間たちを待ち、最後尾の「少し赤い顔したラディッシュ」が出て来ると、チィックウィードとサロワートに、

「あっちに家が、あるのでぇす♪」

 背丈ほどの茂みがある方を指差して見せ、
「…………」
 素朴な疑問を抱くサロワート。

「アンタの家だけ、何で村からこんなに離れてるわけ? 同じ種族(妖人)で集まって、同じ事をしてたんじゃないの?」

 盗賊を生業にしていた裏事情を知っている素振りに、
「それは……」
 パストリスは返答に困った。
 両親が村の人々と共に悪事を働いていたのは、一時(いっとき)とは言え事実であるが、止めさせようと試みて命を落としたのもまた、事実。
 亡き両親の名誉の為にも、無用な「思い込み」や「誤解」を生まずに納得してもらう「適切な言葉」を探しあぐねていると、大人な 会話に待ちくたびれたチィックウィードが一人、茂みの中に頭を突っ込み、パストリスの生家の様子を窺うなり、

『ダレかいる、なぉ?』
「「「「ッ!」」」」

 反射的に身を屈めるラディッシュ達。
 しかしチィックウィードは藪に頭を突っ込んだまま。

『!』

 慌てたドロプウォートはチィックウィードを藪から即座に引っこ抜き、抱き締める様に守り、
「「「「「…………」」」」」
 何者かに気付かれた気配は無く、五人は顔を見合わせ頷き合うと、改めて静かに、慎重に、

「「「「「…………」」」」」

 藪の中に頭を突っ込んだ。
 その先に見えたのは「巨木のウロ」を利用して作られた、懐かしき「パストリスの家」であったが、

(((((!)))))

 チィックウィードが言った通り、そこには人が居た。
 頭から「ケモ耳」が生えた、妖人の一家と思われる三人が。
 両親と思われる男女と、娘と思われる幼い少女が一人。

 家の中から運んで来たシーツを談笑しながら物干しに掛けるなど、仲睦まじい「親子の光景」ではあったが、他人の家を無断で、不法に使用しているのは明らかで、家族をただジッと見つめるパストリスにサロワートは業を煮やし、

(アンタ、何も言わなくてぇイイわけぇ?! 家族との思い出が詰まった家を、あんな風に、勝手に使われてるのよぉ!)

 小声で怒り、彼女なりの配慮も見せたが、パストリスは笑顔で振り向き、
「イイのでぇす♪」
「え?!」
「妖人がこの世界で生きていくのは、本当にタイヘンなのでぇすぅ。それが、あんな風に、笑って過ごせてもらえるなら……ボクの両親も喜んでいると思うのでぇす♪」

 愁いの無い笑顔に、ラディッシュとドロプウォート、そしてチィックウィードまでもが笑みを見せ、そんな四人にサロワートは呆れたように、
「アンタ達ってぇホントお人好しよねぇ」
 苦笑すると、パストリスがおもむろに、

「ラディさん」
「?」
「お願いがあるのでぇす」
「お願い?」

 ラディッシュが「思いも寄らぬ頼まれ事」に眼を丸くした時、自分たちが密かに見られていたなど知る由も無い「幼子と父親」は笑顔を見せ合いながら、白いシーツを二人掛かりで干していると、家の中に戻っていた母親が優しい笑みと共に、

「そろそろ一息つきましょう♪」

 コップが三つ乗ったトレーを持って来て、
「そうだね♪」
「はぁ~い♪」
 二人が笑顔で答えた刹那、

『『ッ!?』』

 両親は異変を瞬時に感じ取り、顔色を急変。
 娘も、幼いながらに異変を感じ取りはしたが、それが「何に端を発するか」までは分からず、
「パパ……ママ……イマの、なぁに?!」
 不安げな顔を見せると、父親は娘を異変から守るように抱き締め周囲を窺い、

「今のは天法?!」

 息を呑み、
「えぇ……それも、とても強いわ……」
 母親も息を呑んだ。
 地世のチカラが色濃く、中世の人々に忌み嫌われている妖人にとって、それは驚異。
 魔女狩り的な、命の危機が迫っている可能性もあり、何が起きたのか現状把握に向かわない訳にはいかなかった。

 しかし、頼れる者が居ない妖人の家族にとって、夫だけが確認に向かうのは、残される妻子にリスクが高く、全てを鑑みた彼が導き出した答えは、

「みんなで見に行こう」

 何があっても最期まで「家族と共にあろう」と言う覚悟であった。
 想いは口にせずとも伝わり、硬い表情で頷く妻と子。
 夫は二人を両脇に抱くように、周囲を注意深く警戒しながら、天法の強いチカラを感じた場所へと向かい、
(この方向にあるのは……)
 とある事に気が付いた。
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