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第五章
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時は瞬く間に過ぎ去り――
ミトラは自室の机に向かい、
「いったい、どうしたら……」
更なる悩みに打ちひしがれていた。
その理由とは、彼の手元にある一枚の書類。
≪配属先希望届≫
新人研修が終わりに近づき、配属先の希望を問われていたのであった。
元が成績優秀であり、新人研修も「特務機関」で表面上はそつなくこなした彼が、第一希望の職場に異動できる可能性は十分にあり、少なくとも今の汚れ仕事から解放されるのは確実。
しかし、
(それで良いのか?!)
書類上でしか対面していない子供たちの姿が、頭から離れない。
彼が他部署へ異動になれば、何人もの子供たちが「即座に実験室」になるのは想像に難くなく、
(あの子たちを残して自分だけ他へ……本当に、それで良いのか?!)
悩みながら、傍らの資料束に目を落とし、
(だからと言って、誰もが「この二人」の様に強くなれる訳じゃない……)
実験室送りから一転、頭角を現し成績優秀者として書類の一番上と二番目に置かれた「とある幼児」の資料を手に、複雑な表情で呟いたが、
(でも強くなれれば「実験室送り」にならないで済んで、長く生きられるのは確かだ……でも良いのか? それは「人」として強くなるわけじゃなく、「兵器」として強くなるのを意味するんだぞ?!)
悩みは迷走を極めた。
それでも、
(正式採用されれば、もっと多くの知識を得られ、もっと多くの子供たちを守られるかも知れないし、救い出す方策も見い出せるかも知れない! その時間を稼ぐ為にも!)
思い至った彼の答えは一つであった。
(生きていればこそ、好機はある!)
職員として残る決断を下した。
ミトラが残留を決意した頃――
執務室を思わせるとある一室に、
「失礼します」
堅苦しさを感じさせる物言いで扉を開け、入室して来たのはクスキュート。
歴戦の軍人が放つ、近寄り難い無表情と気配をそのままに、社交辞令的な笑顔さえ見せる事も無く、窓を背にして執務机に就く「とある人物」に凛然と敬礼し、
「御呼びと伺い参りました」
すると執務机の人物は、物腰柔らかくも要職にある人物特有の重々しさを兼ね備えた声色で、
「楽にしてくれたまえ中佐」
「ハッ」
背筋は伸ばしたまま、両足を肩幅に軽く開き、両手を腰で結び、軍隊式の「休め」の姿勢に入るクスキュートに、その人物は、
「時に中佐、例の新人はどうかね?」
「ミトラ中尉の事でありますか?」
「うむ。彼の成績と、研修期間中の実績ならば、更に良いポストも用意可能であったと言うものを」
雑談を交えた残念そうな物言いに、
「今も日々の業務を、そつなくこなしていると聞き及んでおります」
感情論に流される事無く、軍人らしい固い答えを返すと、
「そつなく……か」
微かな笑みを浮かべ、
「つつがなく、と言わないのを意味する所が「この結果」なのかねぇ?」
机の上に書類束をポンと置いた。
それは、子供たちのテスト結果をまとめた資料束であり、
「…………」
一瞬、黙するクスキュート。
変わらぬ表情から、内心で何を思ったか読み取る事は不可能であったが、何者かは口元に笑みを絶やさず、
「私は別に責めている訳では無いのだよ、中佐。計画に支障が出る程の「改ざん」とまでは言い難いしねぇ~。何より、原料(子供たち)を無駄遣いする傾向にあった所長の足かせに「丁度良い」とも言えるしねぇ」
「ハッ。恐れ入ります」
小さく頭を下げると、
「それより中佐」
「何でありましょう?」
謎の人物は一拍置いてから、口元の笑みを不敵に歪め、
「アルブルの王が病床に伏したと、密偵から連絡があった」
「!?」
(剣豪と呼ぶに相応しく、老いを語るにまだ早い、あのアルブル王が!?)
流石の彼も驚きを隠せない中、謎の人物は声を潜める事も無く、
「陛下より、アルブル国の占領計画を早めるよう勅命が下った」
「!」
自分が呼ばれた意味を瞬時に理解したクスキュート。
余分な前置きなどはせず、机の上に置かれた書類束を手にすると、
「例の作戦を急ぐのであれば、現状、この二人が適任かと思われます」
二人分の資料を束から引き抜き、謎の人物の前に並べ置いた。
「…………」
手に取り、内容を確認するなり、
「良いだろう。計画実行の為の「仕上げと準備」を早急に始めたまえ中佐」
「ハッ!」
クスキュートは短く返事を返し、敬礼するなり部屋から出て行った。
「…………」
立ち上がる謎の人物。
窓から望む青空を、おもむろ見上げ、
(アルブルの騎士カデュフィーユよ、キサマさえ居無くなれば、アルブルなど落ちたも同然なのだよ)
闇を感じさせる笑みを、口元に浮かべた。
ミトラは自室の机に向かい、
「いったい、どうしたら……」
更なる悩みに打ちひしがれていた。
その理由とは、彼の手元にある一枚の書類。
≪配属先希望届≫
新人研修が終わりに近づき、配属先の希望を問われていたのであった。
元が成績優秀であり、新人研修も「特務機関」で表面上はそつなくこなした彼が、第一希望の職場に異動できる可能性は十分にあり、少なくとも今の汚れ仕事から解放されるのは確実。
しかし、
(それで良いのか?!)
書類上でしか対面していない子供たちの姿が、頭から離れない。
彼が他部署へ異動になれば、何人もの子供たちが「即座に実験室」になるのは想像に難くなく、
(あの子たちを残して自分だけ他へ……本当に、それで良いのか?!)
悩みながら、傍らの資料束に目を落とし、
(だからと言って、誰もが「この二人」の様に強くなれる訳じゃない……)
実験室送りから一転、頭角を現し成績優秀者として書類の一番上と二番目に置かれた「とある幼児」の資料を手に、複雑な表情で呟いたが、
(でも強くなれれば「実験室送り」にならないで済んで、長く生きられるのは確かだ……でも良いのか? それは「人」として強くなるわけじゃなく、「兵器」として強くなるのを意味するんだぞ?!)
悩みは迷走を極めた。
それでも、
(正式採用されれば、もっと多くの知識を得られ、もっと多くの子供たちを守られるかも知れないし、救い出す方策も見い出せるかも知れない! その時間を稼ぐ為にも!)
思い至った彼の答えは一つであった。
(生きていればこそ、好機はある!)
職員として残る決断を下した。
ミトラが残留を決意した頃――
執務室を思わせるとある一室に、
「失礼します」
堅苦しさを感じさせる物言いで扉を開け、入室して来たのはクスキュート。
歴戦の軍人が放つ、近寄り難い無表情と気配をそのままに、社交辞令的な笑顔さえ見せる事も無く、窓を背にして執務机に就く「とある人物」に凛然と敬礼し、
「御呼びと伺い参りました」
すると執務机の人物は、物腰柔らかくも要職にある人物特有の重々しさを兼ね備えた声色で、
「楽にしてくれたまえ中佐」
「ハッ」
背筋は伸ばしたまま、両足を肩幅に軽く開き、両手を腰で結び、軍隊式の「休め」の姿勢に入るクスキュートに、その人物は、
「時に中佐、例の新人はどうかね?」
「ミトラ中尉の事でありますか?」
「うむ。彼の成績と、研修期間中の実績ならば、更に良いポストも用意可能であったと言うものを」
雑談を交えた残念そうな物言いに、
「今も日々の業務を、そつなくこなしていると聞き及んでおります」
感情論に流される事無く、軍人らしい固い答えを返すと、
「そつなく……か」
微かな笑みを浮かべ、
「つつがなく、と言わないのを意味する所が「この結果」なのかねぇ?」
机の上に書類束をポンと置いた。
それは、子供たちのテスト結果をまとめた資料束であり、
「…………」
一瞬、黙するクスキュート。
変わらぬ表情から、内心で何を思ったか読み取る事は不可能であったが、何者かは口元に笑みを絶やさず、
「私は別に責めている訳では無いのだよ、中佐。計画に支障が出る程の「改ざん」とまでは言い難いしねぇ~。何より、原料(子供たち)を無駄遣いする傾向にあった所長の足かせに「丁度良い」とも言えるしねぇ」
「ハッ。恐れ入ります」
小さく頭を下げると、
「それより中佐」
「何でありましょう?」
謎の人物は一拍置いてから、口元の笑みを不敵に歪め、
「アルブルの王が病床に伏したと、密偵から連絡があった」
「!?」
(剣豪と呼ぶに相応しく、老いを語るにまだ早い、あのアルブル王が!?)
流石の彼も驚きを隠せない中、謎の人物は声を潜める事も無く、
「陛下より、アルブル国の占領計画を早めるよう勅命が下った」
「!」
自分が呼ばれた意味を瞬時に理解したクスキュート。
余分な前置きなどはせず、机の上に置かれた書類束を手にすると、
「例の作戦を急ぐのであれば、現状、この二人が適任かと思われます」
二人分の資料を束から引き抜き、謎の人物の前に並べ置いた。
「…………」
手に取り、内容を確認するなり、
「良いだろう。計画実行の為の「仕上げと準備」を早急に始めたまえ中佐」
「ハッ!」
クスキュートは短く返事を返し、敬礼するなり部屋から出て行った。
「…………」
立ち上がる謎の人物。
窓から望む青空を、おもむろ見上げ、
(アルブルの騎士カデュフィーユよ、キサマさえ居無くなれば、アルブルなど落ちたも同然なのだよ)
闇を感じさせる笑みを、口元に浮かべた。
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