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第四章

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 ラディッシュ達とスパイダマグ達による、滑稽とも思える両者の追いかけっこに、
「あはははは、ホントだ、ホント♪」
 グラン・ディフロイスは愛らしく愉快げに笑いながら、
「なら、先輩の方は良いの?」
「?」
「敵である私は今、ホント手ぶらだよ?」
 肩越し、愛らしい笑顔で振り返ると、

「愚問だな」

 サジタリアは変わらぬ鬼瓦で見下ろし、
「両腕を失い、武器も持たぬキサマを倒して何とする」
(!)
「それで「武人」と誇れるものか、下らぬ」
「なんだぁ、気付かれてたんだ♪」
 グラン・ディフロイスは残された右腕をも失っていた。

 全員が生き残る可能性を高める為、身を守れる筈であった天流虚空丸をラディッシュに渡した事により、代償として倒壊から免れる折に右腕を失ったのであった。
 後悔を感じさせぬ愛らしい笑みを浮かべる背に、
「ワレは、それほどの献身がありながら何故に天世を付け狙う? プエラリアの想いに応える為か? だとすれば、義理堅い事だな」
 無表情の鬼瓦で問うサジタリアに、逆にグラン・ディフロイスも、

「貴方こそ、どうして天世に肩入れしているの♪」
「!」
「中世がどうして存在しているか、勇者がなんで百人も集められてるか、ホント、知らない筈がないよね♪ そんな天世なんかを守って何になるの?」
「…………」
「とうの昔に死んだ、あの「誓約者の女の遺言」を未だに守ってるの? だとしたら、ホント、貴方の方こそ義理堅い♪」
「…………」

 答えないサジタリア。
 変わらぬ無表情の鬼瓦からは、何を思っているか読み取る事は不可能で、

「まぁ良いかぁ♪」

 両腕を失ったグラン・ディフロイスは器用に立ち上がると、
「ホント、私はもぅ行くよ♪ 面倒だけど事の顛末を報告しないといけないし、それが一応仕事だから♪」
 物陰の闇に身を紛れさせ、

「またね、先輩♪」

 愛らしい笑みを残し、グラン・ディフロイスは姿を消した。
「…………」
 完全に感じられなくなった気配に、
「義理堅い……か……」
 サジタリアは無表情の鬼瓦に大きなため息を吐き、

「ワレは単に、それ以外の生き方を知らぬだけ」
(いや、見つけられぬ、のか……)

 眼下で追い駆けっこを繰り広げるラディッシュ達とスパイダマグ達、新参の若者たちをを見下ろしながら、
「そうであろう、トリフォリア……」
 とある女性の笑顔を眼に映した。

 その視線の先で、絶賛逃走中のラディッシュ達。
 必死に逃げる彼ら、彼女たち、七人の背を懸命に追うスパイダマグ達は、

『待たれよぉラディッシュ殿ぉ! 方々ぁあぁ! 過去の非礼はお詫び申す! 申すが故に、何卒ぉ「我らの頭目」となっては下さらぬかぁあぁぁ!』
「「「「「「「「「「下さらぬかぁああぁぁっぁあ!」」」」」」」」」」

 藁にも縋る決死のスカウトではあったが、七人の肩書を見れば、天世の、特に「古きにこだわる元老院」と軋轢が生じるは火を見るより明らかで、

『モメ事は、もぅ結構ですぅうぅっぅうぅ!』
(僕はラミィの事を知りたいだけなのに、どうしていつもこうなるのぉ!)

 巻き込まれ体質に悲鳴を上げていた頃、天世では古代ギリシアの賢人を彷彿とさせる白ローブを纏った若者が、

『報告致しますっ!』

 元老院の御歴歴軍団を前に興奮気味に、

「アルブル国におけるハクサン様の蜂起は、勇者ラディッシュ様をはじめとする御一行と、スパイダマグ殿が率いる部隊により、無事に鎮圧されたとの事でぇす!」
「「「「「「「「「「おぉおぉっぉぉおぉおぉお!」」」」」」」」」」

 湧き上がる安堵の歓声。
 アルブル国の謁見の間で、唯一、合成獣化せず、ラディッシュ達の手助けで逃げ延びたあの人物は「天世が送り込んだスパイ」であった。

 彼がもたらした情報により、天世に対する直接攻撃の危険が去ったのを知った御歴歴の多くは素直に喜びの声を上げたが、中には、
「…………」
 無言ながらも、明らかな不愉快を滲ませる人物が数名。
元老院の中でも、重鎮の部類の御歴歴である。

(若造(スパイダマグ)が調子に乗りおってぇ!)
(我らの許可も無く部隊を動かすとはぁ!)
(親衛隊が我らを軽んじて、なんとするかぁ!)

 ギリギリと奥歯を鳴らし、

(今に見ておれぇ!)

 右往左往するばかりであった自身の愚行は顧みず、先んじて一歩を踏み出した若者たちに妬みをぶつけていた。

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