276 / 894
第四章
4-50
しおりを挟む
妖狐ハクサンの不敵に歪んだ口元が意味する所を示すが如く、神速を以て縦横無尽に斬り結んでいた彼の切っ先が、確かな鈍りを見せ始めていた事に。
それは常人が見ても分からぬ程の、僅かな変化ではあるが。
意外に思ったドロプウォートが、
「でも、どうしてですの……」
呟く様に漏らすと、サジタリアは変わらぬ鬼瓦で言葉短く、
「疲れだ」
「疲れぇ?!」
(ラディは「弱腰」ではありますが、戦闘において、これほど早く疲弊した事など……)
かつてなく、腑に落ちずにいると、グラン・ディフロイスはさも当然のように、
「ホント、正気を失ってるとは言え、体は正直なんだよ?」
「…………」
「個人差はあっても、人間が本当の全力で「いったい何分戦える」のかなぁ?」
「!」
ハッとするドロプウォート。
人間の体は筋骨などの破損を防ぐ為、常に百パーセントのチカラを出さないように、脳などから制限を掛けている。
その中で、稀にその制限が外れ、通常以上のチカラが発揮された状態が「火事場の馬鹿チカラ」と呼ばれるモノであり、当然それは、この世界で生きる人々も同じ。
百人の天世人になりつつある、異世界勇者のラディッシュとて例外ではなく、バーサーカー化して安全装置が壊れてしまい全力を出し続ける彼の動きが鈍り始めたと言う事は、体の限界が近付きつつあると言う事。
(ラディの強さに圧倒されて失念しておりましたわ!)
気付きはしたものの、だからと言って救援や、援護の手立ては皆無。
(どうしたら良いですのぉ!)
焦りと、苛立ちばかりが募るドロプウォートに、
『娘よ、ワレに問う』
「?!」
サジタリアは変わらぬ鬼瓦で、
「勇者(ラディッシュ)を止めるに、ワレは命を賭ける覚悟はあるか?」
問いに対して彼女は、
『ありますわァ!』
愚問とばかりの即答に、グラン・ディフロイスも、
「ホント、ならぁ決まりだねぇ」
変わらぬ愛らしい笑みを見せ、
「え?」
「ヤツ(ハクサン)とて人間。極限の攻防を、三方向同時対応は出来まい」
「つまり、それは?!」
「ホント、サジタリアと私がアレ(ハクサン)の攻撃を引き付けるから、その間にラディッシュくんを正気に戻してって言ってるの♪」
「そっ?!」
世界の命運を分けるかも知れない重要任をいきなり押し付けられ、
『そんな! どうやって正気に!』
可能性は一つであり、狼狽を隠せない彼女であったが、既に覚悟の答えを聞いた二人は御構い無しに、
『行くぞ、グラァン!』
『ホント、勝手な略称は止めて欲しいんだよねぇ、先輩ぃ♪』
駆け出し、
≪ワレは天世の恩恵を以て!≫
≪地世の恩恵を以て、以下略ぅ!≫
それぞれその身を「白銀」と「漆黒」の輝きに包みながら、素早い動きで妖狐ハクサンに向かって行き、容赦なく置き去りにされたドロプウォートは、
「・・・・・・」
フリーズしていた。
しかし、いつまでも茫然自失で居られる状況ではなく、羞恥を匂わす「ほんのり桜色」に顔を染めながら、
『もぅ「どうにでもなれ」ですわぁあぁあぁあっぁ!』
駆け出し、二人を追従した。
決意を以て動き出す三人。
その間にも、
『まだまだ行くよぉ、ラディ♪』
妖狐ハクサンは多量に生み出した立方体を巧みに操り、四方八方から休みなく襲い掛かったが、
『ガカァルアァァアッァア!』
制限の外れた狂戦士ラディッシュの「闇雲な高速剣技」により次々斬り消され、補充はしているものの追い付かず、徐々にその数を減らして行き、二つの獣の攻防は続いていた。
それは常人が見ても分からぬ程の、僅かな変化ではあるが。
意外に思ったドロプウォートが、
「でも、どうしてですの……」
呟く様に漏らすと、サジタリアは変わらぬ鬼瓦で言葉短く、
「疲れだ」
「疲れぇ?!」
(ラディは「弱腰」ではありますが、戦闘において、これほど早く疲弊した事など……)
かつてなく、腑に落ちずにいると、グラン・ディフロイスはさも当然のように、
「ホント、正気を失ってるとは言え、体は正直なんだよ?」
「…………」
「個人差はあっても、人間が本当の全力で「いったい何分戦える」のかなぁ?」
「!」
ハッとするドロプウォート。
人間の体は筋骨などの破損を防ぐ為、常に百パーセントのチカラを出さないように、脳などから制限を掛けている。
その中で、稀にその制限が外れ、通常以上のチカラが発揮された状態が「火事場の馬鹿チカラ」と呼ばれるモノであり、当然それは、この世界で生きる人々も同じ。
百人の天世人になりつつある、異世界勇者のラディッシュとて例外ではなく、バーサーカー化して安全装置が壊れてしまい全力を出し続ける彼の動きが鈍り始めたと言う事は、体の限界が近付きつつあると言う事。
(ラディの強さに圧倒されて失念しておりましたわ!)
気付きはしたものの、だからと言って救援や、援護の手立ては皆無。
(どうしたら良いですのぉ!)
焦りと、苛立ちばかりが募るドロプウォートに、
『娘よ、ワレに問う』
「?!」
サジタリアは変わらぬ鬼瓦で、
「勇者(ラディッシュ)を止めるに、ワレは命を賭ける覚悟はあるか?」
問いに対して彼女は、
『ありますわァ!』
愚問とばかりの即答に、グラン・ディフロイスも、
「ホント、ならぁ決まりだねぇ」
変わらぬ愛らしい笑みを見せ、
「え?」
「ヤツ(ハクサン)とて人間。極限の攻防を、三方向同時対応は出来まい」
「つまり、それは?!」
「ホント、サジタリアと私がアレ(ハクサン)の攻撃を引き付けるから、その間にラディッシュくんを正気に戻してって言ってるの♪」
「そっ?!」
世界の命運を分けるかも知れない重要任をいきなり押し付けられ、
『そんな! どうやって正気に!』
可能性は一つであり、狼狽を隠せない彼女であったが、既に覚悟の答えを聞いた二人は御構い無しに、
『行くぞ、グラァン!』
『ホント、勝手な略称は止めて欲しいんだよねぇ、先輩ぃ♪』
駆け出し、
≪ワレは天世の恩恵を以て!≫
≪地世の恩恵を以て、以下略ぅ!≫
それぞれその身を「白銀」と「漆黒」の輝きに包みながら、素早い動きで妖狐ハクサンに向かって行き、容赦なく置き去りにされたドロプウォートは、
「・・・・・・」
フリーズしていた。
しかし、いつまでも茫然自失で居られる状況ではなく、羞恥を匂わす「ほんのり桜色」に顔を染めながら、
『もぅ「どうにでもなれ」ですわぁあぁあぁあっぁ!』
駆け出し、二人を追従した。
決意を以て動き出す三人。
その間にも、
『まだまだ行くよぉ、ラディ♪』
妖狐ハクサンは多量に生み出した立方体を巧みに操り、四方八方から休みなく襲い掛かったが、
『ガカァルアァァアッァア!』
制限の外れた狂戦士ラディッシュの「闇雲な高速剣技」により次々斬り消され、補充はしているものの追い付かず、徐々にその数を減らして行き、二つの獣の攻防は続いていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません
ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。
文化が違う? 慣れてます。
命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。
NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。
いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。
スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。
今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。
「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」
ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。
そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】能力が無くても聖女ですか?
天冨 七緒
恋愛
孤児院で育ったケイトリーン。
十二歳になった時特殊な能力が開花し、体調を崩していた王妃を治療する事に…
無事に王妃を完治させ、聖女と呼ばれるようになっていたが王妃の治癒と引き換えに能力を使い果たしてしまった。能力を失ったにも関わらず国王はケイトリーンを王子の婚約者に決定した。
周囲は国王の命令だと我慢する日々。
だが国王が崩御したことで、王子は周囲の「能力の無くなった聖女との婚約を今すぐにでも解消すべき」と押され婚約を解消に…
行く宛もないが婚約解消されたのでケイトリーンは王宮を去る事に…門を抜け歩いて城を後にすると突然足元に魔方陣が現れ光に包まれる…
「おぉー聖女様ぁ」
眩い光が落ち着くと歓声と共に周囲に沢山の人に迎えられていた。ケイトリーンは見知らぬ国の聖女として召喚されてしまっていた…
タイトル変更しました
召喚されましたが聖女様ではありません…私は聖女様の世話係です
天才魔導医の弟子~転生ナースの戦場カルテ~
けろ
ファンタジー
【完結済み】
仕事に生きたベテランナース、異世界で10歳の少女に!?
過労で倒れた先に待っていたのは、魔法と剣、そして規格外の医療が交差する世界だった――。
救急救命の現場で十数年。ベテラン看護師の天木弓束(あまき ゆづか)は、人手不足と激務に心身をすり減らす毎日を送っていた。仕事に全てを捧げるあまり、プライベートは二の次。周囲からの期待もプレッシャーに感じながら、それでも人の命を救うことだけを使命としていた。
しかし、ある日、謎の少女を救えなかったショックで意識を失い、目覚めた場所は……中世ヨーロッパのような異世界の路地裏!? しかも、姿は10歳の少女に若返っていた。
記憶も曖昧なまま、絶望の淵に立たされた弓束。しかし、彼女が唯一失っていなかったもの――それは、現代日本で培った高度な医療知識と技術だった。
偶然出会った獣人冒険者の重度の骨折を、その知識で的確に応急処置したことで、弓束の運命は大きく動き出す。
彼女の異質な才能を見抜いたのは、誰もがその実力を認めながらも距離を置く、孤高の天才魔導医ギルベルトだった。
「お前、弟子になれ。俺の研究の、良い材料になりそうだ」
強引な天才に拾われた弓束は、魔法が存在するこの世界の「医療」が、自分の知るものとは全く違うことに驚愕する。
「菌?感染症?何の話だ?」
滅菌の概念すらない遅れた世界で、弓束の現代知識はまさにチート級!
しかし、そんな彼女の常識をさらに覆すのが、師ギルベルトの存在だった。彼が操る、生命の根幹『魔力回路』に干渉する神業のような治療魔法。その理論は、弓束が知る医学の歴史を遥かに超越していた。
規格外の弟子と、人外の師匠。
二人の出会いは、やがて異世界の医療を根底から覆し、多くの命を救う奇跡の始まりとなる。
これは、神のいない手術室で命と向き合い続けた一人の看護師が、新たな世界で自らの知識と魔法を武器に、再び「救う」ことの意味を見つけていく物語。
荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
聖女の孫だけど冒険者になるよ!
春野こもも
ファンタジー
森の奥で元聖女の祖母と暮らすセシルは幼い頃から剣と魔法を教え込まれる。それに加えて彼女は精霊の力を使いこなすことができた。
12才にった彼女は生き別れた祖父を探すために旅立つ。そして冒険者となりその能力を生かしてギルドの依頼を難なくこなしていく。
ある依頼でセシルの前に現れた黒髪の青年は非常に高い戦闘力を持っていた。なんと彼は勇者とともに召喚された異世界人だった。そして2人はチームを組むことになる。
基本冒険ファンタジーですが終盤恋愛要素が入ってきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる