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第四章

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 バーサーカーと化したラディッシュは、触れれば空間ごと消される立方体の一つを一刀の下に斬り消し、続けて、やたらめったら闇雲に、でたらめに、剣を振り回しながらも、続々迫る後続の立方体たちを次々斬り消して行ったのである。

(どうして斬れますのォ!?)
(何故に刀が消されぬゥ!?)
(ホント、どうなってるの♪)

 驚嘆の言葉を口にする事さえ忘れるほど驚く中、次々消されて行く立方体たちの奥で、

『やっぱりキミは凄いよ、ラディ!!!』

 妖狐ハクサンが悔しがるどころか、むしろ「歓喜の笑顔」を見せ、彼がどう言った思考の下に喜んでいるのか、獣の顔からでは尚のこと推測不能であるが、ドロプウォート達にとって今はそれよりも、ラディッシュが立方体を消した「理屈の解明」が急務であり、
(いったい、どの様に斬っておりますの!)
 ドロプウォートが答えを導き出せないもどかしさから焦り、端麗な顔立ちの眉間にシワを寄せると、グラン・ディフロイスが唐突に、

『そうかぁ♪』

 気付きの声を上げ、
「ハクサンくんが生成した箱は結局のところ天技で生み出された、言わば「天法のチカラ」の結晶体でしょ♪」
「「…………」」
「だから彼は本能的に、刀身に「地世のチカラ」を纏わせ続ける事で、斬った時に二つのチカラを相殺して、打ち消してるんだよ♪ まぁそんな異常を可能にしてるのが、地世の剣である地流閻魔丸ではあるけどねぇ♪」

(心を闇(バーサーカー)に堕としたのもだけど、それはナイショ♪ 勝手に潰し合ってくれるのは有難いしねぇ♪)

 ほくそ笑んだが、表面上の感嘆交じりの解説にサジタリアは変わらぬ鬼瓦で、
「なるほど。しかしなれば、」
 孤軍奮闘、バーサーカー状態で剣を振るい続けるラディッシュの背に、
「刀身以外の体の部位が、箱に少しでも触れよう物ならタダでは済まぬと言うに……」
 我が身を顧みる事さえ出来なくなってしまった彼の狂戦士振りを憐れに思いつつ、

「正に正気の沙汰ではない」

 その戦闘力の高さに舌を巻き、心の内では、
(ワレは武人でありながら、いつまで突っ立ち見ている事しか出来ぬのかァ)
 苛立ちも覚えていた。

 二者の思惑の傍ら、
(私が羞恥に囚われず誓約していれば、ラディは正気を……)
 ドロプウォートは後悔を滲ませていたが、それは「後の祭り」と言うモノ。

 今となっては近づく事さえ、ままならない。

 妖狐ハクサンが張り巡らせた立方体の攻撃もさることながら、バーサーカー化したラディッシュに迂闊に近づけば、敵と認識され、容赦ない攻撃を浴びる可能性が高かったから。
 それぞれがそれぞれの立場で、二つの獣の戦いを傍観する中、

『ガァルアァアァッ!』

 狂戦士ラディッシュは雄叫びと共に、地面以外の三百六十度から次々迫り来る立方体を、足を止めずに斬り払いながら妖狐ハクサンとの距離を徐々に詰めたが、妖狐ハクサンは、攻撃がもはや単なる時間稼ぎにしかなっていないにも関わらず、誰の目から見てもジリ貧であるに関わらず、

『素晴らしいよ、ラディ!』

 獣の大口を開けて笑顔満面、
「キミこそ、人々の希望のヒカリだぁ! だから一刻も早くここまで来て! そしてぇ!」
 称賛は、闇に病んだ笑みに急変し、

「潰(つい)える希望の象徴として死んでくれぇ♪」

 ハクサンの強気の正体は何であるのか。
 真っ先に気付いたのは、剣豪サジタリア。
 遠目ながらも、

『これは、マズイ』

 変わらぬ鬼瓦の眉間に深いシワを寄せ、
「何が良くないと言いますの!」
 焦るドロプウォートの一方で、遅ればせながら何かに気付いたグラン・ディフロイスも、
「ホント、だね♪」

「ですからぁ! 何が「良くない」と言いますの!」

 しびれを切らすと、
「ワレは気付かぬのか?」
「え?」
「ホント、よく見てごらんよ♪」
 二人の指摘に、
「?」
(いったい何を……)
 視線を辿り、闇雲に剣を振う狂戦士ラディッシュを改めて見た瞬間、

「なっ?!」

 彼女も、遂に気が付いた。
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