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第三章

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 日の出と共に――

プルプレアの先導で、

『では行こうか!』

 未だ薄暗い森の中を歩き始めるラディッシュ達。

 足下が見え難く、旅を始めるには早い時間ではあったが、ゴールである城下が視野に入り、自分たちの「政治的に置かれた状況」を一刻も早く確認する為と同時、街道を使わずに「大回りで村を迂回する」が故、過分にかかるであろう時間を考慮しての措置であった。
 足元に注意を配りながら森を進む。

 幸いにもトラブルに見舞われず、やがて薄暗かった森の中に陽が入り始め、動植物たちが目覚めの時を迎え、巨木の枝にとまった小鳥たちが美声でさえずり始めると、

「暖かくぅなって来たねぇ~」

 ラディッシュが空に向かって大きく背伸び。
 幾度も襲撃を受け、これからも油断ならない状況下にありながら、

「太陽は偉大だなぁ~」

 その気の抜けた笑みに、
「呑気ですわねぇ~」
 ドロプウォートが冗談交じりに呆れ笑い、パストリス達も笑顔を見せたが、ラディッシュは穏やかな気候に当てられてか、いつになく緩んだ表情で、

「こんな時こそ「短気は損気」で、「呑気は良い気」だよぉ~♪」

 すると先導していたプルプレアも笑みを以て歩みを遅め、
「そろそろ朝食にしたらどうだろう♪」
 笑顔で頷く仲間たち。
 程良く開けた場所を見つけ、遅れ馳せながらの朝食準備に取り掛かった。

 ターナップとニプルは竈を作り、ドロプウォートとプルプレアは六人が程よく囲める幅を持った切り株をテーブルに見立て、椅子代わりになりそうな間伐材を集めたりと、食事場所のセッティング。
ラディッシュとパストリスは竈が出来るまで食材の下ごしらえを行い、やがて朝食準備の全てが整い、六人はテーブル代わりの切り株を囲み、間伐材の椅子に着席。

 並べられた今日の遅めの朝食は、パンとスープ。

 パンと言ってもイースト菌を使って発酵させたような「ふわふわ、ふかふか」からは程遠い、ひいて粉末状にした穀物に、卵、油、水、塩を加え、こねて固めて枝に差し、竈の火であぶって焼いた物。
 そのまま食すには多少固かったが、スープに浸して食べるには丁度良い固さであった。
 各々、食材に対して感謝を述べ、食事を進める中、
「ねぇプルプレアさん」
 おもむろ問い掛けるラディッシュに、
「プレアで良いよ」
「え?」
「自分は、既に勝手に「ラディ」と呼んでるし」
「うん。ありがとう、プレアさん♪」
 笑顔に、笑顔を返しながらも顔色を窺う様に、
「その……王様の弟さんのことぉ、少し聞いても良いかな?」
「ビフィーダ様の事か?」
「う、うん」
 ラディッシュは小さく頷き、
「僕たち、会ってはいるけど、ほんの少しの時間だったし……その……どんな人なのかなぁって」
「何故気になる?」
 プルプレアの素朴な疑問に対し、彼は少し困惑した表情で視線を落としながら、
「正直言って、僕は戸惑ってるんだ」
「戸惑う? 何にだ?」
「うん。まだ一度しか会ってないけど、その時の印象では、前にプレアさんが言ってたみたいに「ここまでする人」とは思えなくて……」
 するとドロプウォートも、
「確かにですわねぇ。会った時に受けた印象と、今回、主導したとみられる過激な行為とには、あまりに隔たりがある気が致しますわ。いくらアルブリソの傀儡と化し、指示に従ったダケの可能性があるにしても……」

 その感想は、パストリス、ターナップ、ニプルも抱いた違和感らしく、三人も同意を示すように頷き、それはラディッシュ達がビフィーダを「主体的な実行犯」とは断じていない現われでもあり、仲間たちが自身の幼馴染を、幾ばくかでも信用してくれている事に、

(ありがとう……)

 プルプレアは、心の中で感謝を禁じ得なかった。
 現王カルニヴァに近い立場上、国政を揺るがす犯罪行為に手を染めるビフィーダが信頼を得ている事を、公然と感謝する訳にはいかないから。

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