ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第二章

2-51

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 その日の夜――

 とある扉の前で聞き耳を立てるドロプウォート、パストリス、ターナップ、ニプル。
 四人が聞き耳を立てていたのはラディッシュの部屋の扉であり、夕飯時が近くなっても姿を現さない彼を心配しての事であった。
 町で起きた件はリブロンを通して四人の耳に入り、リブロンも当然、輪に加わろうとしていたが、公務がある故に断念し、四人にラ ディッシュの「心のケア」を託していた。

「「「「…………」」」」

 中から何やら物音はするので室内に居るのは確かであり、堅く閉ざされた扉を前に女子三人が小声で、
(ラディにとっての初陣ですわぁ。よほど骨身に応えたのですわねぇ……)
(ハイでぇすぅ。ボクもエルブ国での戦いの後は、正直、数日眠れなかったでぇすぅ……)
(アイツはさ、異世界からコッチの世界に連れて来られたダケの、元は「一般人」だろうからさぁ……)
 気遣いを見せると、ターナップがいつになく真剣な表情で、

(ならいっそ……)
(((いっそ?)))

 固唾を呑んで答えを待つ三人に、
(姉さん方で慰めてあげちゃあ、どぅっスかぁ?)
 聖職者の身と言う事もあり、深い意味は全く無かったのだが、同人誌にどっぷり漬かる女子三人組は、

(((三人がかりでぇ!?)))

 十八禁では描けない妄想を勝手に想像し、耳まで真っ赤な羞恥顔して、

(((ヘンタァイ!)))

 いわれ無い中傷に、

(へっ、へんたぁい?!)

 ギョッとするターナップ。
 罵られた意味が理解出来ずにいる中、
(((タープが話し相手になればイイ(のですわ・のでぇす・じゃねぇか)!)))
 すると彼にも「デリカシー皆無」の自覚はあったようで、

(無理無理無理っスよぉ! 俺なんかを相手にしたら十中八九で傷口に塩っスよ!?)

 何かしらのフォローを当て込んで拒んだ途端、

(((確かに)))

 納得顔で大いに頷くドロプウォート達。
(い、いや、あのぉ姉さん方……そこは否定してくれても……)
 困惑顔を見せると、

 ガチャ!

 ラディッシュの部屋の扉がいきなり開き、
((((ッ!!!?))))
  逃げ場なし。
 四人は咄嗟に、その場の掃除をしているフリをした。
「「「「…………」」」」
 無駄なあがきの、誤魔化しであるのは百も承知していた。
 とは言え、部屋の中の様子を窺っていた手前バツが悪く、後ろ暗い思いから、つい反射的に偶然を装ってしまったのであった。

 背中に感じる、ツッコミも無く佇むラディッシュの気配。
 その気配にドロプウォートは、
(今さら、ですわねぇ……)
 腹を括ると短く息を吐き、
「ラディ、落ち込む気持ちは分からなくもありませんが、」
 振り返って忠言を呈しようとしたが、

「?!」

 目の前に、ラディッシュが差し出す謎の小箱が。
 差し出された「手のひらサイズの小箱」に、
「ら、ラディ? これは??」
 すると落ち込んでいたと思われた彼は笑顔で、
「少し早いけど、お祭りの贈り物♪」
「えぇ?!」
 素直に嬉しく思い、また他にも色々思う所はあったが、一先ず、
「あ、開けてみても?!」
「どうぞ」
 促され、開けた小箱の中に入っていたのは、

「首飾りですのぉ!?」

 チャームに「赤い石」が飾られたネックレスであった。
「嬉しいですわぁ♪」
 笑顔満面。
 しかしその反面、
「あ、でも、」
 彼の落ち込みを思い、

「その……大丈夫、ですの……」

 顔色を窺うように尋ねると、ラディッシュは少し辛さを滲ませながらも小さく笑い、
「正直に言うと、ちょっとキツイけど……でもコレって、今までみんなが僕の分まで背負ってくれてた苦悩な訳で……それを思うと、僕ばかり悲劇の主人公に浸っているのは違うかなって……」
「そぅ、ですの……」
(思いのほか元気そうで、良かったですわ……)
 二人だけの世界に入り込んでいたが、

「「!?」」

 恨めしそうな三つのジト目に気が付いた。
 
 内心で、若干一歩リード的な気持ちのドロプウォートは、
「いえ、これは、その……」
 そこはかとない、ゆとりを感じさせる弁解をしようとしたが、

『パストさんと、ニプルさんの分もあるよ♪ もちろんタープさんの分もね♪』

 ラディッシュの屈託ない笑顔に、パッと表情を晴れやかにするパストリス達。
 
 それとは対照的に、
(それは、まぁ、そう、でぇすわよねぇ……)
 ちょっとだけ凹み、
(今でしたら、あの時のラミィの落胆(自分だけが椅子車を貰ったと思い込んだ)が、よく分かりますわぁ)
 懐かしくもあり、少し寂しくもある過去を思い出した。

 とは言え「ラディッシュからの贈り物」であるのは疑いようもなく、
「ありがとうございますですわ、ラディ♪」
 笑顔を見せると、黒石チャームのパストリス、黄石チャームのニプル、白色チャームのターナップも、
「ありがとうでぇす!」
「嬉しいさ、ラディ!」
「いやぁ嬉しいっス、兄貴ぃ!」
 素直に喜ぶ四人であったが、

((((…………))))

 一つだけ、気掛かりな点が。
 そして四人のうち「気掛かりと最も近いニプル」が、
「なぁ、ラディ……その……」
「?」
「嬉しいんだけどさ、嬉しいんだけど……その……もしかして「四つ」だけ?」
「そう、だけど?」
「そのさ……アイツの分、は?」
「あいつ?」
「そ、その……リブロンの……アイツこの間、好きだって……」
 ライバルに、一方的に塩を送っている自覚があるが故に言い難そうに尋ねると、ラディッシュは意に介する様子も見せず、
「誤解だから「気にするな」って、本人が言いに来たよ?」

((((へ?))))

「だから下手に贈り物とかすると「勘違いキモォ!」って思われるかなぁって……」
((((…………))))
 四人が向ける物言いたげなジト目に、
「え?」
 首を傾げ、
((((…………))))
 四人には、容易に想像がついた。
 堅物なリブロンが、フルール国の最高位参謀であり実質的なナンバー2である自らの立場をわきまえ、ライバル国の勇者に「心を奪われる訳にはいかない」と考え、自ら身を引いたのを。

 それを思うと、
((((…………))))
 少し心が痛かった。
 意中の相手からの贈り物に、素直に喜んで良いのか思い惑うニプルは、おもむろラディッシュの肩にポンと手を置き、
「なぁその……」
「?」
「アイツに、美味いもので作ってくれねぇか……」
「あ、う、うん……?」
 頷きつつも、話が全く見えない元否モテ男子であった。
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