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一たび首をもたげた良心は自身の蛮行を許さず、村人たちは悔恨とも、自省ともとれる複雑な表情で黙していたが、パストリスは「今更」とも思える彼らの後悔に、軽蔑の一瞥をくれると、ラディッシュに支えられたラミウムの下に屈み、
「ラミウム様ごめんなさいでぇす……」
今にも泣き出しそうな顔して深々と頭を下げ、
「ボクの……ボクの無理なお願いのせぇいでこんな……不快な思いまでぇ……」
するとラミウムは弱弱しくも笑みを浮かべ、
「別に気にしちゃいないさぁね……」
下げられた頭を優しく撫でながら、
「アタシぁ、オマエさんの為にやったダケ……後は、知ったこっちゃナイさぁねぇ」
小さく笑うと、
「さぁて……そろそろ行こうかねぇ……」
よろめきながらもラディッシュの体を支えに、再び立ち上がろうとした刹那、
「!?」
憔悴した顔を羞恥で赤く染め、
『ばっ、ちょ! アンタは何してんだぁい!』
いきなりラディッシュに「お姫様抱っこ」されたのである。
弱っているとは言え、公衆の面前で男に抱きかかえられるなど、勝ち気な彼女にとって醜態を晒しているに等しく、
「さ、さっさとぉお降ろしぃ!」
残り少ない体力で、もがきにもがき、
「あっ、暴れないでぇよラミィ! おっ、おぉ落としちゃうからぁあぁ!」
必死に抱きかかえるラディッシュの姿は、まるで「活きカツオ」を抱える漁師。
そんな中、照れを憤慨で必死に誤魔化そうとする彼女の姿に、イタズラ心を刺激されたドロプウォートが日頃の仕返しとばかりのからかい口調で、
「ラミぃ~しっかり掴まってませんとぉ危ないですわぁよぉ~~」
「ッ!!!」
一方のパストリスは二心なく、心から落下を心配し、
「らっ、ラミウム様ぁ! 興奮しないでぇ落ち着いてぇ!」
他意無く落ち着きを促したものの、照れを誤魔化したいラミウムにとって「興奮」の一言は火に油のNGワード。
発信者と受信者の、言葉のニュアンスの違いから、
(アタシはぁ、ラディッシュに抱かれて興奮してる様に見えてんのかぃいぃ!?)
照れは最高潮に、
「降ろしやがれぇってのさぁあぁねぇええぇぇぇ!」
大きくもがいた瞬間、ラディッシュがついにバランスを崩し、
「あっ!」
落としそうに、
「ひぃ!」
自業自得なラミウムは短い悲鳴を上げ、
「「!」」
「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」
ドロプウォートやパストリス、そして「蚊帳の外」状態で傍観していた大勢の村人たちの眼前で、
(やっ……やっちまったよぉ……)
耳まで真っ赤に、火の出そうな赤面顔で恥じらうラミウム。
それがラディッシュ以外の男の場合でも同じ反応であったかは不明であるが、落とされそうになったラミウムは、落とされそうになった勢みからとは言え、男の首元に、自らの意思で抱き付いた姿を、公衆の面前で晒してしまったのである。
「「・・・・・・」」
「「「「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」」」」
異様な静けさが場を支配する中、
「…………」
周囲の反応を窺い見る事さえ出来ないラミウム。
首元に抱き付いたまま固まっていると、
「僕みたいなヘタレに抱えられるのはイヤだろうけどさ、たまには男子らしい事もさせてよ♪」
肩越しに聞こえたラディッシュの声は、周囲に漂う微妙な空気を気にも留めない、明るいモノであった。
意外な反応に、少し驚くラミウム。
元よりラディッシュにとっては、「否モテ」の自分如きが異性に抱き付かれたからと言って「ラノベ主人公的な恋愛」に発展するなど微塵も思っておらず、故に「反射的に抱き付かれた」程度の認識であり、むしろ静まり返っている周囲の理由が理解出来ずにいた。
それほど彼の自己評価が低い裏返しでもあったが、ラミウムの身を案じる想いは本物であり、ラミウムもその想いは受け止めつつ、逃げ場の無い今の彼女にとっては、その「差し障りの無い鈍感さ」は実に有難く、お茶を濁す様に、殊さら不機嫌を強調する様に、
「フン! たまの「御褒美」さぁねぇ」
平静を装い、ラディッシュの首元から両腕をほどきながら、
「ありがたく思うんだねぇ!」
腕組みして顔を背け、ご機嫌斜めをアピールして見せた。ラディッシュの腕の中で「お姫様抱っこされたまま」であるにもかかわらず。
疲弊しきっている筈なのに変わらぬ強気を見せるラミウムを、ラディッシュは安堵の混じった苦笑で小さく笑い、
「はいはい。ありがとうございましたぁ」
頷くと、
「「はい」は一回さぁね!」
「はぁ~~~い」
「伸ばすんじゃないさぁねぇ! まったくぅ」
憤慨して見せたが、二人は他愛ないやり取りを交わす自分たちを思わずプッと小さく噴き出し笑い合い、そんな二人をヤレヤレ笑いで見つめていたドロプウォートも、パストリスと共に小さく笑い合った。
「ラミウム様ごめんなさいでぇす……」
今にも泣き出しそうな顔して深々と頭を下げ、
「ボクの……ボクの無理なお願いのせぇいでこんな……不快な思いまでぇ……」
するとラミウムは弱弱しくも笑みを浮かべ、
「別に気にしちゃいないさぁね……」
下げられた頭を優しく撫でながら、
「アタシぁ、オマエさんの為にやったダケ……後は、知ったこっちゃナイさぁねぇ」
小さく笑うと、
「さぁて……そろそろ行こうかねぇ……」
よろめきながらもラディッシュの体を支えに、再び立ち上がろうとした刹那、
「!?」
憔悴した顔を羞恥で赤く染め、
『ばっ、ちょ! アンタは何してんだぁい!』
いきなりラディッシュに「お姫様抱っこ」されたのである。
弱っているとは言え、公衆の面前で男に抱きかかえられるなど、勝ち気な彼女にとって醜態を晒しているに等しく、
「さ、さっさとぉお降ろしぃ!」
残り少ない体力で、もがきにもがき、
「あっ、暴れないでぇよラミィ! おっ、おぉ落としちゃうからぁあぁ!」
必死に抱きかかえるラディッシュの姿は、まるで「活きカツオ」を抱える漁師。
そんな中、照れを憤慨で必死に誤魔化そうとする彼女の姿に、イタズラ心を刺激されたドロプウォートが日頃の仕返しとばかりのからかい口調で、
「ラミぃ~しっかり掴まってませんとぉ危ないですわぁよぉ~~」
「ッ!!!」
一方のパストリスは二心なく、心から落下を心配し、
「らっ、ラミウム様ぁ! 興奮しないでぇ落ち着いてぇ!」
他意無く落ち着きを促したものの、照れを誤魔化したいラミウムにとって「興奮」の一言は火に油のNGワード。
発信者と受信者の、言葉のニュアンスの違いから、
(アタシはぁ、ラディッシュに抱かれて興奮してる様に見えてんのかぃいぃ!?)
照れは最高潮に、
「降ろしやがれぇってのさぁあぁねぇええぇぇぇ!」
大きくもがいた瞬間、ラディッシュがついにバランスを崩し、
「あっ!」
落としそうに、
「ひぃ!」
自業自得なラミウムは短い悲鳴を上げ、
「「!」」
「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」
ドロプウォートやパストリス、そして「蚊帳の外」状態で傍観していた大勢の村人たちの眼前で、
(やっ……やっちまったよぉ……)
耳まで真っ赤に、火の出そうな赤面顔で恥じらうラミウム。
それがラディッシュ以外の男の場合でも同じ反応であったかは不明であるが、落とされそうになったラミウムは、落とされそうになった勢みからとは言え、男の首元に、自らの意思で抱き付いた姿を、公衆の面前で晒してしまったのである。
「「・・・・・・」」
「「「「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」」」」
異様な静けさが場を支配する中、
「…………」
周囲の反応を窺い見る事さえ出来ないラミウム。
首元に抱き付いたまま固まっていると、
「僕みたいなヘタレに抱えられるのはイヤだろうけどさ、たまには男子らしい事もさせてよ♪」
肩越しに聞こえたラディッシュの声は、周囲に漂う微妙な空気を気にも留めない、明るいモノであった。
意外な反応に、少し驚くラミウム。
元よりラディッシュにとっては、「否モテ」の自分如きが異性に抱き付かれたからと言って「ラノベ主人公的な恋愛」に発展するなど微塵も思っておらず、故に「反射的に抱き付かれた」程度の認識であり、むしろ静まり返っている周囲の理由が理解出来ずにいた。
それほど彼の自己評価が低い裏返しでもあったが、ラミウムの身を案じる想いは本物であり、ラミウムもその想いは受け止めつつ、逃げ場の無い今の彼女にとっては、その「差し障りの無い鈍感さ」は実に有難く、お茶を濁す様に、殊さら不機嫌を強調する様に、
「フン! たまの「御褒美」さぁねぇ」
平静を装い、ラディッシュの首元から両腕をほどきながら、
「ありがたく思うんだねぇ!」
腕組みして顔を背け、ご機嫌斜めをアピールして見せた。ラディッシュの腕の中で「お姫様抱っこされたまま」であるにもかかわらず。
疲弊しきっている筈なのに変わらぬ強気を見せるラミウムを、ラディッシュは安堵の混じった苦笑で小さく笑い、
「はいはい。ありがとうございましたぁ」
頷くと、
「「はい」は一回さぁね!」
「はぁ~~~い」
「伸ばすんじゃないさぁねぇ! まったくぅ」
憤慨して見せたが、二人は他愛ないやり取りを交わす自分たちを思わずプッと小さく噴き出し笑い合い、そんな二人をヤレヤレ笑いで見つめていたドロプウォートも、パストリスと共に小さく笑い合った。
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