ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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 しかし、

「同情でぇすかぁ!!!」

 声を荒げるパストリスと、

「何のつもりですッ、ラディ!」

 激昂するドロプウォート。
 立場の違う少女二人に同時に責められ、真っ青な怯え顔をするラディッシュであったが、怯えながらもドロプウォートを真っ直ぐ見据え、

「どっ、ドロプさん! パストリスさんをよく見てぇよ!」

 頑張って作った微笑を引きつらせながら、
「かぁ、彼女と僕達で、いったい何が違うって言うのぉ?! 上辺の情報に惑わされないでぇ、ドロプさん! ドロプさぁんだってぇ差別に苦しんで来たでしょ?!」
 冷静を促したが、

「ラディは甘過ぎるのですわ!」

 怒れるドロプウォートは一蹴し、
「現に彼女はワタクシ達を騙しましたわァ!」
 そこへパストリスも参戦、
「ドロプウォートさんの言う通りでぇす! ボクはアナタ達を騙して村へと導き! 言葉巧みに油断を誘い! 殺害した上で金品を奪う計画でした!」
 庇うラディッシュの前に出ると、ドロプウォートの剣先が届く位置に立ち、彼女の両眼を凝視し、

「ボク達は穢れた人間でぇす! なので四大貴族のアナタの手で斬り捨てて下さぁい!」

 ドロプウォートも視線を逸らす事無く、
「良い覚悟ですわァ! ワタクシも獣以外を殺めるのは初めてですが、覚悟の一刀の下に斬り伏せて差し上げますわ!」
 女子二人が余談許さぬ熱を以って対峙すると、

「そんなのダメだよぉ!!!」

 ラディッシュが再びパストリスの前に飛び出し身を挺し、
「ラミィも何か言ってよォ!」
 するとそれまで黙していたラミウムが、フッと小さく笑い、
「差別を生んだ張本人は、アタシら天世人さぁね。そのアタシに何を言えってのさ? 何を言った所で、所詮は「上っ面のキレイごと」さぁね」
 責任を放棄した、無責任ともとれる物言いに、

「そんなぁ!」

 ラディッシュが悲嘆の声を上げると、

『ありがとうございますでぇす、ラディッシュさん』

 背後から穏やかな声が。
「!」
 振り返ると、そこには命を絶たれる直前とは思えない、静穏な笑みを浮かべるパストリスの顔が。悲愴感を感じさせない笑顔のまま、
「でも、もぅ良いんでぇす。ボクは、もう生きるのに疲れたんでぇす」
「そんな……」
「裏切り者の烙印を押されたボクの父さんは、ある日突然帰って来なくなりました……たぶん村長の命令で、村の誰かに殺されたんでぇす……」
「…………」
「母さんも心労で命を落とし、ボクはずっと、ずぅ~っと一人で生きて来ました。話す相手も居なくて……本当に寂しかったなぁ……」
 穏やかな笑みは崩さず、目元に薄っすら涙を浮かべ、
「今回の計画は、仲間になると誓って自ら志願したんですよ、ラディッシュさん」
「えっ!?」
「……でもまさか、父さんの言いつけを破って犯罪に加担したその日の標的が、天世様一行だなんてぇ……まさに天罰でぇすね」
 パストリスは自嘲しながら涙ながらにラディッシュを見つめ、
「でも結局、ボクも父さんと同じで悪党には成り切れず、村を裏切ってしまった……」
「…………」
「例え皆さんが許してくれたとしても、村の皆はボクを許さないでしょう」
 自嘲は冷笑へと変わり、
「村の近くにある、生き物を襲う木を見ましたか?」
「え? あ、うん……」
「あれは村長が作った「処刑場」なんでぇす」

「!?」

「裏切りを考える者に対する「見せしめ」の為の。ボクは、あんな物に辱めを受けて最期を迎えたくないんでぇす」
 パストリスは再びドロプウォートの前に静かに歩み出て、
「なので、せめて人の手で(命を)終らせて下さぁい」
「分かりましたわ」
 ドロプウォートは凛然とした表情で頷くと、剣を鞘から抜き出したが、

『みんな、どうかしてるよぉ!』

 ラディッシュが珍しくも怒りを露わに、
「どうして生きる選択肢を探さないのさァ!」
「「「…………」」」
「生きたいのに生きられなかった人達が沢山いる世の中で! なんで「自ら死ぬ」選択肢か「殺し合う」選択肢しか選ばないんだよォ!  僕達が今、こうして生きていられる事は「奇跡の積み重ねの結果」なんじゃないのォ!」
 四人がそれぞれの立場から思いをぶつけ合うさ中、村では総力挙げての汚染獣退治が行われていた。

 武器と呼ぶにはあまりに脆弱な農具を各々手に、傷だらけになりながら肩で息を切る村人たち。
 やがて断末魔の叫びとは程遠い、

「グォガ……」

 最期の一声をチカラ無く上げ、ドサリと横倒れる熊の様な汚染獣。
「やった……」
 村長たちは汚染獣の村への侵入を食い止める事に、辛くも成功したのである。
 喜びの歓喜の声も無く、その場に座り込む村人たち。
 満身創痍の姿からも、死闘であった事が容易に窺える。

 武器代わりの農具をつっかえ棒に疲れ切った体を支え、絶命した汚染獣を取り囲み、
「手こずらせやがってぇ! クソがぁ!」
「たったの一匹に、いったい何人の犠牲者が出たんだ!」
「しかも村の近くに出るなんて、今まで無かったのに!」
「何かの前触れかぁよ!」
 唾棄する様に悪態をつき、見おろしていると、

『ふむふむ、地世のチカラを強制的に侵食させても、ケモノでは所詮この程度なんですよねぇ~』

 仲間内から突如上がった素っ頓狂な声に、
「「「「「「「「「「?」」」」」」」」」」
 違和感を感じて振り向いた村長たちは、

「「「「「「「「「「うわぁ!」」」」」」」」」」

 思わず大きく飛び退いた。
 そこには、いつから輪に混じっていたのか、深夜の森の中で頭から黒ローブをスッポリ被り、顔も見えない何者かが屈んで、絶命した汚染獣の頭を手にした枝でツンツン突いていたのである。
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
 謎の人物の奇行と風体に、得も言われぬ薄気味悪さを感じる村長たち。

 闘技場での騒ぎを知らない彼らが知る由も無い話ではあるが、異質な風貌に加えて特徴的な声と口調から、ラディッシュ達が飛ばされる原因を作った地世信奉者と同一人物のようである。
 何者であるかを知らない村長たちではあったが、身なりと言動から、直感的に嫌悪を抱き、

「真夜中の森ん中で何してやがんだ気持ち悪りぃ!」

 まるで異物を見る様な眼で、
「オメェは、いったい何者だぁ?!」
 今更お行儀良く取り繕ったところで性根はバレバレなので素のまま毒づいたが、黒ローブはさして気にする風も無く、
「あぁ~お気になさらないで下さいですよねぇ~」
 呑気にケラケラ笑い出し、

「私は単なる、通り掛かりの「地世の導師」なのですよねぇ~」
「「「「「「「「「「地世の導師だぁあぁ?!」」」」」」」」」」

 嫌悪を増し、どよめく村長たち。
 地世の導師とは、地世信奉者たちのリーダー的存在であり、自分たちを有無を言わさず排除する中世の人々とは一線を画す存在ではあったものの、望まず地世のチカラに侵食されて「妖人」となった村人たちにとって、自ら望んで中世を脅かす「地世のチカラ」に染まった地世信奉者たちや、彼らを主導する立場にある導師は仇視の対象であった。

 妖人らとて、好き好んで悪事を働いている訳ではない。全ては生きる為であり、世が世なら、平穏な暮らしを送りたいと願っているのである。

 村長は不愉快から顔をしかめ、
「地世のチカラを求めて浮世との関係を絶った導師が、ウチの村に何の用だ! よもや報奨金目当てに「この村の存在」を国に売るつもりじゃあるめぇなァ!」
 凄んで見せると村人たちも農具を手に身構えたが、導師を名乗る黒ローブはケラケラ笑い、
「そんな面白くない事はしませんよねぇ~」
「んだとぉ? ナラァ何しに来やがった!」
「ふむぅ、そうですよねぇ~~~?」
 しばし考え込むとハタと何か思い付き、

「言うなら「実験」ですよねぇ~」

「実験だぁ???」
「ですですよねぇ~」
「オメェは何を言って、」
 あしらわれたと思った村長は食って掛かろうとしたが、
「…………」
 ふと、先に導師が口にした言葉を思い出し、

「そう言やぁオメェ「強制的に地世のチカラを」とか何とか……まっ、まさかぁ?!」

 慄く村長を前に、

「御名答ぉおぉぉぉ!」

 フードの下から僅かに覗く口元が不気味に歪み、

「でぇもコレは余興ぉなんですよねぇ~! 本命はこれから始まる、貴方たち妖人の命を使った「人体実験」なんですよねぇ~!」
「「「「「「「「「「なっ!」」」」」」」」」」

 導師が放つ底知れぬ闇の気配に、戦慄が走る。

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