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後日――
些か緊張した面持ちで、姿勢良く切り株に座るラディッシュと、その前には差し棒代わりの小枝を手にした「ラミウム先生」の姿が。
教師にでも成り切っているのか、いつものガラッパチは鳴りを潜め、満更でもなさげな上品を気取った表情でコホンと小さく咳払いを一つすると、
「良いかぁい、ラディ。まずはアンタに、この世界について教えといてやるよ」
穏やかを演じた口調に対し、
(今日の晩御飯の下ごしらえが終わってないんだけどなぁ……)
「なんか言ったかァい!」
上の空を、毎度の「キレ顔」でツッコまれ、
「なっ、何でもありましぇん!」
条件反射的にピンと背筋を伸ばして立ち上がり、
「サァー! イエスマァムぅ!」
軍隊式で敬礼。
そんなラディッシュは、
「はぁ? 何だぁいそりゃ??」
呆れ交じりの冷静なツッコミを入れられ、
「へ?」
(何コレ?)
むしろキョトン顔。
自らやっておいて不思議そうに首を傾げる姿に、
(また、アッチの世界(地球)の記憶の断片ってヤツかねぇ……やはりアタシの……)
消したはずの記憶が度々顔を出す事に、ラミウムは「とある懸念」を抱いたが、今は一先ずそれは横に置き、
「ドロプ」
「?」
「アンタの知らない話があるかも知れないからねぇ、一応聞いときなぁね」
「…………」
(この世界の住人である私に、この世界における一般常識などを聞かされましても……)
些か不服に思うドロプウォートであったが、天世人による直接講義など本来は皆無であり、そう考えると不平よりも好奇が勝り、
「分かりましたわ」
頷くと、ラディッシュの隣に着席した。
するとラミウムが自嘲気味な笑みを浮かべて開口一番、
「と、まぁ偉そうに言っちゃぁいるがねぇ、アタシも天世人になって、天世で聞かされた話をするってぇだけで、どこまで本当の話かなんてぇ分かりゃしないけどねぇ」
「ん?」
(どう言う意味だろ???)
頭上に「大きなハテナマーク」を立てた顔するラディッシュ。
その間の抜けたような表情から、疑問を察したラミウムは、
「そう言やぁアンタに話して無かったねぇ~」
自身の失念をケラケラと笑い、
「アタシぁ元々、中世の人間なのさぁね」
「へぇ?!」
新たに知る、意外な事実。
驚くラディッシュの傍ら、この世界では子供でも知る常識なのか、ドロプウォートがさも当然と言った口ぶりで、
「ですから「この様な品」であるにもかかわらず、身近に感じ、熱心な「信者」までおりますのよ」
「あぁん? 「この様な品」ってのは、どう言う意味さぁねぇ?」
訝し気な顔に、
「さぁ~?」
軽やかに笑って受け流していると、頭の整理が追い付かないラディッシュが、
「信者? だってぇ前にラミィが「自分は女神じゃない」って……え?? えぇ???」
戸惑いを隠せずにいると、何故か決まりが悪そうなラミウムに代わって、そんな彼女をクスッと小さく笑うドロプウォートが代弁する様に、
「ラミィは天世人の中でも、中世人の信仰対象となる、「選ばれし百人の天世人」の御一人なのですわぁ」
「えぇ!? 嘘ぉ?! 凄ぉ! だって天世の人達だって沢山いるんだよねぇ? その中での百人の一人って言う事は、ラミィって実は超優秀なのぉ!!!?」
称賛を以って驚くラディッシュに、ラミウムはほんのり照れを滲ませ、
「ナハハハハ、んなぁ大仰なモンじゃないさぁね」
珍しく謙遜して見せたが、
(!)
ラディッシュは見逃さなかった。笑顔の奥に潜む「微かな陰り」を。
それは人の顔色ばかり窺う、気弱な彼の悪癖ゆえに成せた業か。
(何でだろう……いつもみたいに笑ってない、気がする……そぅ言えば前にも……)
他の天世人の話をした時に感じた違和感を思い出していたが、よもや心の奥底にしまい込んだ「闇の断片」を悟られているとは露知らず、ラミウムは照れ臭そうに笑いながら、
「信仰対象なんてガラじゃないと、アタシ自身が一番思ってるさぁね。何の因果か、天世になったアタシが百人の一人に選ばれて……って、アタシの話はイイのさぁねぇ!」
取り繕った様子で思い直し、
「今は、この世界の話さぁね!」
心の内の一部を吐露してしまった自身を小さく笑ったが、
「っと、その前に」
一呼吸置くと、
「ラディ、ドロプ、イイかいよくお聞き」
「「?」」
念押しする様に前置きしてから、
「これから聞かせる話は、あくまで天世で教えられた、天世側から見た「一方的な話」さぁね。だから軽々しく鵜呑みにスンじゃないよ」
「…………」
(どうしてそこまで……)
物言いたげな表情で見つめるラディッシュに、
「ん? どぅしたぁい、ラディ?」
「ねぇ、ラミィ……」
「おぉん?」
「ラミィは、何でそこまで天世を疑うの?」
「…………」
「だって、天世ってぇ「中世を護ってる世界」なんでしょ?」
するとドロプウォートも同じ印象を抱いていたのか、
「それについては私も興味がありますわぁ」
向けられた二つの無垢な瞳に思わず、
「そ……」
一瞬、何かを言いかけたラミウム。
些か緊張した面持ちで、姿勢良く切り株に座るラディッシュと、その前には差し棒代わりの小枝を手にした「ラミウム先生」の姿が。
教師にでも成り切っているのか、いつものガラッパチは鳴りを潜め、満更でもなさげな上品を気取った表情でコホンと小さく咳払いを一つすると、
「良いかぁい、ラディ。まずはアンタに、この世界について教えといてやるよ」
穏やかを演じた口調に対し、
(今日の晩御飯の下ごしらえが終わってないんだけどなぁ……)
「なんか言ったかァい!」
上の空を、毎度の「キレ顔」でツッコまれ、
「なっ、何でもありましぇん!」
条件反射的にピンと背筋を伸ばして立ち上がり、
「サァー! イエスマァムぅ!」
軍隊式で敬礼。
そんなラディッシュは、
「はぁ? 何だぁいそりゃ??」
呆れ交じりの冷静なツッコミを入れられ、
「へ?」
(何コレ?)
むしろキョトン顔。
自らやっておいて不思議そうに首を傾げる姿に、
(また、アッチの世界(地球)の記憶の断片ってヤツかねぇ……やはりアタシの……)
消したはずの記憶が度々顔を出す事に、ラミウムは「とある懸念」を抱いたが、今は一先ずそれは横に置き、
「ドロプ」
「?」
「アンタの知らない話があるかも知れないからねぇ、一応聞いときなぁね」
「…………」
(この世界の住人である私に、この世界における一般常識などを聞かされましても……)
些か不服に思うドロプウォートであったが、天世人による直接講義など本来は皆無であり、そう考えると不平よりも好奇が勝り、
「分かりましたわ」
頷くと、ラディッシュの隣に着席した。
するとラミウムが自嘲気味な笑みを浮かべて開口一番、
「と、まぁ偉そうに言っちゃぁいるがねぇ、アタシも天世人になって、天世で聞かされた話をするってぇだけで、どこまで本当の話かなんてぇ分かりゃしないけどねぇ」
「ん?」
(どう言う意味だろ???)
頭上に「大きなハテナマーク」を立てた顔するラディッシュ。
その間の抜けたような表情から、疑問を察したラミウムは、
「そう言やぁアンタに話して無かったねぇ~」
自身の失念をケラケラと笑い、
「アタシぁ元々、中世の人間なのさぁね」
「へぇ?!」
新たに知る、意外な事実。
驚くラディッシュの傍ら、この世界では子供でも知る常識なのか、ドロプウォートがさも当然と言った口ぶりで、
「ですから「この様な品」であるにもかかわらず、身近に感じ、熱心な「信者」までおりますのよ」
「あぁん? 「この様な品」ってのは、どう言う意味さぁねぇ?」
訝し気な顔に、
「さぁ~?」
軽やかに笑って受け流していると、頭の整理が追い付かないラディッシュが、
「信者? だってぇ前にラミィが「自分は女神じゃない」って……え?? えぇ???」
戸惑いを隠せずにいると、何故か決まりが悪そうなラミウムに代わって、そんな彼女をクスッと小さく笑うドロプウォートが代弁する様に、
「ラミィは天世人の中でも、中世人の信仰対象となる、「選ばれし百人の天世人」の御一人なのですわぁ」
「えぇ!? 嘘ぉ?! 凄ぉ! だって天世の人達だって沢山いるんだよねぇ? その中での百人の一人って言う事は、ラミィって実は超優秀なのぉ!!!?」
称賛を以って驚くラディッシュに、ラミウムはほんのり照れを滲ませ、
「ナハハハハ、んなぁ大仰なモンじゃないさぁね」
珍しく謙遜して見せたが、
(!)
ラディッシュは見逃さなかった。笑顔の奥に潜む「微かな陰り」を。
それは人の顔色ばかり窺う、気弱な彼の悪癖ゆえに成せた業か。
(何でだろう……いつもみたいに笑ってない、気がする……そぅ言えば前にも……)
他の天世人の話をした時に感じた違和感を思い出していたが、よもや心の奥底にしまい込んだ「闇の断片」を悟られているとは露知らず、ラミウムは照れ臭そうに笑いながら、
「信仰対象なんてガラじゃないと、アタシ自身が一番思ってるさぁね。何の因果か、天世になったアタシが百人の一人に選ばれて……って、アタシの話はイイのさぁねぇ!」
取り繕った様子で思い直し、
「今は、この世界の話さぁね!」
心の内の一部を吐露してしまった自身を小さく笑ったが、
「っと、その前に」
一呼吸置くと、
「ラディ、ドロプ、イイかいよくお聞き」
「「?」」
念押しする様に前置きしてから、
「これから聞かせる話は、あくまで天世で教えられた、天世側から見た「一方的な話」さぁね。だから軽々しく鵜呑みにスンじゃないよ」
「…………」
(どうしてそこまで……)
物言いたげな表情で見つめるラディッシュに、
「ん? どぅしたぁい、ラディ?」
「ねぇ、ラミィ……」
「おぉん?」
「ラミィは、何でそこまで天世を疑うの?」
「…………」
「だって、天世ってぇ「中世を護ってる世界」なんでしょ?」
するとドロプウォートも同じ印象を抱いていたのか、
「それについては私も興味がありますわぁ」
向けられた二つの無垢な瞳に思わず、
「そ……」
一瞬、何かを言いかけたラミウム。
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