悪役令嬢は推しのために命もかける〜婚約者の王子様? どうぞどうぞヒロインとお幸せに!〜

桃月とと

文字の大きさ
9 / 163
第一部 悪役令嬢の幼少期

8 取引き-1

しおりを挟む
「大人気ないと思わなかったの!?」

 昨晩はルカが来る前にぐっすりと眠ってしまっていた。レオハルトとの対面はそれなりに疲れる出来事だったようだ。様子を見にきてくれたルカに正直に昨日のことを話すと、朝から叱られる羽目になってしまった。

「僕言ったよね? 相手は十歳って言ったよね?」
「言いました……」

 ベッドの上で正座する形になっている。

「第一王子を泣かせるなんて……大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないと困る……」

 二人でため息をついた。

「第一王子は誇り高い人だから、自分が泣いたことを周囲にバラすようなことはしないと思うけど……はあ……僕は次どんな顔して会えばいいんだ……」
「ご迷惑おかけします……」

 ルカの視線が痛い。私もやりすぎたと反省はしている。作中のリディアナがレオハルトに受けた仕打ちを思い出して少し強く当たりすぎてしまった。私が物語のリディアナとは違う様に、レオハルトも物語のレオハルトとはまだ別物なのだ。そこはきちんと考慮しなければならなかった。

「いやでもあいつのこれまでのクソみたいな態度、わざとだったからね!?」
「リディアナ~~~ッ!」

 本格的にルカを怒らせてしまったちょうどその時、エリザが部屋へ入ってきた。

「失礼いたします。こちらを」

 綺麗に装飾された封筒を渡される。

「げっ!」
「殿下からじゃないか」

 昨日今日で早すぎじゃない?

(果たし状だったらどうしよう)

「果たし状だったりして」

 さすが双子、同じことを考えていた。思わず苦笑いになる。

「それから、サーシャ様がお呼びです」

 昨日のあのお付き、引っ込んでもらった別室でワーワーと騒いでいたようで、婚約破棄についてはすでに屋敷内の全ての人が知ることとなっていた。ちょうどいい、こちらも聞きたいことがある。

「お戻りになったんだね!」
「昨夜遅くにお戻りになられました」

 ルカは嬉しそうだ。機嫌が戻ってよかった。母は元々忙しい人だったが、ここ数週間の忙しさはその比ではない。その前は私達の治療で休む暇などなかったようだし……体調が心配だ。

「これを読んだらすぐに向かうわ」

 手紙の内容は簡単なものだった。

「また明日くるって……」
「何しに?」
「『建設的』な話がしたいんだって」

 十歳児がこんな難しい言葉使っちゃて。張り合ってこようとしているのがわかる。しかし面倒くさいな……婚約破棄があっさりできない以上、今のレオハルトに用はないのだ。これは断れないだろうか。ダメなんだろうな……相手は腐っても第一王子だ。

◇◇◇

 執務室の机の上に書類と思われる紙の束が山のようになっている。その間から顔を覗かせた母はすぐにこちらに駆け寄ってきた。

「リディ!……リディごめんなさいね……私のせいで……」

 強く抱きしめられる。王子相手に一方的に婚約破棄を告げたことを怒られるかと思っていたので正直拍子抜けだった。

「お母様……勝手をしてしまって申し訳ありませんでした」

 母の腕の中で謝る。私のしおらしい態度に何か勘違いをしたようだった。母の怒りが加速し始めたのを感じた。

「あの婚約式の時にハッキリしておくべきだったわ!……あの温厚なロイが怒ってたくらいよ!」

 徐々に声が大きくなっている。見上げると母の顔が怒りの表情でいっぱいになっていた。ついでに抱きしめている腕にも力が入りギリギリと締め付けられる。

「あのガキ! 調子にのってリディを蔑ろにするなんて!誰のおかげで安全に宮中で暮らせてると思ってるのかしら!」
「お母様どうか落ち着いて……」

 あまりの怒りにこちらが震え上がる。なんという迫力だろうか。流石、名門貴族家の当主である。ていうか大丈夫!? 今の発言、誰かに聞かれたらマズイよね!?

「お母様、殿下から婚約破棄をすると我が家も困ると……。その理由を教えていただけますか?」

 母は紅茶を飲んでようやく少し落ち着いたようだった。顔色を伺いながらそっと聞く。

「……私が治癒師以外がおこなう医療活動に力を入れているのは知っているわね」
「はい」

 それは、今世での記憶でなく前世での知識があったからこそ知っているのだけれど。

「我が国では昔から、医療と言えば治癒師による治療を指すわ。他国と違って魔術以外で人を治すすべがほとんどないと言ってもいいくらいよ」
「他国には今、強力な治癒師がほとんどいないと聞きした」
「そうよ。だけど今後、うちもそうなるわ」

 確信を持った顔だ。確かに現状を見ればそうだろう。魔力量の多いものが感染する氷石病の流行は止めることができた。だけど世代を重ねるごとに進んでいる魔力量減少を止めることはできない。いつかはこの国もそうなる。

「魔術師がいない世界……」
「極端に言えばそうね」

 少し困ったような顔になった。その世界を私は知っている。

「あなたも知ってる通り、治癒師の価値は年々上がってきているわ。質は下がっても母数が減っているから」
「すでに一部の人しか治癒師による治療は受けられていないですよね」
「そう。金持ちしかね」

 母は自嘲気味に笑う。

「私ね、昔あなたのお爺様に反発して家出をしたの。冒険者の真似事をして暮らしてたのよ」

 その話は聞いたことがある。母がとても楽しそうに、嬉しそうに語っていた。生まれてからずっとお嬢様暮らしの私には到底信じられない世界だったのを覚えている。

「結局この身分に守られて大した怖い目にも合うこともなく、ただの旅行のような形で終わってしまったけど。それでも屋敷の図書室にいるよりも色んなことを知ることができたわ」

 あなたのお父様にも会えたしね。と付け足す。

「私の手の届かないところで沢山の人が治癒師を……医療を求めていることを知ったの」

 悲しい出来ことを思い出したのか、カップの底をじっと見つめている。いつも明るい母の目の陰りを見て、それが母にとってとても重要なことだとわかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

処理中です...