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第7章 世界は変化する
第3話 瞬間移動
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大雪が収まった頃、蒼達はユートレイナを旅立った。ちょうど蒼の加護の貸し出し期間も終わり、約束通りライルも一緒だ。彼は十分に人体実験を堪能したようだった。
「足を引っ張らないでくれたまえ」
「移動に関してはご心配いただかなくとも大丈夫です」
彼は自分に不足しているものをよく知っていた。戦闘力と生活能力のなさだ。
オルフェはまだ少しばかりライルに張り合っているが、ライルの方は相手にしていないので特に問題はなかった。
「天空都市があるなら海底都市もあるのねぇ……」
次の目的地は海底都市アクアネオン。そこに二代目ライル・エリクシアが作ったとある魔法道具があるはずなのだ。
海底都市と聞いて蒼がすぐさま思い浮かんだのは、
『竜宮城!? いや、アトランティスか!?』
もちろんアルフレド他メンバーは何それと首を傾げるだけだ。
『蒼の世界にも海底都市があるんだ』
アルフレドもアクアネオンには行ったことがない。
『いや、御伽話の領域なんだけどね……』
『でも、空の上には行っているんですよね?』
レーベンは宇宙の話にいつも興味津々だった。空の上に行けるのなら、海の底に街くらい築けるのではと思ったのだ。
『ホントねぇ~違う難しさがあるのかな?』
そんな会話をライルはいつもの澄ました顔で観察している。時間があれば天文学も極めて見たい、おそらく思っている。
さてその海底都市、実は現在通行止めだ。
「というより、ここ三百年くらい誰もその街に住んでいないんだ」
「廃墟ってこと!?」
だからアルフレドも行ったことはなかった。単純に辿り着けないのだ。海底都市に繋がるトンネルが、魔物によって潰されており、現在の技術では到底修復できないので、実質街としては滅んでいるとされていた。
「海の中に沈んではいません。天空都市と同じようにドーム型の空間で守られているので、街自体は無事です」
辿り着けばなんとでもなります、と。
「えーっと……どうやってその街に入るの?」
「抜け道があるんです」
なんのことはない。とライルは簡単に言う。
「ただその抜け道の先が今現在瘴気だらけの魔物生息地帯になってるんですよね」
このセリフを同じテンションで言うあたりがライルである。
「浄化作業もできて目的地へも行ける。一石二鳥と思いましょ」
そのルートしかないのならそうするしかないと蒼は諦め半分、海底都市への興味半分といったところだ。
「正気かね!?」
相変わらず批判的だが、オルフェはこの旅にもついてくる。
『君達だけじゃあ心配だからね。なぁに、一段落したら私はユートレイナに戻って舞台俳優をやるつもりだ……いや違う。別に君達がセレーニアへ行く予定があるからじゃあない! ちょっとそこ! ニヤニヤしない!』
ということである。
「アクアネオンってかなり遠いのね」
レーベンが持っている地図を全員が覗き込んでいる。かなり古いものだが、地形が思いっきり変わっていることはないだろうし、なにより古い地図の方が正確な可能性があるというのがこの世界の特徴でもある。
アクアネオンは今いるユートレイナからかなり南下する必要があった。馬を使って移動しても半年はかかるんじゃないかという距離だ。
「道のりはなかなか遠いですね」
「そう簡単には魔王攻略はできないと言うことだろう」
「千里の道も一歩からってやつね」
「センリ……?」
ライル以外は地道に行くかと気合を入れていた。
「まだ雪が残っているから山越はやめておこう。遠回りだけどこっちの道で迂回して……」
そうアルフレドが計画を立て始めると、
「いえ、とりあえずあの山の麓を目指してもらえますか。転移装置があるので」
「……へ? 転移装置って……あの? 聖水を転移する?」
「ああそういえばご存知でしたね。二代目のライル・エリクシアが作ったんですよ。人の移動も可能な転移装置を。それでアクアネオンの抜け道の近くまでは行けます」
これまた平坦な口調で言うので、蒼達は自分達がどう反応してもいいものかわからなくなった。オルフェを除いて。
「き、君! そういうことはまず最初に周知してもらいたい! 三百年前暮らしていた私ですら知らない情報だぞ!?」
「失礼。しかし何百年も人には教えていない情報なのでご存知ないのも無理はないでしょう。私も、今の身体で使うのも初めてですし。すこしワクワクします」
その転移装置は、ユートレイナのエレベーターのカプセルと形状が似ていた。山道の途中にある大きな木のうろの中に入り口が隠されており、中に入ると殺風景な空間にカプセルが二重になって置かれてある。カプセルとカプセルの間には水が——聖水が溜めてあった。
(聖水が転移できる作用を使うのかな?)
魔法道具など蒼は全くの門外漢ではあるが、彼女なりに仕組みを想像する。
カプセルの中はそれほど広くはなく、全員入るとギュウギュウだった。
「……誰か遠慮してアオイさんの鍵の中に入ってくれてもいいんですが」
久しぶりに不機嫌オーラをライルが出している。全員、ちょっと怖いと思いながらも転移装置に乗ってみたかったので、聞こえないふりをしていた。蒼は久しぶりにアルフレドの胸板の中だが、ただひたすら押し付けられて相変わらずドキドキとは無縁のシュチュエーション。カプセルの周辺が聖水で満たされていくのを眺めていた。
(車を洗車している時みたい……)
なんてことを思い出しながら。
転移は本当に一瞬だった。一瞬の瞬きの後、目の前にあったはずの聖水が消えている。
「もう着いたの!?」
「転移ですから」
(瞬間移動って呼んだ方がしっくりくるわ)
カプセルを出た先も元いたところと似たような殺風景な空間。ライルとほんの数人しか利用していない、当時としても秘密の装置だったのだ。
「神聖な聖水をこんなことに使うなんて! という声がなかったわけではないんですよ」
「そういえば初代ライルさんの日記にも、魔法道具の新開発は周囲の理解がないとうまく進まないって書いてましたね」
「急激な変化というのはどうしても不安が伴いますから」
しかたがないのです。と言いたげな今回のライル・エリクシアは、初代のように恨み言を吐き出す気はないようだった。記憶を引き継いでいても全く同じ人間ではないのだ。
蒼とフィア、そしてオルフェ以外は、瘴気用マスクを装着し外に出る。
「うわ~~~これはキッツイな」
周囲はどっぷりとした瘴気に満ちていた。蒼は思いっきり顔をしかめている。
「さっそくやりましょう!」
やる気に満ちたレーベンが早速消火器のようなサイズの浄化器を使い聖水を周辺に撒く。一瞬で空気は正常になった。
「すごーい!」
もちろんこれはライルが作ったものだ。レーベンはいつもは後方支援どころか、こういう時は奥に押し込められてしまうので役割があって嬉しいくてたまらない。
「オルフェさんも!」
「お……あ、そうだな」
ハイテンションなレーベンにあてられて、オルフェは素直にグリフォンに姿を変え、こちらは上空から広範囲に聖水を散布した。
そうすると驚くのは魔物達だ。住みよい環境が急に破壊されたのだから。大慌てで元凶へやってくるも、大鹿のツノで作られた剣を持つ戦士の末裔を前になす術はない。弟の方も積極的に狩りに出て圧倒していた。もはやただの作業のように、どんどんと浄化は進んで行った。
「天空都市と同じように海底都市の側にも別の大きな街が出来ていたんです。こちらはやはり、海底都市が閉鎖された原因となった魔物の侵攻によって破壊され尽くされそのまま放棄されました」
浄化作業中、ライルと蒼は長らく使われていなかった抜け道の場所をライルの記憶を頼りに探している。
「魔法陣のような文字が刻まれているって……」
「大きな岩が目印です」
周辺の環境が三百年で様変わりしているので、ライルの記憶だけではなかなか見つからない。蒼の方はしらみつぶしに岩という岩の表面を目を凝らして確認する。
「あ!」
崩れた岩のかけらにそれらしき文字が刻まれていた。
「ライルさん!」
「ああ、これですこれです。この辺りですね」
ライルが持っていた懐中電灯のような照明を地面にあてると、魔法陣がうっすらと浮かび上がってくる。
「皆さん。こちらへどうぞ」
「みんな~~~~~~あったよ~~~~~~!!!」
通常の音量で集合をかけるライルの声に続いて、蒼は大声で呼びかけた。
周辺はすでに雑草を刈り取った空き地のようにスッキリさっぱりなっている。
「ここからですか?」
レーベンはまた不思議そうに文字が浮かび上がる地面を見ていた。なにか入り口のようなものがあると思っていたのだ。
「ええ。では皆さん、足元にお気をつけて」
「え?」
一瞬の光を上げて、蒼の下にあった地面が急に姿を消した。
「足を引っ張らないでくれたまえ」
「移動に関してはご心配いただかなくとも大丈夫です」
彼は自分に不足しているものをよく知っていた。戦闘力と生活能力のなさだ。
オルフェはまだ少しばかりライルに張り合っているが、ライルの方は相手にしていないので特に問題はなかった。
「天空都市があるなら海底都市もあるのねぇ……」
次の目的地は海底都市アクアネオン。そこに二代目ライル・エリクシアが作ったとある魔法道具があるはずなのだ。
海底都市と聞いて蒼がすぐさま思い浮かんだのは、
『竜宮城!? いや、アトランティスか!?』
もちろんアルフレド他メンバーは何それと首を傾げるだけだ。
『蒼の世界にも海底都市があるんだ』
アルフレドもアクアネオンには行ったことがない。
『いや、御伽話の領域なんだけどね……』
『でも、空の上には行っているんですよね?』
レーベンは宇宙の話にいつも興味津々だった。空の上に行けるのなら、海の底に街くらい築けるのではと思ったのだ。
『ホントねぇ~違う難しさがあるのかな?』
そんな会話をライルはいつもの澄ました顔で観察している。時間があれば天文学も極めて見たい、おそらく思っている。
さてその海底都市、実は現在通行止めだ。
「というより、ここ三百年くらい誰もその街に住んでいないんだ」
「廃墟ってこと!?」
だからアルフレドも行ったことはなかった。単純に辿り着けないのだ。海底都市に繋がるトンネルが、魔物によって潰されており、現在の技術では到底修復できないので、実質街としては滅んでいるとされていた。
「海の中に沈んではいません。天空都市と同じようにドーム型の空間で守られているので、街自体は無事です」
辿り着けばなんとでもなります、と。
「えーっと……どうやってその街に入るの?」
「抜け道があるんです」
なんのことはない。とライルは簡単に言う。
「ただその抜け道の先が今現在瘴気だらけの魔物生息地帯になってるんですよね」
このセリフを同じテンションで言うあたりがライルである。
「浄化作業もできて目的地へも行ける。一石二鳥と思いましょ」
そのルートしかないのならそうするしかないと蒼は諦め半分、海底都市への興味半分といったところだ。
「正気かね!?」
相変わらず批判的だが、オルフェはこの旅にもついてくる。
『君達だけじゃあ心配だからね。なぁに、一段落したら私はユートレイナに戻って舞台俳優をやるつもりだ……いや違う。別に君達がセレーニアへ行く予定があるからじゃあない! ちょっとそこ! ニヤニヤしない!』
ということである。
「アクアネオンってかなり遠いのね」
レーベンが持っている地図を全員が覗き込んでいる。かなり古いものだが、地形が思いっきり変わっていることはないだろうし、なにより古い地図の方が正確な可能性があるというのがこの世界の特徴でもある。
アクアネオンは今いるユートレイナからかなり南下する必要があった。馬を使って移動しても半年はかかるんじゃないかという距離だ。
「道のりはなかなか遠いですね」
「そう簡単には魔王攻略はできないと言うことだろう」
「千里の道も一歩からってやつね」
「センリ……?」
ライル以外は地道に行くかと気合を入れていた。
「まだ雪が残っているから山越はやめておこう。遠回りだけどこっちの道で迂回して……」
そうアルフレドが計画を立て始めると、
「いえ、とりあえずあの山の麓を目指してもらえますか。転移装置があるので」
「……へ? 転移装置って……あの? 聖水を転移する?」
「ああそういえばご存知でしたね。二代目のライル・エリクシアが作ったんですよ。人の移動も可能な転移装置を。それでアクアネオンの抜け道の近くまでは行けます」
これまた平坦な口調で言うので、蒼達は自分達がどう反応してもいいものかわからなくなった。オルフェを除いて。
「き、君! そういうことはまず最初に周知してもらいたい! 三百年前暮らしていた私ですら知らない情報だぞ!?」
「失礼。しかし何百年も人には教えていない情報なのでご存知ないのも無理はないでしょう。私も、今の身体で使うのも初めてですし。すこしワクワクします」
その転移装置は、ユートレイナのエレベーターのカプセルと形状が似ていた。山道の途中にある大きな木のうろの中に入り口が隠されており、中に入ると殺風景な空間にカプセルが二重になって置かれてある。カプセルとカプセルの間には水が——聖水が溜めてあった。
(聖水が転移できる作用を使うのかな?)
魔法道具など蒼は全くの門外漢ではあるが、彼女なりに仕組みを想像する。
カプセルの中はそれほど広くはなく、全員入るとギュウギュウだった。
「……誰か遠慮してアオイさんの鍵の中に入ってくれてもいいんですが」
久しぶりに不機嫌オーラをライルが出している。全員、ちょっと怖いと思いながらも転移装置に乗ってみたかったので、聞こえないふりをしていた。蒼は久しぶりにアルフレドの胸板の中だが、ただひたすら押し付けられて相変わらずドキドキとは無縁のシュチュエーション。カプセルの周辺が聖水で満たされていくのを眺めていた。
(車を洗車している時みたい……)
なんてことを思い出しながら。
転移は本当に一瞬だった。一瞬の瞬きの後、目の前にあったはずの聖水が消えている。
「もう着いたの!?」
「転移ですから」
(瞬間移動って呼んだ方がしっくりくるわ)
カプセルを出た先も元いたところと似たような殺風景な空間。ライルとほんの数人しか利用していない、当時としても秘密の装置だったのだ。
「神聖な聖水をこんなことに使うなんて! という声がなかったわけではないんですよ」
「そういえば初代ライルさんの日記にも、魔法道具の新開発は周囲の理解がないとうまく進まないって書いてましたね」
「急激な変化というのはどうしても不安が伴いますから」
しかたがないのです。と言いたげな今回のライル・エリクシアは、初代のように恨み言を吐き出す気はないようだった。記憶を引き継いでいても全く同じ人間ではないのだ。
蒼とフィア、そしてオルフェ以外は、瘴気用マスクを装着し外に出る。
「うわ~~~これはキッツイな」
周囲はどっぷりとした瘴気に満ちていた。蒼は思いっきり顔をしかめている。
「さっそくやりましょう!」
やる気に満ちたレーベンが早速消火器のようなサイズの浄化器を使い聖水を周辺に撒く。一瞬で空気は正常になった。
「すごーい!」
もちろんこれはライルが作ったものだ。レーベンはいつもは後方支援どころか、こういう時は奥に押し込められてしまうので役割があって嬉しいくてたまらない。
「オルフェさんも!」
「お……あ、そうだな」
ハイテンションなレーベンにあてられて、オルフェは素直にグリフォンに姿を変え、こちらは上空から広範囲に聖水を散布した。
そうすると驚くのは魔物達だ。住みよい環境が急に破壊されたのだから。大慌てで元凶へやってくるも、大鹿のツノで作られた剣を持つ戦士の末裔を前になす術はない。弟の方も積極的に狩りに出て圧倒していた。もはやただの作業のように、どんどんと浄化は進んで行った。
「天空都市と同じように海底都市の側にも別の大きな街が出来ていたんです。こちらはやはり、海底都市が閉鎖された原因となった魔物の侵攻によって破壊され尽くされそのまま放棄されました」
浄化作業中、ライルと蒼は長らく使われていなかった抜け道の場所をライルの記憶を頼りに探している。
「魔法陣のような文字が刻まれているって……」
「大きな岩が目印です」
周辺の環境が三百年で様変わりしているので、ライルの記憶だけではなかなか見つからない。蒼の方はしらみつぶしに岩という岩の表面を目を凝らして確認する。
「あ!」
崩れた岩のかけらにそれらしき文字が刻まれていた。
「ライルさん!」
「ああ、これですこれです。この辺りですね」
ライルが持っていた懐中電灯のような照明を地面にあてると、魔法陣がうっすらと浮かび上がってくる。
「皆さん。こちらへどうぞ」
「みんな~~~~~~あったよ~~~~~~!!!」
通常の音量で集合をかけるライルの声に続いて、蒼は大声で呼びかけた。
周辺はすでに雑草を刈り取った空き地のようにスッキリさっぱりなっている。
「ここからですか?」
レーベンはまた不思議そうに文字が浮かび上がる地面を見ていた。なにか入り口のようなものがあると思っていたのだ。
「ええ。では皆さん、足元にお気をつけて」
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