【完結】衣食住保障してください!~金銭は保障外だったので異世界で軽食販売しながら旅します〜

桃月とと

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第1章 棲家と仕事

第7話 御神託−2

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 蒼は少々緊張していたがカルロ・グレコの柔らかい雰囲気のせいか、ゆっくりと気持ちがほぐれるのがわかった。

(うーん……少しリルケルラさんに似てるのかな)

 流石神託を受ける相手だ。

「私はアオイ……ウルシマ、アオイと申します。リルケ……御使リルからはどの程度私のことを?」 
「アオイ様が異世界の方で、衣食住はすでに揃っているが、その他お困りのことがあれば助けるようにと」
「……他には?」
「いえ~……」

(予想通りざっくり!)

 思わず笑えてくるが、

(肝心なことは伝えてくれているし……まあいっか)

 そう思う余裕ができた今の状況に蒼は素直に感謝した。こんな状況でも心が安定しているのは、アルフレドという存在のお陰だ。少なくともあと半日は困ったことがあれば彼にも相談ができる。

「申し訳ございません~! 魔王軍による攻撃の話もあったため今回はかなり駆け足の御神託でして~……」

 グレコがリルケルラの代わりに言い訳をしていた。リルケルラの神託はいつも夢の中。しかもそれほど時間は長くない。神託を受ける側の負担がどうしても大きいからだと。

「御使リルはかなり慌てていらっしゃいました~。突然魔王軍の一部がトリエスタへ進軍を始めたのですから当然ですが……」

(その姿、目に浮かぶわ~……)

 それも鮮明に。

「しかしそのような中でもアオイ様の名前は何度も仰っておられてましたよ! いやいや本当に! 本当ですって!」

 蒼の半笑いを見てグレコはさらに焦っている。

(どうかしらねぇ~)

 とは言え、より緊急性の高い神託があればどうしてもそちらに意識がいくことは蒼だって理解できる。城壁やその外の惨状を見ている以上、その件で腹を立てたりなどしない。
 しかし目の前の男性は、自分がまずい状況をどんどん作り出している自覚があるようだ。

「そ、それで何かお困りごとでも……?」

 この特級神官はちょっと挙動不審気味な動きをしながら、わかりやすく話をずらそうとしている。

「えーっとその……あの~……ちょっとした相談を……」

 蒼も歯切れが悪い。正直なところ、相談して大丈夫か? という気持ちが増し増しだ。管理官がお告げを授けるほどの人間なのだから信用はできるのだろうが……。

「ご安心ください。我々は人々の秘密を絶対に他言できないのです」

 ブラスが少し困ったような顔をして優しげな声を蒼にかけた。グレコのふにゃふにゃした態度で、異世界からやってきた女性に心配と不安を与えたのだとわかっている。

「神官の誓いというものがありまして、上級神官以上の者は皆、そういう縛りをかけられるのです」
「……それは魔法ですか?」

 まさか、と思いつつ蒼は恐る恐る尋ねた。

「はい。蒼様の世界ではこういった方法はとられないので?」
「魔法が存在しない世界ですので……」

 そうですか。と、ブラスがその内容について説明しようとしたところ、

「なんと! 魔法のない世界があるのですか!?」

 グレコが前のめりで話に入ってくるが、ブラスはそれを無視して話し続ける。

(グレコさんの方が立場上なんじゃないの!?)

 だがアチラもコチラも慣れたもののようで、少しだけショボンとしたグレコを前にブラスは表情一つ変えなかった。
 
 ブラス曰く、

「この国の神官というのはあらゆる人々のお悩みを聞くという仕事もありまして。その時に秘密が漏れたら……と不安になってしまったら誰も何も話せませんから」

 だから絶対に他言しないという誓いの魔法を自分達に課しているのだと。

「へぇ~そんなことまで」

 人々のメンタルケアまで神官の仕事だとは、なかなか大変なのだなと蒼は感心する。

(世界が変われば色々な文化があるものねぇ)

「というのは建前でして」

 ニヤリとブラスは笑った。

「魔王や勇者の末裔に関する情報の収集とその秘匿のために必要な縛りなのです」
「……」

 『勇者の末裔』と聞いて思わず黙りこくる蒼だったがそれで全てバレたようなものだ。

(しまった! 勇者の末裔のことはお告げの話になかったのに!)

 勇者の末裔ってなに? という反応をしなければならなかったのだ。関係者だとバレたくなければ。

「おっと失礼! アオイ様がショウ様の関係者というのは我々存じておりますのでご心配なさらず!」

 彼女の表情を見てすぐにブラスがフォローする。

(気が回るなぁ~出世しそう)

 そういう雰囲気が彼にはあった。

「上級神官というのは対魔王最大の組織に所属しているのと同義でしてねぇ。この縛りは国を跨いで情報を共有するのにも便利なんです~」

 グレコがヒラヒラと手を振っているところを見ると、あの紋章が関わっていることが予想された。

(通信機能でもあるのかな?)

「御使リルだけではなく、ショウ様からもアオイ様がお困りの際はどうか助けて欲しいとの伝達があったのです」

 相変わらず翔の優しさに守られているのだと、申し訳なさと安心感で蒼の頭の中がいっぱいになった。そして同時にリルケルラの様子を見ていた翔だからこそ、念押しを……と思ったのかもしれないなんて考えが浮かび、思わず笑いそうになる。
 
「そういう訳もあって、我々が他言することもアオイ様に害を与えることも決してありません。絶対に」

 ブラスが蒼に安心してもらえるように再度強く念押しをした。
 一瞬、蒼は胸元にぶら下がった金色の鍵の気配を感じた。これが奪われでもしたら蒼は一巻の終わりだ。

「神官の誓いの前ではたとえ犯罪の告白だろうが不義密通の相談だろうが他言はできないんですよ~」

 すごいですよねぇとグレコは少々他人事だ。

「ただし先ほど申しました通り、『魔王』と『勇者の末裔』の話題は特別です。国を越えて上級神官以上にのみ共有されます。特殊な魔法を使って」
「ちなみに上級神官以上がそういう組織に属しているというのは公然の秘密なんですよ~」

 皆知ってます~と相変わらずゆるゆるとしたグレコの言葉に、蒼はそんなもの? と納得するしかない。

「ご時世柄か魔王や勇者の末裔の情報が多く……最近はなかなか精査が大変になってきておまして……」
「魔王の存在は生死に直結することですからねぇ~……不安が蔓延して……」

 今度は少し悲し気にグレコは目を伏せた。表情がコロコロと変わる人物のようだ。だがしんみりした雰囲気を変えようと、彼は再び顔を上げた。 

「ショウ様がこちらの世界にご帰還された件につきましては上級神官以上は皆すでに知っております~。どこで今なにをしているかも~」

 情報の共有はやはりあの手の紋章を使って、音声で共有できるのだとまた手をヒラヒラとさせて。ただしやはり、電話のように使い勝手がいいわけではなく伝えられるのはの情報のみ、そして一方通行なのだと蒼は知った。

「その情報って私には……」

 蒼だって翔の情報を知りたい。無事彼が目的地についているのか、ちゃんと食べているのか、怖い思いをしていないか。彼女も一応関係者。もしかしたら上級神官以上の枠に入れてもらえるかもしれないという期待も込めて。

「申し訳ありません~そのご質問に答える前に私の喉は焼けて朽ちるでしょう~」
「わー! 何も言わなくていいです!」

 大慌ての蒼を見て、グレコもブラスも微笑んだ。

「上級神官ってどうやったらなれるのですか?」
「……第一条件が魔力持ちになります」

 ブラスが気の毒そうに答えた。蒼がどんな気持ちで尋ねたのかわかってくれている。彼は蒼を見ただけで彼女がその条件に当てはまらないことがわかったのだ。

「う~なるほど……」

 仕方ない、と今の蒼は諦めるしかない。気を取り直して本来の目的に立ち返る。

「とりあえず、私の身元と、これから相談する内容は誰にも知られないってことであってますか?」

 なら現状大きな変化はない。蒼の秘密を知るのが、アルフレドとグレコとブラスになるだけだ。

「それが……アオイ様のことは、おそらくに共有されます。もちろん一般の人々に知られることはありませんが」
「なんせ今回の御神託が共有されたので~……今回のご訪問も……」

 彼らがちょっと申し訳なさそうなのは、現時点ですでに翔とは関係ないのに、秘密の相談事が一部に筒抜けになるからだろう。

「アオイ様の件をブラスくん以外の一般神官に伝えようとした瞬間、とんでもない激痛が体を走ったのですぐにピーンときたんです~」
「ただでさえ魔王軍の件で大騒ぎだったのに、グレコ様が倒れられてさらに大騒ぎになりましたね」
 
 あれは大変だったねぇ~と二人で思い出に浸っている。
 御神託お告げは映像付きだったとも教えてもらった。変なところで気の利くリルケルラだ。

「アオイ様の容姿はグレコ様に聞いておりまして……アオイ様の前でお名前を口から出せた時点で正解と言われたようなものだったんです。もしもご本人以外だったら今頃治癒院の中かもしれません!」

 こちらもフフフと得意気に笑っているが……。

(もっと体を大事にして~!!)

 なかなか危ない縛りをかけているにしては、行動が軽率では!? と思わずツッコミたくなるが、彼らの使命感に水をさすのもよくないかもしれないと、蒼はグッと我慢した。
 しかしその蒼の姿が、自分の情報が筒抜けになるこの状況に対する不安だと神官二人は勘違いをしてしまう。

「あぁ! こんな状況ですが一ついいことがありますよ! アオイ様の現状をショウ様にはお伝えできるということです!」
「ショウ様の側には専任の神官がついていますので」

 蒼が翔を気にかけるそぶりをしていたことをグレコもブラスも見逃してはいなかった。あの恐ろしい縛りを受けてでも、上級神官になる気があったのだから、それだけ大事にしている相手であることもわかっている。

 励ますような声の二人に、蒼は素直に礼を言った。

「ありがとうござます。じゃあ変な風に伝わらないようしっかりしなくてはいけませんね!」

(しょうくんに恥をかかせないようちゃんとしなきゃ!)

 心を決めたようにスッキリとした表情の蒼を見て、神官二人も満足そうな顔になった。

「では、ご相談をどうぞ~」
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