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乱暴者は高くつく
しおりを挟むわたしが短気で乱暴な人が嫌いなのは、父親のせいだ。
短気で乱暴な人なんて、大抵の人が嫌いだとは思うけどね。
それを上回る「好きなところ」があれば別かもしれないけど、わたしは「乱暴」の一点があるだけで、どんなにイケメンでも、自分を思っていてくれても、全部帳消しだと思っている。
わたしの親父はエリートかなんか知らないけど、わたしやママとかをすんごく見下してて、ちょっと口答えしただけですぐ殴ったり蹴ったりする。
酒乱とかではない。お酒は飲むけど強くはないから、むしろ飲んでくれた方が、すぐつぶれて寝てくれて助かる。
親父は気に入らないことがあると、すぐ口(罵詈雑言)が出て、手が出て足が出る(暴力)。
わたしたちが悪いわけじゃなくて、外でいやなことがあっても、わたしたちに当たることでムシャクシャを解消しているようだ。
だからキレるタイミングがさっぱり分からなくて、わたしとママはいつもひやひやしている。
数秒前は真顔だったとか、時には笑っていたはずなのにっていうことも多くて、「えー」っとなる。
そういえば、少し前の映画賞の授賞式で、司会者に暴力を振るって話題になった有名な俳優さんがいたけど、あの人も動画を見ると、殴りかかる少し前までは笑っていたんだよね。
でも、あの俳優とうちの親父の決定的に違うところは――うちの親父は、自分の家族を侮辱されたからって怒らない。一緒になって笑うだけだと思う。
機嫌のいいときは、物買ってくれることもあるし、(聞いてもないけど)難しいことを教えてくれることもあって、そんなときは普通の父親っぽいけど、6:4か7:3ぐらいで機嫌悪いときの方が多いから困る。仕事が忙しくて、体がしんどくなってくると、機嫌も悪くなるんだと思う。
もし何の証拠も残さないで自然に死なせる薬とか手に入るなら、わたしは3万円出してもいい。わたしの全財産だ。
前に親戚のお姉ちゃんから『地獄の乙女』っていう少し古い漫画を借りたことがあった。
どうしても死んでほしい人を地獄に流してくれる女の子が主人公の話。
女の子の仲間もみんな個性的でかっこよくて、なんか気に入った。
親父が時々時代劇チャンネルで見てる『必殺片付け人』みたいな話かな。
絵がきれいで話も面白かったんだけど、死んでほしいって思う理由がみんな結構身勝手だったりして、そういうところがホラーと違う意味で怖いなって思った。
毎日わたしたちのために働いてお金稼いでる親父を、ママやわたしに乱暴するからって理由で死んでほしいと思うのは、やっぱりワガママかなあ。
◇◇◇
とにかくそういう理由で、わたしは短気で乱暴な人が嫌いだ。
ダイチはたぶん女の子は殴ったりしないだろうけど、男でも女でも殴るのはよくないよね。
優しくて頼もしいところがあるのも知ってるけど、もう14歳なんだから、もっと冷静でもよくない?
どうしてあんなにすぐキレるんだろ。
悪ふざけをして間違ってガラスを割ってしまって、先生にきつく叱られてるのを見たことがあった。
担任の古賀先生はダイチも尊敬してるっぽくて、すごく反省してたけど、「学校の修繕予算も限られているんだぞ」って先生言ってた。
うちでもドアの交換に何万円かかったとか、お気に入りのティーカップ割られたとか、ママがなげいてる。
そう、乱暴者は高くつくんだよ!そういうのも無理。
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