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第三章 農民が動かす物語

その夜

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「あはは、疲れちゃったのかな?」
「恐らくはそうだろうな」
 今、僕の布団で寝ているソフィを先程自分の部屋に持ってきた揺り椅子から苦笑い気味に見ていた。
 コンは僕の膝の上で丸くなったのでその頭をずっと撫でている。
「それにしても大胆な事をしたな、ロイよ」
「もうその事は言わないでよ、ちょっと気持ちが舞い上がっちゃっただけなんだから」
 確かにあんな場所で……というより、ソフィを抱きしめたことは幾ら何でもやり過ぎたなぁと反省していた。

「それにしても起きないね」
「ロイの杖を使って魔法を行使したのだ、やはり疲れていたのだろう」
「まあこんな時間だし、もうユンに連絡して貰ったからね」
 夜10時を過ぎた頃、『疲れてしまったのか家で寝てしまったため、道もかなり暗くなっているから転んで怪我をするかもしれないのでこのまま泊まらせます』と書いた手紙をソフィの家に持って行って貰い了承は貰っている。
 ちなみに紙と筆記用具は中々の貴重品だから基本的に商人や他村との取り引きや村の出入りの記録等にしか使われていないけど、そこはコンに頼んで作ってもらったのだ。

「それじゃあ僕はこのまま揺り椅子で寝ようかな」
 僕はそう言って立ち上がり、膝に乗っていたコンを左に置いてあったコン専用クッションに置いて押入れから薄い毛布を1枚取り出す。
 いくら7月で暑くなってきたとは言え何も無しだと風邪をひくかもしれないから、ソフィには何時も自分が使っているのを掛けていたのでこれは自分用だ。
 明日の朝も作業があるから勿論布団で寝たいけど、ソフィが寝てしまったのは自分が舞い上がって抱きしめたのが悪かっただろうし、それに流石にこの年で一緒に布団に入って寝るのはあまり好ましくない。

「おやすみ、コン」
「うむおやすみだ」



 《ソフィside》

「……ん……」
 私は窓から朝の日の光が差し込むのを感じて目が覚める。
 そして少し布団の中でモゾモゾと体を動かして仰向けからうつ伏せに姿勢を変えて軽く背を反らせる。
 どうしても朝に弱い私がスッキリと起きる為に毎朝している行動だったけど、その時に目に入った景色は何時もの見慣れた自分の部屋では無かった。
「あれ、ここどこ?」
 キョロキョロと周りを見渡すものの、どうも兄の部屋で談笑してそのまま寝てしまった訳でも無いようで、よくわからない剣士の像なんかも無かった。

「えっと……あ」

 そこでようやく私は昨日の事を振り返り、ここがロイ君の部屋である事を確信した。
「確か昨日はロイ君の誕生日で、プレゼントを用意して、それを渡して……」

 そして、ロイ君が私を思い切り抱きしめて……

 そこまで思い出して顔が真っ赤に染まった私は先程まで寝ていた枕に顔を押し付ける。
「あ、ロイ君の匂いがする……それに、これはやっぱりロイ君の魔力だ」

 魔力は使わないと余剰分が体外に微量ながら放出される。
 それを抑える事は出来るけど無駄な労力を使うだけなので普段は誰も抑えることが無い。
 だから長年肌に触れていた物ならその使用者の魔力の残滓が残るもので必要最低限の魔法教育さえ受けていればそれを感じることぐらいは出来る。

「えへへ、ロイ君の布団」

 そしてギュッと枕を抱きしめてもう一度寝ようと瞼を閉じ……

「あ、おはようソフィ」
「え、あ、お、おはようロイ君」
 そこで戸を開く音が聞こえたので枕を手放して跳ね起きた。

 それまでの行動を知ってか知らずかロイ君は苦笑いする。
「あ、う~ん、やっぱりこういうのって寝方とかあるのかな?」
「どうしたの?」
「髪が凄く乱れてるよ」
「うむ、中々凄い事になっておるぞ」
 と、ロイ君の隣を飛んでいたコンも言ったので私は大慌てで髪を触り、かなり跳ねたりしている事がすぐにわかった。

「うう、ちょっと直してくる!」
 こんな状態で今ロイ君と話していたのかと思うとどうしょうもなく恥ずかしくて小走りで部屋を出ようとした。

 が、ロイ君がそんな私の右手を掴んで引き止める。



「ちょ、ちょっと待って!その髪を整えるの大変でしょ、梳いてあげる」



 その予想外の言葉に足が止まる。
「え!?」
「ほら、昔してたでしょ?今もたまにミリィのを梳くから櫛もあるから」
 そう言って小さな四角い卓袱台の上に置かれた櫛を手に取る。
「必要であれば我が水を出そう。勿論部屋を濡らすことは無いので安心すると良い」



「え、ええと……うん、それじゃあお願いします」
「うん、任せて!」
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