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第三章 農民が動かす物語

プレゼント

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 《ソフィside》

 そして先程までの事でワイワイ話しながらロイ君の家に着いた。

「それじゃあまた明日」
 ロイ君がそう言って戸に手を掛ける。
「うん」
 私がそう頷くとロイ君が戸を開けた。



「「「「「ロイ君お誕生日おめでとう!」」」」」



 そして玄関から声が響いた。
 ロイ君は凄く驚いたようで戸を開けたまま固まっている。
「ロイ君、お誕生日おめでとう」
 私はそう言って後ろから声を掛ける。
「えっと、その、凄くビックリした……」

 未だ何が起きたかよくわからないと言った様子のロイ君に中から一つの手が伸びる。
「今日はお前の誕生日なんだから早くこっち来いよ!」
 そしてその手の主、コールがロイ君を引っ張る。
「そうだよ、私も準備手伝ったんだから」
「おかえり、ロイ。おめでとう」
「お兄ちゃん早く早く」
「おいコール靴脱ぐくらい待ってやれよ。おめでとうロイ」

 ロイ君の家族に同級生のコール、ミリア、ブロウの皆がワイワイとロイ君を奥へと連れて行く。

「ソフィも早く中に来いよ」
 引っ張られて行ったロイ君の代わりに中から顔を出したブロウに呼ばれる。
「うん!」



 それから何時もの机の代わりに2人並べられた長机(村長に頼めば借りられる)一杯に並べられた御馳走の前に座る。
 ロイ君は1番奥のお誕生日席で、その右側にはミリィ、左側にはゼンさん(ロイ君のお父さん)が座っているためすぐ側には行けないから、他の同級生達と一緒に座る。
 そして同級生の中で1番責任感が強いまとめ役のブロウが音頭をとる。

「それじゃあ改めて、お誕生日おめでとう!」
「「「「「ロイ(君)お誕生日おめでとうおめでとう!」」」」」

「ありがとう!」
 皆のおめでとうの声にロイ君が満面の笑みを浮かべる。

「折角皆で持ち寄った物で作った料理が冷める前に食べようぜ」
 待ち切れないと言った様子で言うコールにブロウが頷く。

 今目の前に並べられている御馳走は皆の家から出来たものを持ち寄って作っている。
 流石にパンに使っている小麦は新しい物では美味しいパンにならないため去年の物を使ってるけど、その他の物の殆どは皆が作った物を出来る限り使っている。

「だな。それじゃあロイのお誕生日を祝って、乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」

 そうして皆が飲み物を掲げて乾杯し、それぞれが自由に大皿に盛られた料理に手を付ける。

「美味しい!」
 今日の主役のロイ君がトマと卵の炒め物を食べる。
「だろ?トマはお前のとこだけど卵は俺の所でさっき採れた奴使ってんだぜ?」
「うん、卵すっごく美味しいよ!」
「ねね、こっちも食べてみて」
「あ、凄く美味しい!」
「でしょでしょ」
「あー俺も早く誕生日来て欲しいわー。こん中で15なのロイとブロウとミリアだろ?」
「コールは10月なんだからまだ先だろ」
「あはは、一足先に15になりました」
「ちぇ、まあ仕方ねぇかー」
「ミリィちゃんはいつだったかな?」
「私は5月に12になったよ!」
「てことは今年で学校も卒業か?」
「そうだよー」



 そうしてワイワイ騒ぎながらご飯を食べ進めて全て食べ終えた頃、お皿を台所に運んで机の上を綺麗に掃除する。
 そして皆がまた席に着いたらブロウが立って言った。



「ではロイにプレゼントを用意してる人は順番に渡しましょう!」



「そんじゃあまずは俺とブロウからな!この前枕が潰れてボロボロだって聞いたから羽毛の枕用意したぜ!ま、コッコの毛は固いから別の村から譲って貰ったの使ってるけどな」
「そうそう、なかなか集めるの大変だったけどな」
 そう言って机の下に置いていたらしい箱から取り出した枕をロイ君に投げ渡す。
「わっと……あ、ふかふかだ!2人ともありがとう!」
「どういたしまして」
「おうよ、ロイもこれに釣り合うようなの頼むぜ」
「えー、去年僕は用意してたのに忘れてたから普通くらいで用意するよ」
「そういやそうだった!」
 そのやり取りに皆で笑う。

「それじゃあ私とミリィちゃんからはこれ!」
 そう言ってミリアが取り出したのはクルワの葉で包んだ物だった。
 ロイ君はそれを受け取るとすぐにベリベリと葉を剥がして中の物を取り出す。
「今年はスコーンを作ったんだ」
「そうなの!さ、食べて食べて」
 そしてロイ君は勧められるままにスコーンを食べた。
「どうかな、お兄ちゃん?」
「うん、すごく美味しいよ」
「やった!」
「やったねミリィちゃん!」
「うん!」

「それじゃあ次は誰行く?」
 ブロウが言うとすぐにゼンさんが手を上げる。
「それじゃあ俺と母さんからだ」
「ええ、今年は頑張ったわよ」
 そう言うとゼンさんは立ち上がって部屋の隅に布を掛けてあった物の前に立った。
「俺らからはこれだ」

 そう言って布を外して出てきたのは大きな揺り椅子だった。

「これはな、ロイの体に合わせて作ったのと足を伸ばせるよう先に板を付けてそのまま寝れるようにしたぞ!」
「ええ。原型は父さんが作ったけど、布を貼るのは私がしたわ」
「凄い!お父さんお母さん本当にありがとう!」
 そう言って目を輝かせるロイ君を見て、コールが不満そうに言う。
「うっわぁ、こんなん用意されてたら俺らのが霞むじゃん」
「どーよ、これが大人の力だ」
「それちょっと腹立つわ~」



 そんなことを言って皆で笑う中、私は緊張で一緒に笑う顔は少し引きつり気味だった。

「それで、最後にソフィだけど、あるか?」

 そう、それは私が用意した物が気に入ってくれる自信が無くなってきていたからだ。
「うん、あるよ。ルーちゃん」
 膝の上に乗っているルーちゃんを呼ぶといつものように闇魔法で作られた空間から一つの布を取り出した。
「その、私からはこれなんだけど……」
 取り出した物をロイ君の隣まで行って手渡した。

「何だろう?」



 そう言ってロイ君が渡した布を広げて現れたのは、一着の薄茶色のローブだった。



「その、ロイ君の髪色に合わせて作ってみたんだけど……どうかな?」

 作っていて1つ考えていた事があった。
 このローブの色は幾ら何でも地味で、黒ならまだカッコ良かったりするのかもしれないし、焦げ茶辺ならまだ様になるのかもしれない。
 でもこの薄茶色は特に装飾をしている訳でもなかったからただただ地味だった。

 だから、もしロイ君が微妙な顔をしたらすぐに持ち帰って別の色で作り直そうと考えていた。

「えっと、何でローブなの?」
「そ、その、ロイ君が杖を買ったから、ちょっと魔術師って感じのローブも一緒にどうかなーなんて……」
 そう言うと真っ直ぐ私を見つめてくるロイ君の顔を直視するのが恥ずかしくて、視線を彷徨わせる。

 そして数秒間沈黙が続き……

「そ、その気にいらなかったなら……」
 返してくれたらまた作り直すよ、と言おうとする声が別の声でかき消された。



「ありがとうソフィ、すっごく嬉しいよ!早速着てみてもいいかな?」



 ロイ君が言った声が予想外に大きくて逸らしていた目がロイ君を捉えると、そこにはすごく目を輝かせているロイ君の姿があった。

「う、うん、いいよ」
「やった!」
 ロイ君はそれを聞くや否やすぐにローブを羽織るとコンを呼んで杖を出してもらった。
 そして何故かコンがそのまま肩にとまる。

「うわ凄ぇそれっぽい!」
 それに真っ先に反応したのは何時もの騒がしいコール。
「竜使いの魔法使い?」
 ミリアがそれに続いて思いついたままの感想を言う。
 そして口々に感想が飛び出してくる。
「お兄ちゃんカッコいい!」
「へぇ、なかなか様になってるんじゃね?」
「はー、やるなぁ」
「家の子とは思えないぐらいね」

「え、そ、そうかな?自分じゃ見えない」
 それに若干照れた様子のロイ君が体を捻ってみるものの、当然それで見えるはずもない。
「では我が写してやろう」
 そう肩に乗ったコンが言うと家の壁が急に光だし、そこに今のロイ君の姿が写るようになった。
「わぁ、これもしかして鏡って言う奴?」
「うむ、原理は同じだが魔法で再現してあるだけだ」

 そうサラッとコンが言ったけど鏡はかなりの高級品で、同じ効果が出せる魔法なんて聞いたこともない。
 でも、今は宴の席なので誰もその凄さを認識することなくただただ興奮するばかりだ。



「うわぁ凄い、凄い!凄いよ!!ソフィありがとう!!」
 


 ガバリ



「……え?」

 そして、感極まったのかロイ君がそのままの姿で思いっきり私に抱きついてきた。

「えっと、その、ロイ君、あの……」
 顔に血が集まるのを感じる。
 こんな皆が居る前で抱きしめられるなんて予想外で、凄く恥ずかしくて……



「あ……」
 そして先程まで物凄く緊張していたのが切れて、とても温かなロイ君の腕の中で私は気を失う様に寝てしまった。
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