天使の声と魔女の呪い

狼蝶

文字の大きさ
上 下
14 / 60

14

しおりを挟む


 ********

 少し時は遡り、セイはギムリィに舌打ちをしどこかへ去って行くフラウの後を追っていた。

 セイ=ブロッサムは、代々王家に仕えるブロッサム家一族の分家である家の長男であり、フラウと同い年で彼ら兄妹の従兄弟であった。幼子の頃からの付き合いであり、二人で彼の妹のフラウリーゼの成長を見守ってきた、いわば同士のようなものだ。兄のような気持ちでフラウリーゼと接してきたものの、日に日に美しく育っていく彼女の姿に段々心惹かれていき、気づいた時にはすでに恋に落ちていた。
 社交界デビューを果たし、何も知らない子どもから大人の事情というものに触れる機会が多くなって来た頃、セイとフラウは自分たちの家とホワイトローズ家が敵対関係であることを知った。親から教えられたことであり、社交界で実際にホワイトローズ家のギムリィを目にしてもあまり悪い気はしなかったため、セイにしたら必要以上に敵視する意味はないと思っていたが、どうやらフラウにとっては違ったらしい。
 フラウは自分と違ってブロッサム家の長男という重荷を背負っていたからだろう、とセイは思った。何をやっても常に上を行っており、評価が良いのは同い年のギムリィの方。一方背負うものもそれほど重くないセイは、ただホワイトローズ家の彼はすごいとだけしか思っていなかった。だがセイの父はフラウと仲良くすることを強いてきたし、同じブロッサム家であることからそれが当然とされてきたので、セイはいつもフラウの愚痴に付き合っていた。フラウも努力をしている。それは近くにいてよくわかっていた。これで愚痴を言わなければ一層良いのに、と何度も思ったが、そのたびに心の中へ閉まっていた。
 王子は年子で三人もいたことからフラウリーゼは誰の妻となるのかブロッサム家やブロッサム家を指示する派閥の者たちは囁き合っていたが、皆の望みは彼女が第一王子の婚約者になることであった。しかし、あえなくその願いは打ち砕かれた。セイたちが一年次の修学を祝う席で、クォードとギムリィの婚約が発表されたのだ。
 そのときのフラウの憤りようといったら、隣にいる自分も射殺されそうなほどの気迫で近づくのも怖かったのを覚えている。そして次の年にはギムリィの弟のハレムが第二王子の婚約者に決まり、ブロッサム家としてはとうとう後がなくなってしまったのだ。クォードとギムリィは社交界デビューしたときから仲睦まじく周りから婚約しそうだという噂があり、また次男同士であるジルとハレムとの仲も良かったことは周知のことだであったし、自分たちもよく知っていたことだった。それに対しフラウが毎回文句を言っていたから。だが婚約は平等。きっとブロッサム家からも婚約者を娶るのだと無意識のうちに安心していたのかもしれない。だから、二人の婚約者がどちらもホワイトローズ家の者だという事実が知らされたとき、絶望したのだ。

 もちろんフラウリーゼが王族の婚約者となることは家にとって名誉なことだし彼女も幸せならば喜ばしいことだと思う。だが、彼女が第三王子の妃になるということは現実的ではないとセイは思っていた。それは、リリーの存在があったからだ。
 王子たちは年子だがホワイトローズ家の兄弟も皆年子で、さらに彼らはそれぞれ同い年だった。そして一番下のリリーが社交界に初めて参加する場にいたセイは、その可憐さに一瞬で目と心を奪われた。
 長年積もらせてきたフラウリーゼへの叶わぬ恋心がまるで一陣の風に飛び去ってしまったかのような、そんな衝撃を受けた。ホワイトローズ家の者に特有の、ホワイトブルーシルバーの美しい髪。どんな有名な店にも売っていないような、汚れを知らぬ透き通った瞳。それを縁取るのはそれだけで芸術品のような存在感を放つ豪華な睫。そして鼻筋は完璧な線で、淡い桃色をした唇は異性同性関わらず全ての人間を魅了する色気を放っていた。

 彼は人に口を利かないことから“人を選び皆を馬鹿にしている”などと言われて嫌な人物だと思われているが、セイは皆の言うことは当てにならないことを知っていたのでその考えにはあまり賛成していなかった。本当はブロッサム家の人間として思ってはいけないことであるが、セイはフラウリーゼが第三王子の婚約者になれなくても仕方がないと思っていたのだ。
 あれだけの美貌と、王子だけには見せるかも知れない顔。ホワイトローズ家の人間は誤解されがちだが皆ちゃんと努力をしているし筋の通った性格をしていると密かに分析をしていたセイは、第三王子もリリーを見初めきっと修学祝いのパーティーでそれを発表するのだと予想した。そしてそれが社交界でのブロッサム家の立場の悪化のきっかけであっても、回避するべきことだとしても、セイは何も変えることは出来ないだろうと思ったのだった。

 ガサガサと草を踏んで人気のない校舎裏へとたどり着く。
 先に歩いて行ったフラウの隣にはフラウがおかしくなったその原因と考えられそうな青年、自分たちと同じ制服を身に纏った男子生徒が立っていた。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。 無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して―― 最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。 死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。 生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。 ※軽い性的表現あり 短編から長編に変更しています

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】 リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

幸福からくる世界

林 業
BL
大陸唯一の魔導具師であり精霊使い、ルーンティル。 元兵士であり、街の英雄で、(ルーンティルには秘匿中)冒険者のサジタリス。 共に暮らし、時に子供たちを養う。 二人の長い人生の一時。

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

スキルも魔力もないけど異世界転移しました

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
なんとかなれ!!!!!!!!! 入社四日目の新卒である菅原悠斗は通勤途中、車に轢かれそうになる。 死を覚悟したその次の瞬間、目の前には草原が広がっていた。これが俗に言う異世界転移なのだ——そう悟った悠斗は絶望を感じながらも、これから待ち受けるチートやハーレムを期待に掲げ、近くの村へと辿り着く。 そこで知らされたのは、彼には魔力はおろかスキルも全く無い──物語の主人公には程遠い存在ということだった。 「異世界転生……いや、転移って言うんですっけ。よくあるチーレムってやつにはならなかったけど、良い友だちが沢山できたからほんっと恵まれてるんですよ、俺!」 「友人のわりに全員お前に向けてる目おかしくないか?」 チートは無いけどなんやかんや人柄とかで、知り合った異世界人からいい感じに重めの友情とか愛を向けられる主人公の話が書けたらと思っています。冒険よりは、心を繋いでいく話が書きたいです。 「何って……友だちになりたいだけだが?」な受けが好きです。 6/30 一度完結しました。続きが書け次第、番外編として更新していけたらと思います。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

処理中です...