天使の声と魔女の呪い

狼蝶

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 キャスティア=タイム。
 彼がフラウの側にいるようになってから、フラウの気性が以前よりも荒くなり出したと、長年フラウと時間を共に過ごしてきたセイは思った。
 最初に彼を紹介されたときに学園で見たことがないその姿に眉を潜めたが、タイム侯爵家の三男の彼は子どもの頃から病弱で、学園も休みがちだったのだという。
 それが三学年になって全快し、ようやく毎日学園へ来ることができたのらしい。そんな彼は長い間床に伏していたことを感じさせる白い肌をしており、鮮やかな金髪が一層引き立って見えた。だが彼の作る感情の読み取れない微笑みが、セイはなんだか苦手に感じた。
 タイム家はブロッサム家側の筆頭であり、フラウはそこも気にいったのだろう。リリーに心奪われてからホワイトローズ家に対しあまり強い言葉を吐かなくなったセイよりも、自分を褒め称え気持ちよくしてくれる相手の方が一緒にいて気分が良いに決まっている。
 だが彼と一緒にいるようになったから、フラウからは余裕がなくなりいつもイライラするようになっていった。相変わらず妹のフラウリーゼのことを溺愛していることや、彼女に心奪われているアランに対し牽制している様子は変わらないフラウであり安心できるのだが、彼女が学園に入学してから・・・・・・、リリーが入学してきてからフラウの不機嫌さはすごかった。それに、フラウリーゼ自身よりもブロッサム家の行く末を意識しているような発言をするようになってきたことに、セイは危機感を抱いた。彼はブロッサム家を背負う役割を負っており、その荷物はとても重く彼にのしかかっているのだろう。しかしそうであったとしても、彼は家の決まり事よりもフラウリーゼ自身のことを大切にする男だったのだ。

 きっと、キャスティアがフラウに良からぬことを吹き込んだに違いない。フラウの、ホワイトローズを憎む心を焚きつけるような何かを。

「またお前かタイム。おいフラウ!さっきのは一体何だ!?」

 そういう思いもあり、セイはキャスティアを睨み付けた後今さっきリリーに対し許されないことをしたフラウに向かって声を荒げた。

「何って、紅茶を浴びせてやっただけだぜ?暑そうにしてたから丁度良かっただろ」

 得意げに言うフラウに、何も言わないがクスクスと笑い同調を示しているタイム。彼らといると、自分だけがおかしいのかと思ってしまうような気がしてくる。

「それ、本気で言っているのか・・・・・・?どうしちゃったんだよお前、そんなことする奴じゃなかっただろ?」

「セイに言われたくねぇよ。お前、俺だけじゃなくブロッサム家も裏切る気か?」
「どうしてそうなるっ!?」
「お前からは焦りが感じられない。リーゼが第三王子の婚約者になれなかったら・・・・・・もうブロッサム家は終わりだ」
「いつからそんな考えをするようになってしまったんだよ、お前。フラウリーゼが幸せなら結婚もしなくて良いって言ってたろ?」
「そんなこと言ってられないんだよもう!!リーゼも、お前もっ、アランだって皆本気で危機感を感じてないからそんな悠長な夢物語を口にできるんだよっ!俺の身にもなってみろよ・・・、力のない公爵家の跡継ぎなんかごめんだぜ」
「ほら、もう行こうよフラウくん。授業、始まるよ」
「お前は黙っていろ!!そうだ。お前が何かフラウに吹き込んでいるんだろう。だからフラウは変になったんだ」
「酷いですねぇ、そんな言いがかりを付けるなんて。何か証拠でもあるんですか?あ、それとも・・・僕にフラウくんを取られて悔しいんですか?」

 思わず思っていることを口に出してしまうと、彼は焦った風もなく唇を歪ませながらそう言った。余裕な様子なのも腹が立つ。

「黙るのはお前の方だ、セイ。お前はもう俺のダチでも従兄弟でもない。ブロッサム家を裏切るお前はもう、ブロッサム家の一員じゃない」

 そう言って、フラウは後ろを向いて行ってしまった。キャスティアはにやりとした顔でセイを見た後、踵を返してフラウの後を追って行った。
 セイは今フラウに言われた言葉で頭がいっぱいになってしまい、彼の後を追う気がしなかった。




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