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3.一般常識 お金

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「あのフランチェスカさん? お金ってご存知ですか?」

「お金? 申し訳ありません、世俗にはうとくて」

 お金……初めて聞く言葉ですが、冒険者特有の物なのでしょうか。
 わたくしはこれから沢山の事を学ばなくてはいけませんね。

「物を買ったり、ご飯を食べた時に渡す物ですが……え、本気?」

「物をかう? じいやに言えば何でも持ってきてくれましたので」

 かう? かうとは何でしょうか。それに食事の時に渡す物? ワインでしょうか。

「おーいそこの金髪ストレート、今着てるドレスを欲しい奴に渡せば、登録料を払ってもお釣りがわんさか残るぜ」

 後ろから話かけられたので振り向くと、キレイに日焼けした赤毛の雑な髪の女性が立っていました。
 とても露出の高い服装ですが、服の意味があるのでしょうか。

「このドレスは思い出の品なので、人に渡す事はさけたいのです。他のドレスならば……3着あるので、冒険者になれるのならば、差し上げても構いません」

 バッグに入れてあった着替えのドレスを見せると、何故か受付の女性たちが揃って声をあげました。

「私それ買う!」
「ちょっと私が先よ!」
「この赤いドレスきれーい!」

「お前らじゃ買えねーよ。いくらすると思ってんだよ」

「「「いくら?」」」

「赤い奴は金貨100枚、白地に青でも金貨80枚、一見シンプルだが、シルク製のドレスは金貨150枚はくだらねぇぞ。宝石の数と大きさでわかれ」

 先ほど必要なのは銀貨と言っておりましたので、ドレスをお渡ししても金貨しかいただけないのですね……私が冒険者になるのは無理なのでしょうか。
 どうしましょうか。

「おいお前、あん? 前は金髪ロールなのかよ、まあいい、3着の中で要らない奴、人に渡してもいいのはどれだ?」

「そうですね、この中ですと赤いドレスをお渡ししても大丈夫です。他の2着は贈り物として頂いたので、大切にしたいと考えています」

「そうか。じゃあチョイト付き合いな」

 赤毛の女性に手招きされますが、わたくしは冒険者登録が……受付の女性が付いて行けというジェスチャーをしています。こちらの関係者でしょうか。
 それならばお付き合いいたしましょう。

 街中を歩き回り、6軒ほどお店に入りました。
 どのお店もドレスを扱っていて、赤毛の女性が赤いドレスを渡す話をしているようです。
 しかし何やら様子がおかしいのです。
 赤毛の女性は不機嫌になったり、ご機嫌になったりと、コロコロと表情が変わります。

「いや~丁度良かったぜ。最近街中で、やたらと安く買い取る店が出て来てさ、調査したかったけど、ドレスなんて早々手に入らないから、後回しになってたんだよな~」

 そう言って革袋を私に手渡してきました。

「ドレスを売った代金、金貨100枚だ。お前は世間知らずだから、しばらくはギルドに預けておけ。必要な時に言えば渡す」

 金貨100枚というのがどういう価値があるのかは存じませんが、どうやら生活に必要な物のようです。
 ですが、わたくしはまだ冒険者になっていないのですが……。

「冒険者になっていなくても、金貨というものを預かってくれるのですか?」

「あん? 金貨がありゃ冒険者になれるだろ?」

「しかし銀貨という物が必要だと言われましたので」

 赤毛の女性が口を開けたまま動かなくなりました。
 わたくし、変な事を言ったでしょうか。

「わひゃひゃひゃ! そうか、お前は金の種類を知らないんだな! うんうん、お姉さんに任せとき」

 肩を組んでギルドに戻りました。

 するとどうでしょう、金貨という物は、銀貨と互換性があるではありませんか!
 銀貨がなくても、金貨があれば冒険者になれるそうです! きっと赤毛の女性が何かしてくれたのでしょう!

 ギルドカードというものを渡されました。ポケットに入るサイズですね。

「それがあれば国を跨いで依頼を受ける事が出来ます。でも悪用はしないでくださいね? 冒険者が密輸に協力したり、犯罪者を国外に逃がす手助けをしたら、冒険者カードを剥奪の上、法によって裁かれますからね」

 なにやらギルドカードには責任が付きまとうようです。
 わたくしはまだ指名手配されていないはずなので、国外に行っても問題は無いでしょう。

「さて、お前、フランチェスカだっけ? ギルドの基礎訓練を受けてもらうぞ」

「基礎訓練、ですか? 申し訳ありませんが、先を急いでおりますので……」

「義務だ」

「義務、ですか。ならば仕方がありません」

 ギルドの地下には訓練所があり、そこで冒険者の基礎知識やルールを教えていただきました。
 他にも、わたくしの場合は初歩の魔法訓練を行いました。

 ファイヤーアロー、ウォーターバインド、グランドスピア、エアバースト。
 4つの魔法が使えなければ、魔法使いの冒険者としては活動が出来ないそうです。

 そして特別授業として……一般常識なるモノを教わりました。
 なんと真新しい事でしょう! 一般常識とは便利な物なのですね!

「お前物覚えが早いな。さすが魔法使いウィザードだ」

「ありがとうございます。あなた様も……失礼、お名前をお伺いしておりませんでした」

「俺はリズってんだ。いまさらだが、よろしくな」

「リズ様、あなた様のご指導はとても覚えやすいです。ありがとうございました」

 握手をして丁寧に頭を下げると、照れたように頬をかいています。
 可愛らしい女性ですわね。

「んでどうする、そのまあ依頼を受けるか? っと、用事があるんだったな」

「はい。急いで国を移動しなくてはなりません。申し訳ありませんが、これにて失礼させていただきます」

「いやまて、最後に必要な物だけ揃えさせろ。なーに、お前の金で買うんだ、遠慮しなくていいぞ」

 遠慮、という言葉の使い方は多岐にわたるのですね。
 この使い方は初めて聞きました。

 ギルドの正面には装備を揃えられるお店があり、そこでリズ様に装備を揃えて頂きました。
 魔法使いウィザードというからには、黒っぽいローブと木の杖、と思っておりましたが、杖は青く丸い水晶が付いた物、衣装は薄い皮のベストと白い長袖のインナー、膝の上までしかない短いスカート……足が……丸出しです……はしたないです。

「見た目は魔法使いウィザードになったな。ほらほら、支払いを済ませな」

「お任せください。一般常識を得たわたくしに死角はございません」



「……お客さん、それは銅貨じゃない、金貨だよ」

 一般常識を身につけるには、さらなる訓練が必要なようです。
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