不倫ばかりする夫にもう一度振り向いてもらおうとして、自分磨きを頑張ったら王太子が振り向きました

如月ぐるぐる

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16 心の解放

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 ボール遊びをする子供を見て、私は思いついた考えをまとめる事にした。
 これならみんなの望みが叶うし、私も上手くいけば家に帰れる。

「え~っと、これだとのバランスが……こっちを少し増やしてウチを減らして……」

 う~ん、調整が難しいなぁ。
 でもこれが上手くいけば、きっとみんな喜んでくれるはず!

 気が付いたら夜になっていた。
 ずっと部屋に籠ってたら気が付かなかったわ。
 ドアがノックされた。

「イングリッド? 体調でも悪いのかい? 医者を呼ぼうか?」

 リチャードだ。
 いけないイケナイ、こんな事で人に迷惑をかけちゃダメよ。
 すぐにドアを開けてリチャードに顔を見せる。

「ごめんなさい、ちょっと考え事をしていたら、こんな時間になってしまったわ」

「無事ならそれでいいよ。それより夕食はどうする? ここに運ぼうか?」

「いえ、食堂へ行くわ」

「じゃあ一緒にいこう」

 食堂へ行くとフィリップ王太子が居た。
 もう食事が終わったのか、紅茶を飲んでいる。

「やあイングリッドさん、今から夕食ですか?」

「すみませんご心配をおかけしました。今から夕食を頂きます」

「それではご一緒しましょう」

 え? 食後のティータイムじゃなかったの?
 そんな事を考えながらイスに座ると、フィリップ王太子とリチャードの席にも食事が並べられた。
 ……まってて……くれたの?
 旦那様だったら先に食べてるのに……気を使ってくれた?
 ううん、昔は旦那様も待っててくれてた。
 これが……普通なの?



 翌日、資料を作成するのに必要な材料を運んでいると、フィリップ王太子が近くを歩いていた。

「イングリッドさん? そんなに荷物があるのなら、私も手伝いますよ」

「いえいえ! 王太子にそんな雑用をさせるなんてできませんよ!」

「何をおっしゃいますか。あなただって王女ではありませんか」

 それはそうだけど……荷物を半分以上持ってくれて、部屋まで運んでくれた。
 フィリップ王太子、優しいのね。

 

 資料作成が終わり、余った材料を片付けに行こうとすると、今度はリチャードが居た。
 リチャードは何も言わず、当たり前のように荷物を持ってくれた。

「え? 女性が荷物を持っていたら、男が持ってあげるのが当たり前だろ?」
 
 そういえば前にも持ってくれたけど……旦那様は……昔なら持ってくれた。



 そんな事が何度か続き、私は少し混乱しながらベッドに倒れ込んだ。

「イングリッド様お疲れですね。最近は何を作ってらっしゃるんですか?」

 メイドさんがコートを片付けながら話しかけてきた。
 
「資料を作っているの。これが出来ればみんなが幸せになるはずよ」

「それは良い事ですね。ウチの旦那もみんなの幸せとは言わず、私の幸せを考えてくれるといいんですけど」

「……旦那さんはイジワルなの?」

「イジワルというか、ウチの旦那、甘えちゃってるんですよ。かまどの火おこしをサボったり、水汲みが遅れたり、力仕事の割合が減ったり? そんな感じなんですよ」

「え? 火おこしって女の仕事でしょ?」

「ロイツェン=バッハではそうなんですか? この国ではもっぱら男の仕事です」

「水汲みは女が朝早く起きて……」

「女が朝食を作っている間に、男が汲んできますね」

「冬の買い出しは女が……」

「女が品選びをしますが、運ぶのは男です」

 え? あれ? そうだったかしら???
 あ、でも確かに昔はそうだったような……?

 それからは色々な事が目についた。
 みんなが仕事を頑張ってるんだ、みんなが優しすぎるだけだ、そう思っていたことが、実は当たり前の事であり、私と旦那様の関係の方が特殊だという事が理解できて来た。

 でも、でもそれは私がいけないだけで……。




「イングリッド」

 部屋のドアがノックされた。
 おっと、いけないイケナイ、ボーっとしてたら資料作成が遅れちゃう。
 でも誰かしら? 女の人の声だったけど。

「はい、どうぞ」

 ドアが開くと、そこにはお姉様が立っていた。

「お姉様!? お久しぶり、どうしてシュタット国に?」

「元気そうねイングリッド。実は今日はお話があってきたのよ」

 少し困ったような顔のお姉様を部屋に招き入れた。
 メイドさんに頼んでお茶を用意してもらい、向かい合って座った。

「それでどうしたの?」

「落ち着いて聞いてちょうだい。あなたの旦那様、アントンが逮捕されたわ」

「……え!? どうして!? 一体何があったの!?」

「アントンはね、飲むお金が無くなったからと、あなたのお店のお金を盗もうとしたの。幸い未遂で終わったけど、騒ぎを聞きつけた衛兵に暴力をふるってしまったのよ」

 な、なんて事なの……私が……私が居なかったばっかりに……。
 そうだわ、こんな所でウダウダ考えてる場合じゃない! 今すぐ戻らないと!
 急いで席を立って準備を始めると、お姉様に止められた。

「離してお姉様! 旦那様を迎えに行かないと!」

「落ち着いてイングリッド。今からいっても意味がないわ、到着したころには取り調べが終わっているはずよ」

「それは……そうだけど」

「それよりもイングリッド、もうそろそろ意地を張るのはやめても良いんじゃないかしら」

「意地? 意地を張るって何の事?」

「あなたはお父さまと喧嘩をして城を出たわ。自分の信念を曲げたくないから、と。だからアントンと離婚できないのよ。離婚をしてしまったら、自分が間違っていた事を認める事になるから。自分の信念を曲げる事になるから。だからアナタは――」

「そんな事ない! 旦那様はいい人なの! 今はあんなだけど、それは私が仕事にかまけてたのがいけないの!」

「イングリッド、この国に来て、2人の王太子と接して、何か思う所は無かったかしら? アントンと比べて、いつものアタナと比べて、この国での夫婦の、男女間の生活はどうだったかしら。アナタのいつもと比べて違うと思った所は無い?」

 違う……所……。
 そんな所……無い。あるはずがない。だって、だって私は理想の結婚をしたはずなんだもの。

 ――そんなに荷物があるのなら、私も手伝いますよ――

 違う……それは私の気を引こうとしているから。

 ――女性が荷物を持っていたら、男が持ってあげるのが当たり前だろ?――

 違う……それはカッコつけているから。

 ――国ではもっぱら男の仕事です――

 それは……それは国が違うから。
 水汲みも、冬支度の買い出しも、女がやるもので……私がいけないから……。

 ――旦那、甘えちゃってるんですよ――
 ――意地を張るのはやめても良いんじゃないかしら――

 何かが私の中で砕け散った。
 目の前の景色が変わり、まばゆい光が私の目に入り込んでくる。
 フッと気が軽くなって、今まで悩んでいたことがバカみたいに思えてきた。

「私……どうして気が付かなかったのかしら」
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