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第三章【青の月の章】16歳
第46話「十六歳、兎に似てる?」
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その質問に悔しさがつのる。
私が断ったのを知っておいて、あの男性が鬼狩りを忌避したのに、その上で”結婚したかったか?”ときくのは卑怯だ。
まるで私の気持ちなんておかまいなし。
……その気持ちを口にしない私が一番の臆病者。
「私はしたくなかったよ。でもどう選んでたかはわからない」
帝が許せば私は嫁いでいたかもしれない。
過ぎたこととはいえ、もしかして……の道をはじめて直視することになった。
太陽が沈んで、今度こそちゃんとした夜になった。
空を見上げれば流れ星が肉眼で見えるほどの満天の星空。
そのなかで一等に丸く輝く月。
夕暮れ前は白くて目立たなかった月が、夜になれば安らぎを与える光となる。
私は背伸びをやめ、彼の頬から手を下ろした。
「月には兎が住んでいる、でしたよね?」
彼は私から一歩後退り、物思いに沈んだ微笑みを浮かべた。
私はそれにうなずくと、母を思い出し、そのあとに木彫りの兎が頭に浮かんだ。
「あの木彫りの兎は私の宝物よ」
どれほどうれしかったことか。
今まで彼からもらった幸せがどれほど素晴らしいものか、彼が一番わかっていない。
「私って、兎に似てる?」
八重桜の瞳は彼にとって兎だろうか。
まるで試すように、私は嫌味な質問を彼に投げる。
「……似ています。とても」
意地悪に対し、彼は大きく一歩前に踏み出て、私の目元に指を滑らす。
目を閉じれば前髪がかき分けられ、とてもやさしい触れ方に泣きそうになった。
――そのあたたかさが何だったのか。
目を閉じて何も見ないようにしたから明確な答えはない。
私の受け取り方次第であり、彼がその先に言葉を言わなければ夜に溶け込むだけのもの。
(鬼狩りであってもいいのに……)
私を姫だと受け入れてくれるのと同じように――。
***
八重桜が美しく咲き誇る頃。
朝、目を覚ましてぼんやりと目を擦りながら縁側に出る。
「桃さん。いらっしゃいますかー……」
「とーわちゃん、お誕生日おめでとう!!」
寝ぼけていたのが一瞬で意識がはっきりとした。
視界に花びらが舞い降りてきて、目を点にしていると屋根から浅葱が降りてきた。
「あれ? サプライズ失敗?」
(サプライズ?)
「あ! 浅葱! なにしてるの!!」
顔面蒼白になって桃が戸口から駆けてくる。
「今日は時羽ちゃんの誕生日だろ!? お祝いしたくって!」
「朝から失礼でしょ! ほんっとデリカシーがないんだからっ!」
そう怒りをぶつけて桃は私の肩を押し、部屋に引いていく。
さすがは鬼狩り一族とあって、桃は見た目のほんわかさに対して筋力があった。
サッと襖を閉めると、向こう側から浅葱がぼやいている。
それを桃は無視して、パタパタと慌ただしく駆けまわって着物を用意する。
今では芹に代わって桃が立派に私の世話を焼くようになった。
「自分で出来ることは自分でする」と言えば、「姫君らしさをもってほしい」と懇願されたのでおとなしく着付けをしてもらった。
「ありがとう、桃さん。別に気にしなくていいのよ? 浅葱さんだもの」
朝から浅葱が騒がしかったことに桃はプリプリして頬を膨らませている。
「姫様はもう少し警戒心をもってください。いくら仲良くても浅葱は男です」
「? 浅葱さんは桃さんの婚約者でしょ? 何をそんな心配するの」
「……そういうことじゃないですよぉ」
(なんだか芹に似てきたなぁ)
最初こそぽわぽわした花のような女性と思っていたが、長く共に過ごすようになれば桃に変化が見られた。
着付けが終わるとまた忙しく駆けまわるので、私はそれを観察するのを楽しんでいる。
「あうっ……」
芹に比べるとドジなところがあり、何もないところでよく転んでいるが……。
「姫様。今日はこれをつけてくださいね」
桃は木箱から新しい髪飾りを取り出し、私の髪にそっと添える。
「キレイね。どうしたの、これ?」
藍と白の布地で作られた花を模した飾り。
色合いからして藍染だろう。
「今日は姫様のお誕生日ですから。よく似合っています」
「どなたから?」
その問いに桃はにっこりと微笑むだけで、襖をあけて部屋の中に日差しを取り込んだ。
「あ、やっと出てきたー。お、時羽ちゃん。それ似合ってんじゃん」
髪飾りを見て浅葱が晴れやかに笑う。
「ありがとう。こんなにかわいいの、うれしい」
かわいすぎてくすぐったくなるくらいに。
朝からすでに幸せな誕生日だと浮かれていると、浅葱と桃が顔を合わせてはにかんでいた。
(二人からのプレゼントね。私もちゃんとお返ししよっと)
「時羽ちゃん、何歳になったのー?」
「えっと……十六歳、かな。年齢だけは立派に大人ね」
「桃も十六歳だったよな? いやあ、二人が仲良くなってオレはうれしいよ」
浅葱はいつも明るく、見ていてこっちまで楽しい気持ちになる。
鬼狩りは気難しい人が多いと桃に聞いているが、浅葱が例外なのも理解できた。
底なしの明るさ、これほどの気さくな人は宮中にも外にもなかなかいない。
浅葱と桃と出会えてよかった。
心からそう思えるほど、二人は私にとって大切な友人だった。
私が断ったのを知っておいて、あの男性が鬼狩りを忌避したのに、その上で”結婚したかったか?”ときくのは卑怯だ。
まるで私の気持ちなんておかまいなし。
……その気持ちを口にしない私が一番の臆病者。
「私はしたくなかったよ。でもどう選んでたかはわからない」
帝が許せば私は嫁いでいたかもしれない。
過ぎたこととはいえ、もしかして……の道をはじめて直視することになった。
太陽が沈んで、今度こそちゃんとした夜になった。
空を見上げれば流れ星が肉眼で見えるほどの満天の星空。
そのなかで一等に丸く輝く月。
夕暮れ前は白くて目立たなかった月が、夜になれば安らぎを与える光となる。
私は背伸びをやめ、彼の頬から手を下ろした。
「月には兎が住んでいる、でしたよね?」
彼は私から一歩後退り、物思いに沈んだ微笑みを浮かべた。
私はそれにうなずくと、母を思い出し、そのあとに木彫りの兎が頭に浮かんだ。
「あの木彫りの兎は私の宝物よ」
どれほどうれしかったことか。
今まで彼からもらった幸せがどれほど素晴らしいものか、彼が一番わかっていない。
「私って、兎に似てる?」
八重桜の瞳は彼にとって兎だろうか。
まるで試すように、私は嫌味な質問を彼に投げる。
「……似ています。とても」
意地悪に対し、彼は大きく一歩前に踏み出て、私の目元に指を滑らす。
目を閉じれば前髪がかき分けられ、とてもやさしい触れ方に泣きそうになった。
――そのあたたかさが何だったのか。
目を閉じて何も見ないようにしたから明確な答えはない。
私の受け取り方次第であり、彼がその先に言葉を言わなければ夜に溶け込むだけのもの。
(鬼狩りであってもいいのに……)
私を姫だと受け入れてくれるのと同じように――。
***
八重桜が美しく咲き誇る頃。
朝、目を覚ましてぼんやりと目を擦りながら縁側に出る。
「桃さん。いらっしゃいますかー……」
「とーわちゃん、お誕生日おめでとう!!」
寝ぼけていたのが一瞬で意識がはっきりとした。
視界に花びらが舞い降りてきて、目を点にしていると屋根から浅葱が降りてきた。
「あれ? サプライズ失敗?」
(サプライズ?)
「あ! 浅葱! なにしてるの!!」
顔面蒼白になって桃が戸口から駆けてくる。
「今日は時羽ちゃんの誕生日だろ!? お祝いしたくって!」
「朝から失礼でしょ! ほんっとデリカシーがないんだからっ!」
そう怒りをぶつけて桃は私の肩を押し、部屋に引いていく。
さすがは鬼狩り一族とあって、桃は見た目のほんわかさに対して筋力があった。
サッと襖を閉めると、向こう側から浅葱がぼやいている。
それを桃は無視して、パタパタと慌ただしく駆けまわって着物を用意する。
今では芹に代わって桃が立派に私の世話を焼くようになった。
「自分で出来ることは自分でする」と言えば、「姫君らしさをもってほしい」と懇願されたのでおとなしく着付けをしてもらった。
「ありがとう、桃さん。別に気にしなくていいのよ? 浅葱さんだもの」
朝から浅葱が騒がしかったことに桃はプリプリして頬を膨らませている。
「姫様はもう少し警戒心をもってください。いくら仲良くても浅葱は男です」
「? 浅葱さんは桃さんの婚約者でしょ? 何をそんな心配するの」
「……そういうことじゃないですよぉ」
(なんだか芹に似てきたなぁ)
最初こそぽわぽわした花のような女性と思っていたが、長く共に過ごすようになれば桃に変化が見られた。
着付けが終わるとまた忙しく駆けまわるので、私はそれを観察するのを楽しんでいる。
「あうっ……」
芹に比べるとドジなところがあり、何もないところでよく転んでいるが……。
「姫様。今日はこれをつけてくださいね」
桃は木箱から新しい髪飾りを取り出し、私の髪にそっと添える。
「キレイね。どうしたの、これ?」
藍と白の布地で作られた花を模した飾り。
色合いからして藍染だろう。
「今日は姫様のお誕生日ですから。よく似合っています」
「どなたから?」
その問いに桃はにっこりと微笑むだけで、襖をあけて部屋の中に日差しを取り込んだ。
「あ、やっと出てきたー。お、時羽ちゃん。それ似合ってんじゃん」
髪飾りを見て浅葱が晴れやかに笑う。
「ありがとう。こんなにかわいいの、うれしい」
かわいすぎてくすぐったくなるくらいに。
朝からすでに幸せな誕生日だと浮かれていると、浅葱と桃が顔を合わせてはにかんでいた。
(二人からのプレゼントね。私もちゃんとお返ししよっと)
「時羽ちゃん、何歳になったのー?」
「えっと……十六歳、かな。年齢だけは立派に大人ね」
「桃も十六歳だったよな? いやあ、二人が仲良くなってオレはうれしいよ」
浅葱はいつも明るく、見ていてこっちまで楽しい気持ちになる。
鬼狩りは気難しい人が多いと桃に聞いているが、浅葱が例外なのも理解できた。
底なしの明るさ、これほどの気さくな人は宮中にも外にもなかなかいない。
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心からそう思えるほど、二人は私にとって大切な友人だった。
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