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第一章【青の月の章】出会い〜14歳
第33話「鬼と緋色」
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あまりの空おそろしい状況に、いつもならベラベラと喋る口が開かない。
よくわからない涙がボロボロこぼれ落ち、酸素を求めて身体がけいれんしだす。
それを面白がって鬼が顔を近づけて、私の頬をベロリと舐めた。
私が怖がっているのを楽しみ、反応を窺う姿を見て窮地に陥ったと理解するとともに意識がかすみだす。
(イヤだ。こんな形で……)
涙とともに、思いの丈があふれだす。
赤い月はすくむほどに怖いが、決して赤が嫌いなわけではない。
焦がれるのは”緋色”、口に出せぬ恋情で彼を縛りつけた。
あんな風に気まずいままで別れるのは嫌だ。
勝手に盗み聞きしたことをちゃんと謝りたい。
私は彼が誰であろうと、私にとっては”緋月”なんだと伝えたい。
首を絞める鬼の手を掴み、引き剥がそうと歯を食いしばった。
「はっ……はぁ……くぅ……!」
「ほう。意外と粘るな。だが折るのは惜しい」
「ひ……っき……」
力を振り絞り、捨て身で私は鬼の足を蹴り飛ばす。
反動で首を絞める手が離れ、私の身体は宙に投げ出された。
「ひづ……」
何度も死ぬかと思った。
だがいざという時は意外とあっけないものだと、どこか諦めに似た気持ちが湧く。
それを引き止め、私の星になってくれるのは決まって彼だった。
「時羽姫っ!!」
緋色が揺れる。
月影になって私の身体を抱きしめて、そよ風を吹かせて着地する。
灯りのない場所で頼りになるのは月明かりだけ。
まともに顔が見えないのに、声や輪郭で彼だとわかってしまう。
「緋月……」
震える声で、彼の名を呼ぶ。
「すみません。遅くなりました。……俺は本当に何を」
「ありがとうっ……! ありがとう、緋月!」
手を伸ばし、彼の後頭部を引き寄せて抱きついた。
身体が震え、彼の支えがなければ立つことも叶わない。
情けない状態で、彼が抱き返してくれると不安が嘘のように消えていった。
そっと彼は私の肩を押し、穏やかに微笑んで立ち上がる。
私を庇うように前に立つと、空に浮く鬼を睨んで声を荒げた。
「姫を狙うとは……! キサマはここで狩るっ!!」
そう言って彼は腰に下げる刀を抜き、構えをとると地面を蹴り飛ばし高く飛ぶ。
鬼は血が騒ぐと笑いながら鋭い爪で空を裂く。
血のような赤い弾丸が彼に襲いかかるが、彼は器用に身をひるがえして刃を鬼に振るった。
長い爪と刃がぶつかり、彼はすぐに体勢を切り替えて着地した。
「お前、鬼狩りか? 身体能力が普通じゃねぇ。……あぁ、そうか。お前が」
鬼の言葉に彼は目を細め、頬を手の甲で拭う。
どうやら先ほどの衝突で頬が切れたようだ。
まるで非現実的な力のぶつかり合いに、私は出る幕もないと四つん這いになって影に逃げ込んだ。
(緋月……)
再び鬼と戦いだす姿に、私に出来るのは彼の無事を祈るだけと両手の指を絡めた。
「時羽ちゃん、こっち」
肩をトントンと叩かれ、焦って振り向けば「しーっ」と声をひそめてしゃがむ浅葱がいた。
いつもの軽装とは変わり、全身黒ずくめとなっている。
腰には二対の剣、戦うための姿にようやく彼と浅葱の繋がりがわかった。
今は泣いていられないと私は鼻をすすると、口元を固く結んで浅葱に続く。
家屋に入り、着物を私の肩にかけるとはにかんで頭を撫でてきた。
「ちょっと待っててな。あとでちゃんとアイツから説明させるから」
コクン、と私がうなずくと、浅葱は安堵に微笑んで家屋から飛び出し彼の助太刀をした。
金属音に荒れた風の音、薄暗い視界で音だけはハッキリと聞こえた。
どれくらいの時間をそこで待っていたかわからない。
気づけば音は止んでいて、木枯らしが砂利と擦れる小さな音だけが残っていた。
「時羽姫」
よくわからない涙がボロボロこぼれ落ち、酸素を求めて身体がけいれんしだす。
それを面白がって鬼が顔を近づけて、私の頬をベロリと舐めた。
私が怖がっているのを楽しみ、反応を窺う姿を見て窮地に陥ったと理解するとともに意識がかすみだす。
(イヤだ。こんな形で……)
涙とともに、思いの丈があふれだす。
赤い月はすくむほどに怖いが、決して赤が嫌いなわけではない。
焦がれるのは”緋色”、口に出せぬ恋情で彼を縛りつけた。
あんな風に気まずいままで別れるのは嫌だ。
勝手に盗み聞きしたことをちゃんと謝りたい。
私は彼が誰であろうと、私にとっては”緋月”なんだと伝えたい。
首を絞める鬼の手を掴み、引き剥がそうと歯を食いしばった。
「はっ……はぁ……くぅ……!」
「ほう。意外と粘るな。だが折るのは惜しい」
「ひ……っき……」
力を振り絞り、捨て身で私は鬼の足を蹴り飛ばす。
反動で首を絞める手が離れ、私の身体は宙に投げ出された。
「ひづ……」
何度も死ぬかと思った。
だがいざという時は意外とあっけないものだと、どこか諦めに似た気持ちが湧く。
それを引き止め、私の星になってくれるのは決まって彼だった。
「時羽姫っ!!」
緋色が揺れる。
月影になって私の身体を抱きしめて、そよ風を吹かせて着地する。
灯りのない場所で頼りになるのは月明かりだけ。
まともに顔が見えないのに、声や輪郭で彼だとわかってしまう。
「緋月……」
震える声で、彼の名を呼ぶ。
「すみません。遅くなりました。……俺は本当に何を」
「ありがとうっ……! ありがとう、緋月!」
手を伸ばし、彼の後頭部を引き寄せて抱きついた。
身体が震え、彼の支えがなければ立つことも叶わない。
情けない状態で、彼が抱き返してくれると不安が嘘のように消えていった。
そっと彼は私の肩を押し、穏やかに微笑んで立ち上がる。
私を庇うように前に立つと、空に浮く鬼を睨んで声を荒げた。
「姫を狙うとは……! キサマはここで狩るっ!!」
そう言って彼は腰に下げる刀を抜き、構えをとると地面を蹴り飛ばし高く飛ぶ。
鬼は血が騒ぐと笑いながら鋭い爪で空を裂く。
血のような赤い弾丸が彼に襲いかかるが、彼は器用に身をひるがえして刃を鬼に振るった。
長い爪と刃がぶつかり、彼はすぐに体勢を切り替えて着地した。
「お前、鬼狩りか? 身体能力が普通じゃねぇ。……あぁ、そうか。お前が」
鬼の言葉に彼は目を細め、頬を手の甲で拭う。
どうやら先ほどの衝突で頬が切れたようだ。
まるで非現実的な力のぶつかり合いに、私は出る幕もないと四つん這いになって影に逃げ込んだ。
(緋月……)
再び鬼と戦いだす姿に、私に出来るのは彼の無事を祈るだけと両手の指を絡めた。
「時羽ちゃん、こっち」
肩をトントンと叩かれ、焦って振り向けば「しーっ」と声をひそめてしゃがむ浅葱がいた。
いつもの軽装とは変わり、全身黒ずくめとなっている。
腰には二対の剣、戦うための姿にようやく彼と浅葱の繋がりがわかった。
今は泣いていられないと私は鼻をすすると、口元を固く結んで浅葱に続く。
家屋に入り、着物を私の肩にかけるとはにかんで頭を撫でてきた。
「ちょっと待っててな。あとでちゃんとアイツから説明させるから」
コクン、と私がうなずくと、浅葱は安堵に微笑んで家屋から飛び出し彼の助太刀をした。
金属音に荒れた風の音、薄暗い視界で音だけはハッキリと聞こえた。
どれくらいの時間をそこで待っていたかわからない。
気づけば音は止んでいて、木枯らしが砂利と擦れる小さな音だけが残っていた。
「時羽姫」
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