壁にキスはしないでください!~偽りの番は甘い香り、ほんろうされて今日もキスをする~

和澄 泉花

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第四章【君との運命、いいえ約束です】

第51話「本当に、仕方のない方ですね」

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生まれたときから共に笑い、傍にいた白夜が離れる。

そんなのは嫌。
なぜそうも簡単に葉緩と白夜の関係を切り分ける?

忍びと枝で言い表せるほど、愛想のない関係ではなかったはずだ。

どうして白夜は葉緩につらく当たる?

現実を受け止められず、背を向けてひたすらに駆けた。

いまさら枝として扱えと言われ、「はい、そうですか」とすんなり受け入れることは出来なかった。

「……阿呆が」

大気に溶け込むような呟きは葉緩に届かない。

***

白夜と向き合えないまま、葉緩は家へと帰って部屋に鍵をかける。

ベッドに腰掛け、お気に入りのくまのぬいぐるみを抱きしめながら唇を尖らせた。

「はあぁ……。ちゃっかり部屋に不法侵入ですか」
「葉緩の部屋、かわいいね」

葉緩は自分の家のため、真っ当に玄関口から入ったが何食わぬ顔で葵斗が窓から忍び込む。

ジロリと睨んで何も言わずにいると、葵斗は当たり前のように葉緩の隣に腰かけた。

あまりの節操なしだと、葉緩はしかめっ面に葵斗を睨みつける。

「ものすごーく今更ですけど、葵斗くんって結構Sっ気が強いですよね。というか変態? 葉名さんに対して強引だったのではないですか?」
「男はみんな変態だよ? 好きな女の子は可愛いものだし、構いたいし構ってほしいし」

にこにこゆるゆるな笑顔を見て、葉緩は気恥ずかしくなって顔を背ける。

不健全で、下心満載な気持ちを直球にぶつけられ、羞恥心が限界だと枕で葵斗を叩きつけた。

あっさりと受け止められ、悔しさに葉緩は涙目になって枕に顔を押しつけた。

「いい感じに言えたみたいな顔しないでください。葉名さんが主様たちに会えなかったらどうなってたか。少しは反省してくださいよ」

「……うん、綺麗事にはならないよね」

青い瞳が陰る。

目の前にいるのは葵斗のはずなのに、まるで蒼依と対面している気分だ。

憂いに満ちた表情を向けられると、まるで葉緩が悪いみたいだ。

だが女として譲れないものもある。

愛し合っていたとはいえ、番でもなかった蒼依の行動は無責任すぎた。

桐人と柚が葉名を助けてくれなかったら、母子ともにどうなっていたかと想像するだけゾッとした。

ゆえに葉緩は折れてはいけない。

ましてや桐哉と柚姫の健全なる子孫?栄を願っているのだから、その意志は固かっ
た。

葵斗はぬいぐるみを手放し、ベッドから降りると葉緩の前に膝をつく。

葉緩の手を両手で包み込み、上目遣いに不安も隠さずに葉緩に告白をした。

「今世はほどほどにする。あと、無責任にはしない」

握る手が汗ばんでいる。
葵斗と蒼依の後悔が入り混じった複雑さがある。

蒼依が死んだことで葉名は一人あてもなくさまようことになり、子どもには父親のいない苦労をかけた。

罪悪感と番の匂いに抗えない感覚に板挟みとなっていた。

「葉緩の気持ちが固まるまでちゃんと待つ。今度こそ、一緒に頑張りたいから」
「葵斗くん……」

二人で里を出ることしか考えておらず、生きようとあがいていたため、突然訪れた死は二人の夢を断絶した。

葉名との未来には障害が多く、乗り越えるためには若すぎた。

里の価値観も凝り固まっていたため、余計に難しかった。

真面目さゆえに苦悩は大きかったかもしれない。

今はお互いを縛るものがなくなったので、焦らずに将来を見つめたい。

(本当に、仕方のない方ですね)

こんな歪な愛し方を受け止められるのは他にいない。

運命さえくつがえそうとするいとおしさで結びついた彼の手を、葉緩はそっと握り返した。

「葉緩……!」
「特別ですよ? 特別、私の心に葵斗くんを入れてあげます」

その言葉に葵斗はまぶたを震わせる。

膨れっ面になった葵斗は年相応の男の子の顔をし、やけくそに葉緩の腰に腕を回した。

甘えん坊な一面に、葉緩の顔がボッと赤く染まる。

「なんかさぁ、桐哉ってズルいよね。柚ちゃんもいて、めっちゃパパしてたんじゃん」
「はい?」

話がぶっ飛んだような、おかしな焦点のあて方に首をかしげる。

桐哉は葉緩にとっての主であり、かつて命を救ってくれた桐人と同じ魂を持つ存在。

蒼依がいなくなり、一人で赤子を育てることになったが、桐人が我が子のように子をかわいがってくれた。

実質、桐人が父親と言っても過言ではない。

葵斗の視点で考えると、それは叶わなかった夢を取って代わられた気分なのだろう。

拗ねる葵斗がまるで子どものようで、おかしくなって葉緩は笑わずにはいられなかった。

「妬くところがおかしいですよ?」
「別に。妬いてるというより、悔しいだけ」

どちらかと言えば蒼依の想いが強めだ。

そこに葵斗の独占欲が上乗せされているような口ぶりで。

甘え知らずの人が抱きついてくる姿に、母性がくすぐられてそっと頭を撫でてみた。
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