壁にキスはしないでください!~偽りの番は甘い香り、ほんろうされて今日もキスをする~

和澄 泉花

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第二章【番としての恋路】

第19話「鼻血が出ています」

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「我流忍法・一撃必殺アターック!!」
「「は――!?」」

――ドゴォーンッ!!!

宙高く投げたボールを思いきりアタック。
バレーボール、しかし葉緩にはボール一つとて武器となる。

威力は強烈なもので、直撃した女子はなだれ込むように勢いに倒れてしまった。

「……葉緩ちゃん?」

耐え抜いていた柚姫が目を丸くし、葉緩を凝視する。

葉緩は柚姫を見るや、痛ましい姿に悔しくなって飛びつくように抱きついた。

「姫ぇええ! 大丈夫ですかぁ!? 怪我は……やだ、鼻血が出てますよお!」

体操着のポケットからティッシュを取り出し、柚姫の鼻に押しつける。

いざという時のため、葉緩はたいていの緊急キットは持ちあわせていた。

メソメソと声をあげながら泣き、柚姫の顔をウェットティッシュで血のカスを拭きとった。

「ふええん、姫の愛らしいお顔がぁ……」
「な、なんでティッシュを」
「なんでもありますよ! いざと言うときのために準備万端です!」

どやっと誇らしげに口角をあげるが、実態は白夜に持たせた荷物。

それでも葉緩は桐哉と柚姫を守るためならば、リスク管理も大事だと考えて白夜を巻き込んでいる。

もとは白夜の入れ知恵ではあるが、葉緩はすっかり自分の成果と鼻を高くしていた。

自信満々に見えて、心は柚姫を傷つけたショックに震えている。

それを感じ取った柚姫は、フッと力を抜いて笑い出す。

「ふふ、葉緩ちゃんらしいや。ありがとね」
「……はい。駆けつけるのが遅くなり申し訳ないです」
「来てくれたことがうれしいんだよ~」

きっかけは桐哉の想い人だったからかもしれない。
だが今は柚姫を特別大切な友人だと思い、愛おしさがさく裂している。

もはや桐哉より放っておけないと、葉緩は懐いた猫のように柚姫に擦り寄った。

「よ~つ~い~!」

その時、ちょうど体育館を離れていた体育教師が戻ってくる。

葉緩のもとへズンズンと詰め寄り、葉緩の攻撃で負傷した生徒たちを一瞥して怒声をあげた。

「お前は何しとるか! あきらかに悪意があったぞ!」
「友達を傷つけられて怒らないのは無理があります!!」

教師の説教に葉緩は猛反発をする。
柚姫への攻撃現場を見ていなかったようだが、それとこれは別問題。

葉緩にとって重要なのは“柚姫の心”だ。

悪意をぶつけられて平気な人はいないと、柚姫の傷ついた心を思うと葉緩だって必要悪になる。

柚姫を守るためならば、怖いものなどない。

「私は悪意を持って攻撃しました。その報いとして今、先生に怒られているのです」

あっけにとられる教師に葉緩は胸をはる。

許せずに攻撃してしまったのだから、これは正当な報いを受けていると葉緩はしたり顔を浮かべた。

「因果応報になるかはわかりませんが」
「う、うーん……」

たしかに葉緩は女子たちに悪意をもって攻撃した。

報いとして教師に怒られる、これでスッキリ解決とこじつけに近いまとめ方だ。

困り果てる体育教師に、正当防衛と鼻の穴を膨らませる葉緩。

答えを出すのは難しいと体育教師が頭を悩ませているが、それを見て柚姫は深呼吸をするとボールを手に立ちあがる。

「姫?」

一人で進みだす柚姫に、葉緩は不安を抱くも追いかけはしない。

だが一体何をする気だろうと首を傾げると、柚姫は運動音痴な動きで両手を使い、ボールを投げた。

見事、ボールは柚姫をいじめてきた主犯女子の顔面に直撃する。

「いったーいっ!?」
「ちょっと、徳山のくせに何するのよ!」

柚姫の攻撃に吠える女子たち。
対して柚姫は静かに眉をひそめ、強気に睨み返した。

はじめて見る柚姫の威圧に女子たちの肩が跳ねあがる。

「いじめてきたことへのお返しだよ。あたしが感じた痛み、こんなものじゃないんだから」

柚姫は一年生の時、陰ながらにいじめを受けていた。
陰湿な行為は人目に付くことなく、水面下で行われていた。

聞こえてくる笑い声に何度も耳を塞ぎ、俯いてばかり……。

「だから罪を罪のまま残してあげる。もうあなたたちなんて怖くない」

抵抗を示した柚姫を見て、葉緩はもう大丈夫だと不安が一掃される。

葉緩が心配に駆けまわる必要がないくらい、柚姫は強い女の子だ。

桐哉が好きになった女の子がカッコよくないわけないと、葉緩は期待に笑顔を咲かせた。
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