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第二章【番としての恋路】
第18話「我慢なんて無理です!」
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(ダメ、思考がぐちゃぐちゃになる。頭が痛い。……なんで)
”脳裏に根の絡み合う一本の木が過る。白い枝を、手折る”
これはいったいなんだろう。
頭がズキズキして、後頭部は締め付けられて耐えると汗がにじみ出る。
これ以上、中に入り込まれると四ツ井 葉緩はどこにもいなくなると、脳裏をよぎる光景を黒く塗り消していった。
「――葉緩っ!!」
葉緩を庇うように抱きあげると、葵斗はその場を高く飛ぶ。
いつものゆったりとした動きからは想像も出来ない素早いものだった。
そこで葉緩はハッキリと意識を保てるようになり、葵斗の腕を借りて着地する。
元々立っていた場所に目をやると、一本の矢が地面に刺さっていた。
小さく折られた紙が矢に結びついており、葉緩は焦燥感にその矢を拾いに行く。
紙を開くと、筆で書かれたような書体で葉緩への警告文が記載されていた。
「“裏切り者が望月 葵斗に近づくな”。……裏切り者?」
「気にしないで。俺が好きなのは葉緩だけだから」
その言葉に葉緩はイラっとして、目を鋭くさせ葵斗を睨みつける。
「誤魔化さないでください! 私があなたに何を裏切ったと」
心当たりのない警告に興奮し、葵斗を問い詰めようとする。
だがその疑問を解決する間もなく、次の出来事が訪れた。
バンッ――と床に叩きつける大きな音。
体育館から響いてきた音に、葉緩は文そっちのけで振り返り耳を澄ませる。
(なんですか? ずいぶん強い音でしたが)
――バンッ……と音がまた響く。
キュキュッと床をこする音と、ボールの弾む音、そのなかで小さな物音を聞き取った。
「……血の匂いがする」
どうやら葵斗も嗅覚が敏感なようだ。
忍びなのだから当たり前とはいえ、葵斗の忍びとしての活躍を見ていないため疑心暗鬼ではある。
葉緩も体育館からただよういくつもの匂いのなかから、血の匂いをかぎとって、さらに危機を察知した。
(血……まさか!)
嗅ぎ取った匂いに覚えのある葉緩は血相を変え、体育館へと駆けていく。
手に持っていた矢は放り投げられていた。
風を切るように体育館の中へと戻る。
「何事ですか!?」
「と、隣のクラスの女子たちが徳山さんに集中攻撃してて……」
出入口付近でオロオロとするクレアに問い、現状を確認する。
隣のクラスの女子複数人がバレーボールの練習でアタックを打つふりをし、柚姫にボールをぶつけていた。
あからさまな嫌がらせだとわかりながらも、誰も止めることが出来ない。
ひそひそと聞こえてくる言葉に葉緩は必要な情報を選別していく。
「あの人ら怒らせると怖いんだよね。先生が見てないタイミングで攻撃してて」
陰湿な攻撃にクレアも心を痛めているようだ。
しかし集団攻撃に注意できるほど個々の抵抗力は強くない。
攻撃の対象となる柚姫もグッと唇を噛みしめて耐えているようだった。
「運動中の怪我って言ってるけど、あんなの怪我するに決まってるよ。でもあの人たち……って、四ツ井さん?」
クレアの言葉をスルーして、葉緩は拳を握りしめると柚姫のもとへ真っ直ぐに歩いていく。
柚姫を攻撃する女子たちを睨みつけながら、静かに怒りの炎を灯した。
『堅忍不抜』我慢強く志しを変えない。
これが四ツ井家の家訓だ。
かつての葉緩ならばこの家訓に従い、柚姫へのいじめは桐哉を呼んで終わらせていただろう。
けっして出しゃばらないと、葉緩が表立って助けるなんてことはしなかった。
(主様への忠誠を第一としてきた。どんな厳しいことも我慢して耐えてきました)
それは確実に葉緩の自信へと変わっていた。
時には耐え抜き、忍ぶことも美徳としていた。
だがそれは大切な人が傷つくのを見過ごすことに繋げてはダメだ。
これが我慢すべきことならば、葉緩は家訓を破ろう。
志は変わらなくても、行動は変わる者なのだから。
(これは忠誠をなので、志に基づいてのもの……!)
カッと目を開き、床に転がっていたボールを拾うと上へと勢いよく投げつけ、限界値まで高く飛びあがる。
(柚姫が傷つけられて、我慢なんて無理です!!)
これは“正当防衛”である。
我慢すべき事項ではない。
柚姫を守ることが葉緩のつとめであり、友情の証だった。
「我流忍法・一撃必殺アターック!!」
「「えっ――!?」」
――ドゴォッ!!
宙高く投げたボールを思い切り打ち付ける。
ようするにただのアタックなわけだが、その威力は強烈だ。
直撃した女子はなだれ込むように勢いに倒れてしまう。
「……葉緩ちゃん?」
”脳裏に根の絡み合う一本の木が過る。白い枝を、手折る”
これはいったいなんだろう。
頭がズキズキして、後頭部は締め付けられて耐えると汗がにじみ出る。
これ以上、中に入り込まれると四ツ井 葉緩はどこにもいなくなると、脳裏をよぎる光景を黒く塗り消していった。
「――葉緩っ!!」
葉緩を庇うように抱きあげると、葵斗はその場を高く飛ぶ。
いつものゆったりとした動きからは想像も出来ない素早いものだった。
そこで葉緩はハッキリと意識を保てるようになり、葵斗の腕を借りて着地する。
元々立っていた場所に目をやると、一本の矢が地面に刺さっていた。
小さく折られた紙が矢に結びついており、葉緩は焦燥感にその矢を拾いに行く。
紙を開くと、筆で書かれたような書体で葉緩への警告文が記載されていた。
「“裏切り者が望月 葵斗に近づくな”。……裏切り者?」
「気にしないで。俺が好きなのは葉緩だけだから」
その言葉に葉緩はイラっとして、目を鋭くさせ葵斗を睨みつける。
「誤魔化さないでください! 私があなたに何を裏切ったと」
心当たりのない警告に興奮し、葵斗を問い詰めようとする。
だがその疑問を解決する間もなく、次の出来事が訪れた。
バンッ――と床に叩きつける大きな音。
体育館から響いてきた音に、葉緩は文そっちのけで振り返り耳を澄ませる。
(なんですか? ずいぶん強い音でしたが)
――バンッ……と音がまた響く。
キュキュッと床をこする音と、ボールの弾む音、そのなかで小さな物音を聞き取った。
「……血の匂いがする」
どうやら葵斗も嗅覚が敏感なようだ。
忍びなのだから当たり前とはいえ、葵斗の忍びとしての活躍を見ていないため疑心暗鬼ではある。
葉緩も体育館からただよういくつもの匂いのなかから、血の匂いをかぎとって、さらに危機を察知した。
(血……まさか!)
嗅ぎ取った匂いに覚えのある葉緩は血相を変え、体育館へと駆けていく。
手に持っていた矢は放り投げられていた。
風を切るように体育館の中へと戻る。
「何事ですか!?」
「と、隣のクラスの女子たちが徳山さんに集中攻撃してて……」
出入口付近でオロオロとするクレアに問い、現状を確認する。
隣のクラスの女子複数人がバレーボールの練習でアタックを打つふりをし、柚姫にボールをぶつけていた。
あからさまな嫌がらせだとわかりながらも、誰も止めることが出来ない。
ひそひそと聞こえてくる言葉に葉緩は必要な情報を選別していく。
「あの人ら怒らせると怖いんだよね。先生が見てないタイミングで攻撃してて」
陰湿な攻撃にクレアも心を痛めているようだ。
しかし集団攻撃に注意できるほど個々の抵抗力は強くない。
攻撃の対象となる柚姫もグッと唇を噛みしめて耐えているようだった。
「運動中の怪我って言ってるけど、あんなの怪我するに決まってるよ。でもあの人たち……って、四ツ井さん?」
クレアの言葉をスルーして、葉緩は拳を握りしめると柚姫のもとへ真っ直ぐに歩いていく。
柚姫を攻撃する女子たちを睨みつけながら、静かに怒りの炎を灯した。
『堅忍不抜』我慢強く志しを変えない。
これが四ツ井家の家訓だ。
かつての葉緩ならばこの家訓に従い、柚姫へのいじめは桐哉を呼んで終わらせていただろう。
けっして出しゃばらないと、葉緩が表立って助けるなんてことはしなかった。
(主様への忠誠を第一としてきた。どんな厳しいことも我慢して耐えてきました)
それは確実に葉緩の自信へと変わっていた。
時には耐え抜き、忍ぶことも美徳としていた。
だがそれは大切な人が傷つくのを見過ごすことに繋げてはダメだ。
これが我慢すべきことならば、葉緩は家訓を破ろう。
志は変わらなくても、行動は変わる者なのだから。
(これは忠誠をなので、志に基づいてのもの……!)
カッと目を開き、床に転がっていたボールを拾うと上へと勢いよく投げつけ、限界値まで高く飛びあがる。
(柚姫が傷つけられて、我慢なんて無理です!!)
これは“正当防衛”である。
我慢すべき事項ではない。
柚姫を守ることが葉緩のつとめであり、友情の証だった。
「我流忍法・一撃必殺アターック!!」
「「えっ――!?」」
――ドゴォッ!!
宙高く投げたボールを思い切り打ち付ける。
ようするにただのアタックなわけだが、その威力は強烈だ。
直撃した女子はなだれ込むように勢いに倒れてしまう。
「……葉緩ちゃん?」
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