猫アレルギーだったアラサーが異世界転生して猫カフェやったら大繁盛でもふもふスローライフ満喫中です

真霜ナオ

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第二章<猫アレルギー治療編>

08:伝説の薬草

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 地下洞窟から抜け出した俺たちは、ギルドールの家へと招かれている。
 幸い兵士たちに見つかることもなく済んだのだが、彼は洞窟から町までの、人目につかないルートを知っているようだった。
 ギルドールの家は広々としていたが、あちこちに物が散らばっていて、お世辞にも綺麗とは言いがたい。
 それでも兵士に見つかるリスクを考えれば、野宿や宿に泊まるより断然マシだった。

「おいオッサン、何であの場所にアンタがいたんだよ? つーか、何で兵士があんなトコに来やがったんだ?」

「魔獣を退治しに来た兵士……という感じではありませんでしたね」

 二人の言う通り、薬を作るのに必要な果実を採りに行かせたのはギルドールだ。同行するわけでもなく、ましてや危険だとされているあの場にいる理由がない。
 それに、人間は近寄らない場所だとも言っていた。だというのに、やってきた兵士たちは、魔獣を相手にするための武器も持っていなかったのだ。

「……果実は採ってこられたのか?」

 ギルドールは、俺たちの疑問には答えない。代わりに成果を知りたがるので、俺は果実を詰め込んだ袋をテーブルの上に乗せる。
 その中身を確認したかと思うと、ギルドールは止める間もなくその果実にかじりついた。

「なっ……何してるんですか!? それは薬を作るのに必要な材料だって……!」

「コレな、材料じゃねえんだわ。オレのおやつ」

「…………は?」

 焦る俺とは対照的に、平然と言ってのけたギルドールは、あっという間に果実をひとつ平らげてしまう。
 おやつとは、一体どういうことなのだろうか? 俺たちは、薬を作るための材料を採りに行かされたはずではないのか?

「……テメェ、騙しやがったのか?」

 いち早く状況を理解したグレイが、怒りのこもった低い声を出す。
 普段は家族のように接している俺ですら、近寄れば噛みつかれるのではないかと感じる雰囲気なのだが。当のギルドールは、まるで意に介していない様子だ。

「ああ、あの場所は魔獣の巣窟そうくつでも何でもない。国で管理されてるモンで、あそこでしか成長しないこの果実を育ててる場所だよ。治療にも関係ない。オレが食いたかったから頼んだの」

「こンの、クソ医者が!!」

 俺たちを騙していたことをあっさりと認めるギルドールに、とうとうグレイの怒りが我慢の限界に達する。
 額に青筋を立てて殴り掛かろうとするグレイを、俺はなかば体当たりをする勢いで止めた。けれど、怒りを感じているのはグレイだけじゃない。
 パン! と高い音が響いたかと思うと、コシュカがギルドールの頬を引っ叩いていた。

「コシュカ……!」

「さすがに私も、はらわたが煮えくり返るという思いを味わっています」

 まさか、彼女が手を上げるとは思ってもみなかった。
けれど、コシュカがそうしていなければ、俺の方がギルドールを殴りつけていたかもしれない。

「可愛い顔して、強烈な一撃だねえ。結構キたよ」

 叩かれた頬を押さえながら、ギルドールはへらへらと笑っている。
 やはり俺かグレイがもう一発お見舞いするべきかと思ったが、彼は果実をもう一つ手に取る。それを見つめる表情に、先ほどまでのふざけた空気は見られない。

「試したかったんだよ、お前らの本気ってやつを」

「……どうして、そんなことをする必要があるんですか? 俺たちは何としてでも情報が欲しい。だからこそ、隣国からわざわざやってきて医者捜しをしてるんだ」

「お前さんは、医者は人を救う仕事だって言ったな。その通りだよ。……だけどな、オレは誰彼構わず助けてやるようなお人好ひとよしじゃあない」

 ギルドールは、果実をテーブルの上に転がした。それを見たヨルが俺の肩から飛び降りると、前足を使って果実にちょっかいをかけている。
 彼はそれを見ていたが、咎める様子はない。

「お前は医者なんだろうと、当たり前の顔をして治療をせがむ人間は多い。オレだって仕事だ、頼まれればできる限りのことはするさ。それでも、回復した途端に言いがかりをつけちゃあ、治療費を踏み倒すやからも珍しくねえんだよ」

 俺たちはそんな人間とは違う。そう言いたい気持ちはあったのだが、彼との信頼関係を築けていないのもまた事実だ。
 言葉ではどうとでも言えるが、ギルドールからしてみれば、そういった人間たちと俺たちとの違いを見分ける術などない。

「ましてや、今回は魔獣に関する病気の治療だときたもんだ。魔獣になんざ、まともな人間ならそもそも関わるもんじゃねえってのに。だからこそ、本気かどうか試す必要があった」

「……それで、俺たちの本気は信じてもらうことができたんですか?」

 下手をすれば捕まっていてもおかしくはなかったのだ。投獄されていたらと思うと、騙していたギルドールのことを許せない気持ちはある。
 けれど、俺たちにも事情があるように、彼にもまた事情があるのだとわかった。

「ああ、果実はちゃんと採ってきたわけだしな。騙す真似して悪かったよ。今度こそちゃんと協力するって約束してやる」

「ありがとうございます……!」

「ただし、確実な治療が保証できるってわけじゃねえぞ? そこらの医者よりか腕には自信があるが、魔獣に関する病なんてモンは未知だからな。少なくとも、今ある治療薬だけじゃ厳しいだろうよ」

 すぐにでも治療に取り掛かってくれるのかと思ったが、魔獣という存在についても、彼らにとっては未知な部分が多い。
 ギルドールが噂通り腕の立つ医者だとしても、その腕だけで治すことは不可能なのだろう。

「そうなると、どうすればいいんですか?」

「既存のアレルギー関連の治療薬を試す手もあるが、恐らく効果は薄いだろうな。ただ……ある薬草を持ってくることができれば、可能性はあるんじゃないかと思う」

「またオレらを騙そうって腹じゃねえだろうな?」

「疑うのはお前さんの自由だがな、オレには他にいい方法が浮かばねえのよ」

 グレイはまだ彼の本心を疑っているようだったが、俺には今のギルドールが嘘をついているようには思えない。
 これは俺の直感でしかないので、また騙される可能性も当然あるわけだが。

「その薬草は、どうすれば手に入れられるんですか?」

「その薬草は、簡単には手に入らない。むしろ、実在するモンなのかも怪しい伝説の薬草だな。だが、その薬草があればどんな病でも治すことができるって言われてる」

「実在するかもわからない、そんな薬草をどう探すのですか?」

「オッサン、適当なこと言ってるだけなんじゃねーのか?」

 あまりにも情報が不確かで、二人が疑いを持つのも無理はない。
 伝説の薬草だなんて、まるでファンタジーの世界じゃないか。そう、元の世界にいた俺だったら、真面目に聞き入れなかっただろうと思う。
 だけど、ここはそんなファンタジーがあり得る世界なのだ。

「ギルドールさん、その薬草を見つける方法はあるんですか?」

「さあな、この国のどこかにあるって話だが、見つけた人間がいねえんだから場所まではわからんよ。……ただ、伝説だって言われる薬草が町ン中に生えてるわけがねえ。消去法で考えるなら、人が立ち入らない場所を探すのが妥当だろうよ」

「人が立ち入らない、というと……今日の洞窟のような場所でしょうか? ああいった場所であれば、人目につかないことが多いのではないかと思うのですが」

「そうだな……洞窟っていやあ、今日の地下洞窟とは反対の場所にもうひとつ、洞窟があるな。そっちは正真正銘、兵士たちも近づかない天然洞窟だ」

 今日の地下洞窟は、国が管理している場所だと言っていた。兵士すらも近づかないというその洞窟ならば、一般人は余計に立ち入るような機会もないだろう。
 人目につかない場所と考えれば、可能性のある場所なのかもしれない。

「詫びとは言わんが、オレも同行してやる。というより、お前らじゃ薬草の見分けもつかないだろうしな。……ただ、今回は本当に危険が伴う可能性がある。坊主と嬢ちゃんはここで待つ方が……」

「私も行きます」

「オレも行くに決まってんだろ」

「二人とも、言い出したら聞かないので……全員で行きます」

 言葉を遮るように即答する二人に、そう言うだろうと思っていた俺は口元をゆるませる。
 ギルドールは目を丸くしてから、説得するだけ無駄だと理解したのだろう。全員で洞窟に向かうことを承諾してくれた。
 もちろん、ヨルも一緒に行く気まんまんだ。

 ギルドールの案内で武器屋に立ち寄ると、俺たちはそれぞれに慣れない装備を整える。
 そうして夜明けを待つと、洞窟へと向かうことにしたのだった。
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