猫アレルギーだったアラサーが異世界転生して猫カフェやったら大繁盛でもふもふスローライフ満喫中です

真霜ナオ

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第二章<猫アレルギー治療編>

07:地下洞窟の果実

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 翌日の昼。俺たちは再び訪れたあの酒場で、同じ席に座っているあの男を見つけた。
 俺の顔を見たギルドールは、『また来やがった』とばかりにうんざりした態度を隠そうともしない。
 彼にとっては迷惑な話かもしれないが、こちらにも引けない事情があるのだ。

「こんにちは、ギルドールさん」

「しつけえ奴らだな、情報はねえって言っただろうが。酒が不味くなるから帰れ」

 開口一番、すげなく扱われてしまうが予想の範囲内だ。
 俺は許可を貰うこともせずに、彼の向かい側の席へと腰を下ろす。ギルドールの眉間の皺が深まるが、構わず話し出すことにした。

「あなたが情報を持っていないとして、他に知り合いの医者はいませんか? 迷惑をかけたいわけじゃない。ただ、何でもいいから情報が欲しいんです」

「知り合いなんかいねえよ。大体、見ず知らずのお前らに、何でオレが協力してやらなきゃならねえんだ?」

「医者は人を救うのが仕事ですよね。病で困っている子供がいるんです」

「魔獣なんかに近づかなけりゃいいって助言してやっただろ。簡単な解決法じゃねえか」

 どうしたって話は平行線だ。魔獣に対する認識を変えてもらうところから始めなければ、進展は望めないのだろうか?
 これ以上口を開くつもりはないというように、ギルドールはグラスの中身を飲み干す。
 こうもかたくなだと、彼から情報を得るのは容易なことではなさそうだ。

「……アンタ、それ酒じゃねえだろ」

 そう思った時、口を挟んだのはグレイだった。
 空になったグラスを手にしたまま、ギルドールの動きが僅かに止まったのがわかる。

「酒場で働いたことあるからわかんだよ。アンタのグラス、酒用には使わねえタイプのやつだ。昨日もそうだったよな」

 店内の酒臭さと、いかにも酒をたしなみそうなギルドールの風貌ふうぼうで気がつかなかったのだが。
 彼の反応を見るに、グレイの指摘は間違っていないようだ。

「ヤブ医者にしか見えねえけどよ。酒場に来てんのに酒飲まねえって、いつ急患入っても対応できるようにしてんじゃねーの?」

「…………ったく、妙なトコに目敏めざといクソガキが」

 面倒だという顔をするギルドールは、盛大な溜め息を吐き出す。
 しかし、とうとう降参したのだろう。顔を背けていた俺の方へ向き直ると、背を丸めて頬杖をつく。

「そもそも、どこの誰からオレの話を聞いてきやがったんだ? お前ら隣国から来たって言ってただろ」

「ええと、この国で知り合った女の子が教えてくれたんです。シアっていう名前の」

「……!」

 隣国に凄腕の医者がいる、というバダード国王の情報だけでは、確かに彼まで辿り着けなかっただろう。
 俺は素直に、情報を与えてくれた少女がいたことを告げる。
 すると、ギルドールはその名前に聞き覚えがあったのか、明らかに反応が変わって見えた。

(もしかして、知り合いなのかな……?)

 シアとギルドールに接点があるようには見えないが、同じ国に住んでいるのだ。知り合いだとしても不思議ではない。
 たっぷりと時間を使って俺たち三人の顔を見たあと、ギルドールは皿に乗ったチーズを摘まみ上げる。

「治療薬を作りたいっていうんなら、特別な材料が必要になる。だが、オレはその材料を持ってねえ」

「材料って、どうすれば手に入るんですか?」

「町外れにな、迷路みてえになってる地下洞窟がある。そこに赤い果実がってるから、そいつを採ってくりゃあいい」

 つまり、俺たちが洞窟に行ってその果実を採ってくれば、猫アレルギーを治療するための薬を作る準備が整うということだ。
 希望が見えてきたことで、顔を見合わせる俺たちの間に期待の空気が広がる。

「ただし、そこには魔獣が生息してる。普通の人間ならまず近寄らねえ場所だから、それ以外にも何があるかはわからん。きっと命の危険も伴うぞ」

 口内へとチーズを放り込みながら、ギルドールは脅すような言葉を口にする。
 暗に、それでも行くつもりなのかと問われているのだろう。だが、俺が出す答えは決まっていた。

「危険でも、俺は行きます」

「……そうかい」



 ギルドールに教えられて、地図で示された場所に向かう。人気の無い町外れには、本当に怪しげな地下洞窟の入り口があった。
 周囲は厳重に柵で囲われていて、立ち入りを禁じているのだと一目でわかる。
 俺たちはその柵を越えて、洞窟の中へと足を踏み入れた。

 洞窟の壁には、一定の間隔で松明たいまつが設置されている。
 魔法がかけられているらしく、時間が経っても明かりが消えることはないのだとコシュカに教えられた。便利なものだ。
 聞いていた通り、中は迷路のようになっている。どこを見ても景色は同じなので、一度でもはぐれたら合流できる気がしない。
 洞窟の中は酸素が薄いのか息苦しく、異臭を放つ緑色のキノコが生えていたりもした。

 歩いてきた道には、念のためにと光石こうせきも落としていく。光石とは、魔法がかけられた石の名前で、ほのかに発光する効果がある。
 どういう原理で生まれるのかはわからないが、光石は道端に落ちているもので、必要になるかもしれないと拾い集めてきたのだ。

 何度か道がわからなくなったものの、やがて俺たちは洞窟の突き当りと思われる場所に到着する。そこは途端に開けた空間になっていて、目を見張るような光景が広がっていた。
 ぼんやりと赤く発光する丸い果実が、壁一面を埋め尽くすように生えていたのだ。
 間違いなく、これがギルドールの言っていた果実なのだとわかる。俺たちは手分けをして、摘み取った掌ほどの果実を袋に詰めていった。
 どのくらい必要なのかはわからないが、袋一杯に持ち帰れば大丈夫だろう。

(……そういえば、猫はいなかったな)

 ギルドールは、魔獣の生息している洞窟だと話していた。魔獣への認識が変わっていない以上、この洞窟に人間が近づかないという理由も理解できたのだが。
 魔獣が生息しているような気配もなければ、そもそも洞窟に何かがいた形跡も無かったような気がする。
 擬態猫カメレオンキャットのように、視界で捉えにくいタイプの魔獣なのだろうか? だとすれば、洞窟に魔獣が生息しているという情報は、誰が流したのだろうか?

「……ヨウさん、グレイさん。何か聞こえませんか?」

「え?」

 その時、コシュカが何かに気付いたようで、俺たちに声を掛けてくる。
 耳を澄ませても何も聞こえてこなかったのだが、少しして足音のようなものが近づいてくるのがわかった。
 魔獣とは違う、これは明らかに人間の足音だ。
 通路になりそうな穴は三つ開いているが、音が反響してどこから近づいてきているのかわからない。
 身構えている俺たちの前に現れたのは、複数の兵士の姿だった。

「なっ、貴様らここで何をしている!?」

「捕らえろ! 盗人ぬすっとだ……!」

 叫ぶ声と共に、兵士は俺たちを捕まえようと向かってくる。咄嗟に彼らとは反対の、俺たちが通ってきた通路へ走り出した。
 そのまま光石を頼りに、出口を目指して駆け抜ける。光石が無ければ、確実に迷子になっていたことだろう。
 元は道端のどこにでも落ちているものだ。俺たちが置いた光石に気がついていないのか、背後から響いていた足音が、次第に遠ざかっていく。
 いくつかの曲がり道を抜けたところで、完全に兵士を撒くことができたようだった。

「ハア……どうにか逃げ切れたみたいっスね」

「ああ、でも油断は禁物だ」

「足音は聞こえないので、少なくとも近くにはいないようです」

 コシュカの耳の良さは頼りになる。再び鉢合わせにならないよう耳をそばだてつつ、俺たちは慎重に先へと進んでいく。
 やがて、どうにか出口付近まで戻ってくることができた。しかし、外の景色が見えてきたかと思うと、そこにはなぜか兵士たちの姿があったのだ。
 撒いたものだと思っていたのだが、どこか別のルートを使って、先回りしていたのかもしれない。
 岩場の陰に身を潜めるが、兵士たちのいる場所を通らなければ、外に出ることができない。

(どうする……引き返して別の道を探すか……?)

 だが、俺たちは光石を置いたこのルートしか知らない。
 別の出口もあるのだろうが、それを見つける前に迷子になる可能性や、兵士たちに捕まるリスクの方が高いように思えた。
 進むことも戻ることもできない、絶体絶命の状況だ。

「……オレが囮になるんで、その隙に店長たちはここを抜けてください」

「バカ、そんなことできるわけないだろ……!」

「そうです。私の方が足は速いので、私の方が適任だと思います」

「そういう話じゃないよ……!」

 兵士の気を引いて囮になることを提案する二人を、どうにか引き留める。誰かを犠牲にして逃げ出すのでは意味がない。
 だが、俺にもこの場を切り抜けられるだけの妙案があるわけではないのだ。このままではいずれ、洞窟に入ってきた兵士たちに見つかってしまうことだろう。

「盗人が北の方角に逃げたぞ!! 追え!!」

 その時、辺りに大きな声が響き渡る。二人はここにいるのだから、グレイとコシュカのどちらかが飛び出していって、囮になったわけでもない。
 その声を聞いた兵士たちが、一斉に示された方角へと走っていくのがわかった。
 あまりにもタイミングが良すぎる。俺たちを騙すための演技で、これは罠なのではないだろうか?

 しばらく息を潜めてから、外では物音がしていないことを確認する。どうやら、兵士たちは戻ってきていないようだ。
 二人に目配せをして、俺は恐る恐る洞窟の外へと顔を出してみる。

「……ッ!」

 待ち構えるように人影が立っていたので、やはり罠だったのかと驚く。だが、よく見れば相手は兵士ではない。
 そこにいたのは、ギルドールだった。
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