VTuberデビュー! ~自分の声が苦手だったわたしが、VTuberになることになりました~ 

柚木ゆず

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第23話 病院から帰って(2)

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「これはまだ全然人気も知名度のない頃、4年前の春の投稿なのですが。この日まで――4月3日までは毎日、イラストを投稿していますよね?」
《ですです》

 オリジナルキャラクター、ってついてあるイラスト。カッコイイ男の子とかカワイイ女の子のイラストが、1日1枚投稿されていました。

「僕は画力向上などの目的で、小学4年生の頃から毎日1枚投稿していたんです。でも、4月4日で止まってますよね?」
《は、はい。止まってます》

 ず~っと1日1枚だったのに急になくなって、ええと…………。次にイラストが投稿されたのは、5月19日。
 一か月以上、投稿されてません。

「なぜ突然こんなにも投稿がなかったのかというと、イラストを描けなくなってしまっていたから。ペンを持つのが嫌に――部屋にあるペンを見るのさえも、嫌になってしまったんですよ」

 こんなに毎日描いていた。楽しそうに投稿してたのに。
 どういう、こと……?

「『お前の描く絵は下手だ』『下手すぎ。よくSNSに投稿できるな』『下手すぎて目障り。全部消せ』。初めてもらったリプ――見てくれた人から初めてもらった感想も、その以降にいただいた反応も、全部そう。こういうものばかりでしてね。2か月ほど耐えて描き続けていたのですが、精神的に限界を迎えてしまって。自分の絵が嫌いになり、絵を描くことが怖くなってしまったのですよ」
《ひどい……。こんなに上手なのに……》
「ありがとうございます。……そんな状態になってしまったから投稿が止まって、けれど一か月後に再開していますよね? どうしてだと思いますか?」
《…………分かりません。どうしてなんですか?》

 考えてみても、分からなかった。
 なにがあったんだろ……?

「それはですね。SNSのアカウントを消そうと思い、久しぶりにアカウントをチェックした際に――。こんなリプが届いていて、それを見たからなのですよ」

 アプリを切り替えて、写真のアプリを開いた翔くん。
 画面をしばらく操作すると――

『このイラスト可愛くて好きです。この子、名前とかあるんですか?』

 ――わぁ……!
 そんな文字が表示されました!

「『お前の描く絵は下手だ』『下手すぎ。よくSNSに投稿できるな』『下手すぎて目障り。全部消せ』。あの時の僕はそれらが、『全員の反応』だと思い込んでいました。でもこのリプライのおかげで、違うと――違う感じ方をしてくれる人もいるんだ、と気付くことができたのですよ」
《うんうんっ! うん!!》
「『そんなことないよ。翔の絵は上手だと思うよ』『翔くんのイラスト、私は大好きよ』と、父や母や真鈴姉さんは褒めてくれていました。ですが下手だという声の方が多かったせいで、それを信じられなかった。身内だから励ましてくれているのだと思い込んでしまって、悪いものだけしか信じられなくなってしまっていたんですよ」
《! それって、わたしとおんなじ》

 あの時の。翔くんと出会う前、Vtuberになる前のわたし。
 分かっていない、わたしだ。

「そうなんです。だから僕はあの時――ご家族以外の前では喋れないことに気付いた時、真実に気付いてもらいたいと強く思っていたのですよ」

 Vtuberになって声を沢山の人に聞いてもらったら、可愛い、ってコメントをもらえると確信していた。家族以外の人の正反対の意見を見たら、気付いてもらえる。
 翔くんはわたしと同じような経験をしていたから、気付いていて……。


 楽しかった旅行から帰って来てすぐ、お土産を持ってお隣さん――田宮さんのお家を訪ねて『葉月ミアちゃんになります』ってお伝えしたあと。わたしは和室に案内されて独りで待っていて、5分くらいだったと思う。しばらくしたら翔くんが戻ってきて、テーブルを挟んで座ると、わざわざ頭を下げてくれました。


 あの時お父さんとお母さんにコッソリと、そのことをお伝えしてくれていたのでした……!!

「形は違いますが、美月さんと僕は『同じ』なんです。ですから『分かる』前も後も、そっくりな経験をしているんですよ」

 ビックリしていると今度はまたSNSのアプリが開かれて、次は――


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