結婚式当日。婚約者様は、時間を巻き戻したいと仰りました

柚木ゆず

文字の大きさ
17 / 24

第9話 真実を知る時 バジル視点(1)

しおりを挟む
「お久しぶりですバジル様っ。お会いできて嬉しいです」

 最愛の人、アナ。彼女は俺が扉を開けるや――俺の姿を目にするや、胸に飛び込んできてくれた。
 しかも、嬉し涙まで浮かべてくれる。こんなにも嬉しいことはない。

「ごめんよ、ずっと寂しい思いをさせてしまったね。実は厄介な問題が発生しているんだよ」
「発生して、いる……? 今も、お困りなのですか……!? でしたら是非わたくしにご相談くださいっ。喜んでお力になります!」

 ぁぁ、アナ。君はなんて優しいんだ。
 その言葉に俺も、思わず嬉し涙が零れ――。久し振りに出た喜びが由来の涙を拭い、後ろにいる父上を一瞥した。

「ありがとう、早速だけど詳説させてもらう。……俺達が初めて会った時、君と結ばれるために時間を巻き戻した、と言ったのを覚えているよね?」
「は、はい。もちろん覚えております」
「…………そのせいで、最悪の事態が起きてしまったんだよ」

 とある理由で金が必要になり、逆行前に起きた出来事を活かそうとしたこと――。
 画家レナテイラの作品が切っ掛けで需要が高まる、『ザンダテールズ焼き』に注目したこと――。
 ザンダテールズ焼きを買い漁って需要の高まりを待っていたのに、俺の行動などの影響で未来の一部が変わって違う作品が発表されてしまったこと――。
 読み違いによって、買い集めたザンダテールズ焼きは全てが『金にならないゴミ』と化したこと――。
 それによって叔父達から責任を追及され始め、当主や会頭の剥奪、身売りといった形で責任を取らせるようになること――。
 それらの悲惨な未来を回避し、共に暮らせるように、ポルートッド家で俺達を匿って欲しいこと――。

 自分へのプレゼントが絡んでいると知れば、アナは酷くショックを受けてしまうからな。そこに関する部分は濁し、ありのままを伝えた。

「…………そう、だったのですね……」
「愛する人を巻き込みたくは、なかったんだ。でも、そうしないと俺達は一緒に居られない。同じ道を歩けないんだよ」
「……………………」
「愛する人を笑顔にしてやりたい。そんな想いは常に持ち続けていて、しばらく時間はかかるだろうけど、そうできる方法も考えているんだ。……だから、アナ。俺に――俺達に、手を差し伸べてください」
「アナくん。お願いします」

 父上と共に、深々と頭を下げる。
 そうしたら――やっぱり、そうしてくれた。俺の最愛の人は、ニッコリと笑って――


「お断ります。そして、さようなら。二度と近づかないでくださいね」


 ――……。え……?
 信じられないことを、言い出したのだった……!?


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後

綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、 「真実の愛に目覚めた」 と衝撃の告白をされる。 王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。 婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。 一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。 文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。 そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。 周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?

全てから捨てられた伯爵令嬢は。

毒島醜女
恋愛
姉ルヴィが「あんたの婚約者、寝取ったから!」と職場に押し込んできたユークレース・エーデルシュタイン。 更に職場のお局には強引にクビを言い渡されてしまう。 結婚する気がなかったとは言え、これからどうすればいいのかと途方に暮れる彼女の前に帝国人の迷子の子供が現れる。 彼を助けたことで、薄幸なユークレースの人生は大きく変わり始める。 通常の王国語は「」 帝国語=外国語は『』

次に貴方は、こう言うのでしょう?~婚約破棄を告げられた令嬢は、全て想定済みだった~

キョウキョウ
恋愛
「おまえとの婚約は破棄だ。俺は、彼女と一緒に生きていく」  アンセルム王子から婚約破棄を告げられたが、公爵令嬢のミレイユは微笑んだ。  睨むような視線を向けてくる婚約相手、彼の腕の中で震える子爵令嬢のディアヌ。怒りと軽蔑の視線を向けてくる王子の取り巻き達。  婚約者の座を奪われ、冤罪をかけられようとしているミレイユ。だけど彼女は、全く慌てていなかった。  なぜなら、かつて愛していたアンセルム王子の考えを正しく理解して、こうなることを予測していたから。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

婚約者の座は譲って差し上げます、お幸せに

四季
恋愛
婚約者が見知らぬ女性と寄り添い合って歩いているところを目撃してしまった。

【完結】騙された? 貴方の仰る通りにしただけですが

ユユ
恋愛
10歳の時に婚約した彼は 今 更私に婚約破棄を告げる。 ふ〜ん。 いいわ。破棄ね。 喜んで破棄を受け入れる令嬢は 本来の姿を取り戻す。 * 作り話です。 * 完結済みの作品を一話ずつ掲載します。 * 暇つぶしにどうぞ。

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

あなたの思い通りにはならない

木蓮
恋愛
自分を憎む婚約者との婚約解消を望んでいるシンシアは、婚約者が彼が理想とする女性像を形にしたような男爵令嬢と惹かれあっていることを知り2人の仲を応援する。 しかし、男爵令嬢を愛しながらもシンシアに執着する身勝手な婚約者に我慢の限界をむかえ、彼を切り捨てることにした。 *後半のざまあ部分に匂わせ程度に薬物を使って人を陥れる描写があります。苦手な方はご注意ください。

恩知らずの婚約破棄とその顛末

みっちぇる。
恋愛
シェリスは婚約者であったジェスに婚約解消を告げられる。 それも、婚約披露宴の前日に。 さらに婚約披露宴はパートナーを変えてそのまま開催予定だという! 家族の支えもあり、婚約披露宴に招待客として参加するシェリスだが…… 好奇にさらされる彼女を助けた人は。 前後編+おまけ、執筆済みです。 【続編開始しました】 執筆しながらの更新ですので、のんびりお待ちいただけると嬉しいです。 矛盾が出たら修正するので、その時はお知らせいたします。

処理中です...