前世でわたしの夫だったという人が現れました

第１３話 １か月半後 エリーズ視点

「そっか。アンリ殿を選ぶことにしたんだね」

　あれから引き続き１週間に１度の間隔でアンリ様と過ごし、表向きには記憶探しに勤しんだあと。適切なタイミングとなったためサンフォエル邸へと赴き、婚約を解消する、という選択をしたいと伝えました。

「…………大切な人には、いつも一番の笑顔を浮かべてもらいたいからね。うん、喜んで応じるよ」

　寂しそうにしているのは、うわべだけ。心の中では大喜びしながら事が運び、あっという間にわたしとディミトリ様との婚約は解消されることとなりました。

「大丈夫、心配しなくてもいいよ。あの時会場で言ったように、僕達の関係が切れても繋がりがなくなることはない。今後もよい関係を築いていこうね」

　それはわたしのためではなくて、自分のため。ウチの葡萄とワインの製造所を手中に収めるための方便。
　そう理解してはいますが、ここで断ると怪しまれてしまいます。そこで隣にいる両家当主がサインを行い、その時まで・・・・・繋がり続けることになりました。

「そうだ、君の新たな人生をお祝いしたいんだ。今夜一緒に食事でもどうかな？」

　そのお誘いは、当然拒否。どうしても外せない用事があると偽りわたし達は早々にサンドエル邸を離れ、お屋敷に戻るとすぐに次の準備に移ります。

「いかがですか、お父様？」
「招待状の件も含め、ちゃんと予定通り進んでいるよ。予定通り一か月後に婚約披露ができそうだ」

　実際に婚約を結ばないと、例の書類の確保ができません。物証を手に入れるべくわたし達は婚約および婚約の発表に向けた準備を行い、やろうと思えば翌日にでもできましたが、信憑性を出すために実際に行うのは一か月後。
　その日に向けてアンリ様と細かく状況を確認し合いながら計画を進めてゆき、計画書がしっかりしているおかげで、問題が発生することなく当時を迎えることとなりました。

「残念ながら記憶は蘇っておりませんが、本能がこの選択をしました。これからはアンリ様と共に、人生を歩んでゆきたいと思います」

「この日を迎えられたのは、ディミトリ様のおかげでございます。ディミトリ様、このご恩は一生忘れません」
「あの時僕にチャンスをくださり、本当にありがとうございました。このご恩、生涯忘れません」

　アンリ様と壇上で適当に喋って拍手をいただき、無事偽りの婚約披露パーティーはお仕舞となりました。

　ということは、アレの始まり。
　わたし達は、ディミトリ様達サンフォエル家が動き出すのを待って――