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第3話 アンリ様と、二人きり~1回目~ エリーズ視点(3)
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「鼓動と呼吸がおかしい時ならともかく、すっかり落ち着いたあとになるなんて……。なんなのでしょうか……?」
「……パーティー会場でエリーズ様とサンフォエル様の口づけを見つめていた際、突然頭の中に声が響いたと言いましたよね? 実はその直後に、一瞬だけ激しい眩暈に襲われていたのですよ」
戸惑っていると大急ぎで傍に寄って来てくださり、神妙な面持ちで教えてくださりました。
自分がくるっと横に一回転してしまった。そう感じるほどに、短いものの激しい眩暈を経験されていたそうです。
「僕はそれによって前世の記憶が完全に覚醒しましたが、エリーズ様は覚醒されていないし、かつての自分の声も聞こえてはいない。そういった差が眩暈の大小となっているのではないでしょうか」
「…………今は正常に戻っていて眩暈の気配は消えています。病などと関係があるとは思えませんので、そうなのだと思います」
むかし高熱が出てしまった時や根を詰めてしまった時などに眩暈の経験がありますが、一度起きた後はしばらく独特の気持ち悪さがありました。ソレは現在まったく感じていないため、記憶の影響なのでしょう。
「心音。呼吸。熱。汗。眩暈。もう少し前世を追求すれば、記憶が蘇るのかもしれませんね」
「その可能性はあると思います。ただ……」
アンリ様は、不安げにわたしの顔を覗き込まれました。
「明らかに、身体に――精神にも、大きな負荷がかかっています。いきなりこれ以上続けてしまったら、心身に悪影響が残り続けてしまうかもしれません」
「…………仰る通り、ですね」
立て続けに未経験のことを体験していて、それがどれほどのダメージをもたらしているのか定かではありません。
もしソレらが非常に大きな悪影響を及ぼしていたのだとしたら、肉体が壊れる、あるいは精神が壊れてしまう危険性がないとはいえません。大げさかもしれませんが、記憶云々は前代未聞のものですから、慎重にいくべきですね。
「ありがたいことに、時間をいただけています。この続きは次回に致しましょう」
「そうですね。ご配慮感謝いたします」
椅子から立ち上がって謝意をお伝えして、早速ですが『2回目』の相談を始めさせていただきました。
((次もここにしましょうか……? それとも、別の形で行いましょうか……?))
心の中で首をかしげていると、そんな悩みはアンリ様が解決してくださりました。
「ウチの領地に、『ヴァロトールスの湖』という場所がありまして。そちらで船に乗りながらお喋りをするのはいかがでしょうか?」
ロジェさんとリリアンはよく、湖で船に乗ってデートをしていたそう。アンリ様が知っている中では、もっともそちらが雰囲気が似ているとのことでした。
「当時と似たことをしたら思い出しやすくなるのでは? と考えたのですが、いかがでしょうか……?」
「とても良いアイディアだと思います。そちらに致しましょう」
これは物語の中のお話にはなりますが、『記憶を失った主人公がヒロインと懐かしい場所を訪れ、記憶を取り戻す』というものがありました。加えて『再現』は実際の記憶喪失の場合でも有効という話を聞いたことがあり、すぐに賛成をしました。
「ありがとうございます。では、次は……」
「お互いのスケジュールを、確認し合いましょうか」
「そうですね」
その結果1週間後の正午に現地集合となり、止めたくない気持ちはあるものの、無理は禁物です。わたし達は当初の予定よりもかなり早く別れることとなり、アンリ様が乗った馬車を見送ったのでした。
「……パーティー会場でエリーズ様とサンフォエル様の口づけを見つめていた際、突然頭の中に声が響いたと言いましたよね? 実はその直後に、一瞬だけ激しい眩暈に襲われていたのですよ」
戸惑っていると大急ぎで傍に寄って来てくださり、神妙な面持ちで教えてくださりました。
自分がくるっと横に一回転してしまった。そう感じるほどに、短いものの激しい眩暈を経験されていたそうです。
「僕はそれによって前世の記憶が完全に覚醒しましたが、エリーズ様は覚醒されていないし、かつての自分の声も聞こえてはいない。そういった差が眩暈の大小となっているのではないでしょうか」
「…………今は正常に戻っていて眩暈の気配は消えています。病などと関係があるとは思えませんので、そうなのだと思います」
むかし高熱が出てしまった時や根を詰めてしまった時などに眩暈の経験がありますが、一度起きた後はしばらく独特の気持ち悪さがありました。ソレは現在まったく感じていないため、記憶の影響なのでしょう。
「心音。呼吸。熱。汗。眩暈。もう少し前世を追求すれば、記憶が蘇るのかもしれませんね」
「その可能性はあると思います。ただ……」
アンリ様は、不安げにわたしの顔を覗き込まれました。
「明らかに、身体に――精神にも、大きな負荷がかかっています。いきなりこれ以上続けてしまったら、心身に悪影響が残り続けてしまうかもしれません」
「…………仰る通り、ですね」
立て続けに未経験のことを体験していて、それがどれほどのダメージをもたらしているのか定かではありません。
もしソレらが非常に大きな悪影響を及ぼしていたのだとしたら、肉体が壊れる、あるいは精神が壊れてしまう危険性がないとはいえません。大げさかもしれませんが、記憶云々は前代未聞のものですから、慎重にいくべきですね。
「ありがたいことに、時間をいただけています。この続きは次回に致しましょう」
「そうですね。ご配慮感謝いたします」
椅子から立ち上がって謝意をお伝えして、早速ですが『2回目』の相談を始めさせていただきました。
((次もここにしましょうか……? それとも、別の形で行いましょうか……?))
心の中で首をかしげていると、そんな悩みはアンリ様が解決してくださりました。
「ウチの領地に、『ヴァロトールスの湖』という場所がありまして。そちらで船に乗りながらお喋りをするのはいかがでしょうか?」
ロジェさんとリリアンはよく、湖で船に乗ってデートをしていたそう。アンリ様が知っている中では、もっともそちらが雰囲気が似ているとのことでした。
「当時と似たことをしたら思い出しやすくなるのでは? と考えたのですが、いかがでしょうか……?」
「とても良いアイディアだと思います。そちらに致しましょう」
これは物語の中のお話にはなりますが、『記憶を失った主人公がヒロインと懐かしい場所を訪れ、記憶を取り戻す』というものがありました。加えて『再現』は実際の記憶喪失の場合でも有効という話を聞いたことがあり、すぐに賛成をしました。
「ありがとうございます。では、次は……」
「お互いのスケジュールを、確認し合いましょうか」
「そうですね」
その結果1週間後の正午に現地集合となり、止めたくない気持ちはあるものの、無理は禁物です。わたし達は当初の予定よりもかなり早く別れることとなり、アンリ様が乗った馬車を見送ったのでした。
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