前世でわたしの夫だったという人が現れました

柚木ゆず

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第1話 夫婦? エリーズ視点(1)

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「な、なにを言っているんだ……?」「な、なにを仰っているのですか……?」
「「「「「なにを、言って……?」」」」」
「…………前世で、夫婦だった……。かつて僕には、ロジェという名が……。エリーズ様には、リリアンという名前があった……。それを思い出したのは、ついさっき……。おふたり口づけを交わそうとするお姿を、目にしている時でした……」

 ディミトリ様。わたし。他の参加者の皆様。全員が唖然となっている中、アンリ様ご自身も激しく戸惑いながら説明をしてくださりました。

 ――わたし達の口づけを見守っていると、突然頭の中に『止(と)めるんだ!!』『彼女の相手は彼じゃない!』という声が響いて来た――。

 ――そう気付いた時には独りでに大声が出ていて、そんな自分に驚いていると頭の中に不思議な光景が流れ込んで来た――。

 ――なぜか『ロジェさん』と呼ばれている自分と、そんな自分が『リリアンさん』と呼んでいる見知らぬ女性が見知らぬ教会で挙式をあげていて、やがてその見知らぬ女性リリアンの姿とわたしの姿が重なった――。

 ――その瞬間『ロジェ=前世のアンリ・ダツレットス』で『リリアン=前世のエリーズ・ラックルート』だと本能的に理解した――。

 以上が、アンリ様の身に起きたことだそうです。

「………………」「……………………」
「「「「「……………………」」」」」
「そんな僕とエリーズ様は――ロジェとリリアンは結婚から僅か1年後、ロジェが流行り病にかかって死んでしまう……。楽しみにしていたふたりでの生活を殆ど経験できずに別れる羽目になってしまい……。そうであるが故にロジェとリリアンは死別の際に、『来世でも結婚しよう』『今度こそ長い時間をふたりで過ごそう』と約束したんです」
「………………」「……………………」
「「「「「……………………」」」」」
「だから、僕――僕の中に眠っていた『ロジェだった頃の記憶』が居ても経ってもいられなくなり、アンリである僕を動かして……。前世の記憶を、覚醒させたのだと思います」

 次々と語られる、信じられないこと。それらをわたし達は引き続き言葉を失いながら聞き、すべてを言い終えると――。

「……ディミトリ様、エリーズ様。無礼、失礼と重々承知でお伝えしたいことがございます」

 大きな『罪悪感』や『焦り』や『不安』が入り混じったお顔がわたし達へと向いて、


「どうか、どうか……。現在結ばれている婚約を白紙にしていただき……。この僕と、新たに婚約を結んではいただけないでしょか……?」


 そう、仰られたのでした。
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