異世界では人間以外が日本語でした

5 孤児院

　孤児院での生活は、とても楽しい。自分だけの部屋もあるし、10歳を過ぎればその部屋で寝起きもできる。隙間風が入ることもなければ、布団もある。服も古着だが、汚れなどほとんどない物が届けられるし、特別のお出かけの時用に新しい服も買ってくれた。
　リーナさんが作ってくれるご飯はとっても美味しいし、家族のように優しく接してくれる。空腹で困る事も、暑さ寒さで死にかける事もない。

　初日に籠いっぱいにとってきた松茸や栗、椎、野いちごは、この世界では食べた事がないらしく、台所を借りて、松茸を焼いて醤油（日本に近い調味料が沢山あった。）をつけてみんなで食べた。
　栗も湯がいて、野いちごはそのまま、椎はうまく出来ずリーナさんに炒ってもらった。
　もっと調理法を知ってればマロンクリームとかケーキのような物も作れたのかもしれないけど俺はさっぱりわからないから、ただ素材の味のままを味わう事にした。

　みんな凄く喜んでくれて、こんな美味しい物が山にあるなんて知らなかったと俺を凄い凄いと褒めてくれた。
　次の日は、リーナさんが湯がいた栗の中身を細かく刻んでパンケーキに入れてくれ、野いちごでジャムを作ってくれた。
　俺が思い出せるだけの味や見た目を言うと、松茸のお吸い物や、松茸ご飯、栗ご飯なども作ってくれた。
　次の日に様子を見に来てくれた、コインさんやポンタさんも一緒に松茸づくしを味わってもらい、今度の休みに一緒に山に松茸や栗拾いに行く事になった。ニーナもメイトさんも一緒に沢山取ると気合いを入れている。
　
　俺は孤児院で、ニーナやケーンに勉強を教えることになった。ひらがなは書けるし、計算は前世の銀行員だ、それなりにできる。
　それに、この孤児院の庭はまぁまぁ広く家庭菜園くらいならできそうだ。

「なぁ、ケーンさん。俺、畑が作りたいんだけど、いいか？」
「畑？なんだそれは？」
「え？畑は、野菜を育てるんだ。」
「野菜を育てる？そんな事ができるのか？」
「うん、できる。この国はどうやって野菜を手に入れるの？」
「野菜はな、その種族にあった物を、その種族だけが作る事ができる。例えば、兎人族なら人参などの根菜類、わしら羊人族は葉野菜だ。」
「どうやって作るんだ？畑はないんだろ？」
「そーだ、畑はない。こっちに来てごらん。」

　台所の裏の部屋だ。なんだ？変な機械があるぞ。

「まずな、このカードに手を当てて作りたい野菜をイメージする。カードに絵が浮かんできたらここに入れて、この培養液を入れて……、さらにここを握って、魔力を込めるんだ。」

　ぽこぽこと培養液が泡立って中から白菜が出てきた。

「ふぅーー、こんな感じだ。魔力がかなりいるからな、1日一個が限界だ。」
「………え？みんなそうなのか？人参を1日一本なのか？」
「そうだ。まぁ家族が多ければその分数は多くなる。1人一個だからな。わしらは、4人で白菜やキャベツを作って他の野菜と交換してもらうんだ。」
「じゃあ、苗はないのか？種も？」
「花の種ならあるぞ。鼠人族が向日葵を作って種を取っているからな。だが、種なんかどうするんだ？料理に使うのか？」
「いや、土に種を植えるとその植物が育つんだ。」
「はっ？？なんだって！！」
「俺らの国では、普通に畑があって、その畑に苗や種を植えて野菜を育ててたんだ。」
「ほ、本当なのか？」
「うん。だから、俺の畑には、じゃがいも、さつまいも、トマト、人参、大根とか色んな野菜を作ってたんだ。」
「す、すごいな！！」
「だって、山にだって木があるだろ？あれだって、種が落ちてそこから芽が出て木になっていくんだ。もちろん何年も何百年もかかるけどな。」
「はぁーー、そうなのか。もしや、野菜も植えてすぐにできるわけじゃないんだな？」
「当たり前だよ。トマトは、春に植えて夏にやっと収穫できるんだ。その代わり、1日に何個も採れる。」
「ほぉ～。……畑か。やってみるか。」