2 / 83
§ わたしたち、いまさら恋はできません。
02
しおりを挟む
「いくらなんでもこれは無いんじゃないの?」
「そう言うなよ。俺、金欠なんだからさ」
半個室の居酒屋の座布団にどっかりと胡座をかいた私は、純白のブランドワンピースから、五百円のセールTシャツに千九百八十円のカーディガン、同じく千九百八十円のストレッチジーンズと、ファストファッションに着替えさせられ、当然の如く仏頂面。
「現金無いなら、カード使えばいいじゃない?」
「ごめん。そっちもいっぱい。許してよ、今度また埋め合わせするからさ。ね?」
「居酒屋だし……」
「食べ放題飲み放題はフツー居酒屋」
「ふーん。後で足りないから貸してって言っても、絶対貸さないからね」
「わかってるよ……」
とは言うものの、どうせ足りなければ自分が払うのだ。私はとりあえずのビールジョッキを片手に、メニューから一番高価で美味しそうなツマミだけを選んで、店員に注文した。
「で、今日の彼女、何人目だっけ?」
「さあ? 三人目?」
「適当に言うな!」
「だって、そんなん覚えてねえもん」
「で、つまんだの?」
「……だ」
「ったく! その気が無いならつまみ食いなんかしなきゃいいじゃない。あんたがいい加減なことする度に振り回されるこっちの身にもなってよね!? なんでいつもいつも私が尻拭いに付き合わされなきゃなんないのよ」
「一度だけでいいからって泣かれたらさぁ。だって、ほら、据え膳食わぬは……って言うだろ? 男の性ってやつ?」
「泣けば誰とでもやるわけ?」
「そんなわけ……俺にだって好みはあるって。ねえ、もう勘弁してくれよ、頼むから。そうだ、俺だってお前に付き合ってやってんだろ? 前回なんか、俺、危うく殴り飛ばされるところだったんだぞ?」
「それいつの話よ?」
「……さあ?」
「ここ三年、私は何も無いからね」
「え? おまえ、そんなに長いこと男日照りなのかよ?」
「ほっといて!」
まったく、話をしているだけでムカついてくる。このチャラ男はいつもこうだ。ああでもないこうでもないと、いい加減なことばかり言う。今、ここで、こいつをぶん殴れたら、どれだけ気分がスッキリすることか。
「あの子、まさかおまえにコーヒーぶっかけるとは思わなかったな」
枝豆を口に放り込みながら、俊輔はクックッと思い出し笑いをしている。
「なによ? 他人事みたいに。誰の所為だと思ってるの?」
「悪い悪い。俺の所為だって。わかってるよ。わかってるけど、思い出すとおかしくて……」
「あんたも経験してみる? ビール頭からかけてあげようか?」
ギロッと睨むと、途端に笑いを引っ込めてシュンと萎縮する。変わり身の早い奴だ。こんな奴となぜ九年も友だちやっているのか自分でも不思議だが、こいつとの付き合いを気楽で楽しいと思っていることも確かだ。
「俺だってさ、別に彼女が欲しいわけでもないんだし、本当はこんなことしたくないわけよ。でも、外野が煩いだろ? だから、やっぱり女のひとりもいなきゃいけねえのかな? とか、思うときがあるんだよね。それで……ついね」
「で、ついつまみ食いするわけ?」
「それ反省したから、もう言うなって」
「どうだか! まったく。外野がどうとかって言うくらいなら、ちゃんとすればいいだけじゃない?」
「ちゃんとってなんだよ?」
「だから、ちゃんと彼女作るとか、ちゃんと結婚するとか……」
「冗談! 俺はそんな気、さらさら無いもんね。恋愛はまだいいよ? 女はいないよりいる方がいいし。でも、結婚なんてごめんだわ。一生独身で結構。自分の生活スタイル大事にして何が悪いの? おまえだってそうだろ? だから、もう三十路目前だっていうのに、独り身通してんじゃねえの?」
「酷い。私が三十路ならあんたも三十路でしょ?」
「違うよ。おまえ、もうじき誕生日だろ? 俺はまだ先」
本当にいっぺん絞め殺してこの減らず口を塞げたら、どんなに小気味好いかと思う。枝豆を握り潰す勢いで鞘から口へ放り込みながら、頭の中で俊輔の首を何度もシメた。
「そう言うなよ。俺、金欠なんだからさ」
半個室の居酒屋の座布団にどっかりと胡座をかいた私は、純白のブランドワンピースから、五百円のセールTシャツに千九百八十円のカーディガン、同じく千九百八十円のストレッチジーンズと、ファストファッションに着替えさせられ、当然の如く仏頂面。
「現金無いなら、カード使えばいいじゃない?」
「ごめん。そっちもいっぱい。許してよ、今度また埋め合わせするからさ。ね?」
「居酒屋だし……」
「食べ放題飲み放題はフツー居酒屋」
「ふーん。後で足りないから貸してって言っても、絶対貸さないからね」
「わかってるよ……」
とは言うものの、どうせ足りなければ自分が払うのだ。私はとりあえずのビールジョッキを片手に、メニューから一番高価で美味しそうなツマミだけを選んで、店員に注文した。
「で、今日の彼女、何人目だっけ?」
「さあ? 三人目?」
「適当に言うな!」
「だって、そんなん覚えてねえもん」
「で、つまんだの?」
「……だ」
「ったく! その気が無いならつまみ食いなんかしなきゃいいじゃない。あんたがいい加減なことする度に振り回されるこっちの身にもなってよね!? なんでいつもいつも私が尻拭いに付き合わされなきゃなんないのよ」
「一度だけでいいからって泣かれたらさぁ。だって、ほら、据え膳食わぬは……って言うだろ? 男の性ってやつ?」
「泣けば誰とでもやるわけ?」
「そんなわけ……俺にだって好みはあるって。ねえ、もう勘弁してくれよ、頼むから。そうだ、俺だってお前に付き合ってやってんだろ? 前回なんか、俺、危うく殴り飛ばされるところだったんだぞ?」
「それいつの話よ?」
「……さあ?」
「ここ三年、私は何も無いからね」
「え? おまえ、そんなに長いこと男日照りなのかよ?」
「ほっといて!」
まったく、話をしているだけでムカついてくる。このチャラ男はいつもこうだ。ああでもないこうでもないと、いい加減なことばかり言う。今、ここで、こいつをぶん殴れたら、どれだけ気分がスッキリすることか。
「あの子、まさかおまえにコーヒーぶっかけるとは思わなかったな」
枝豆を口に放り込みながら、俊輔はクックッと思い出し笑いをしている。
「なによ? 他人事みたいに。誰の所為だと思ってるの?」
「悪い悪い。俺の所為だって。わかってるよ。わかってるけど、思い出すとおかしくて……」
「あんたも経験してみる? ビール頭からかけてあげようか?」
ギロッと睨むと、途端に笑いを引っ込めてシュンと萎縮する。変わり身の早い奴だ。こんな奴となぜ九年も友だちやっているのか自分でも不思議だが、こいつとの付き合いを気楽で楽しいと思っていることも確かだ。
「俺だってさ、別に彼女が欲しいわけでもないんだし、本当はこんなことしたくないわけよ。でも、外野が煩いだろ? だから、やっぱり女のひとりもいなきゃいけねえのかな? とか、思うときがあるんだよね。それで……ついね」
「で、ついつまみ食いするわけ?」
「それ反省したから、もう言うなって」
「どうだか! まったく。外野がどうとかって言うくらいなら、ちゃんとすればいいだけじゃない?」
「ちゃんとってなんだよ?」
「だから、ちゃんと彼女作るとか、ちゃんと結婚するとか……」
「冗談! 俺はそんな気、さらさら無いもんね。恋愛はまだいいよ? 女はいないよりいる方がいいし。でも、結婚なんてごめんだわ。一生独身で結構。自分の生活スタイル大事にして何が悪いの? おまえだってそうだろ? だから、もう三十路目前だっていうのに、独り身通してんじゃねえの?」
「酷い。私が三十路ならあんたも三十路でしょ?」
「違うよ。おまえ、もうじき誕生日だろ? 俺はまだ先」
本当にいっぺん絞め殺してこの減らず口を塞げたら、どんなに小気味好いかと思う。枝豆を握り潰す勢いで鞘から口へ放り込みながら、頭の中で俊輔の首を何度もシメた。
0
あなたにおすすめの小説
ことりの上手ななかせかた
森原すみれ@薬膳おおかみ①②③刊行
恋愛
堀井小鳥は、気弱で男の人が苦手なちびっ子OL。
しかし、ひょんなことから社内の「女神」と名高い沙羅慧人(しかし男)と顔見知りになってしまう。
それだけでも恐れ多いのに、あろうことか沙羅は小鳥を気に入ってしまったみたいで――!?
「女神様といち庶民の私に、一体何が起こるっていうんですか……!」
「ずっと聴いていたいんです。小鳥さんの歌声を」
小動物系OL×爽やか美青年のじれじれ甘いオフィスラブ。
※小説家になろうに同作掲載しております
好きな人の好きな人
ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。"
初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。
恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。
そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。
婚約破棄、ありがとうございます
奈井
恋愛
小さい頃に婚約して10年がたち私たちはお互い16歳。来年、結婚する為の準備が着々と進む中、婚約破棄を言い渡されました。でも、私は安堵しております。嘘を突き通すのは辛いから。傷物になってしまったので、誰も寄って来ない事をこれ幸いに一生1人で、幼い恋心と一緒に過ごしてまいります。
婚約破棄された《人形姫》は自由に生きると決めました
星名柚花
恋愛
孤児のルーシェは《国守りの魔女》に選ばれ、公爵家の養女となった。
第二王子と婚約させられたものの、《人形姫》と揶揄されるほど大人しいルーシェを放って王子は男爵令嬢に夢中。
虐げられ続けたルーシェは濡れ衣を着せられ、婚約破棄されてしまう。
失意のどん底にいたルーシェは同じ孤児院で育ったジオから国を出ることを提案される。
ルーシェはその提案に乗り、隣国ロドリーへ向かう。
そこで出会ったのは個性強めの魔女ばかりで…?
《人形姫》の仮面は捨てて、新しい人生始めます!
※「妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/271485076/35882148
のスピンオフ作品になります。
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
サクラブストーリー
桜庭かなめ
恋愛
高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。
しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。
桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。
※特別編8-お泊まり女子会編-が完結しました!(2025.6.17)
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる