わたしたち、いまさら恋ができますか?

樹沙都

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§ わたしたち、いまさら恋はできません。

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「いくらなんでもこれは無いんじゃないの?」
「そう言うなよ。俺、金欠なんだからさ」

 半個室の居酒屋の座布団にどっかりと胡座をかいた私は、純白のブランドワンピースから、五百円のセールTシャツに千九百八十円のカーディガン、同じく千九百八十円のストレッチジーンズと、ファストファッションに着替えさせられ、当然の如く仏頂面。

「現金無いなら、カード使えばいいじゃない?」
「ごめん。そっちもいっぱい。許してよ、今度また埋め合わせするからさ。ね?」
「居酒屋だし……」
「食べ放題飲み放題はフツー居酒屋」
「ふーん。後で足りないから貸してって言っても、絶対貸さないからね」
「わかってるよ……」

 とは言うものの、どうせ足りなければ自分が払うのだ。私はとりあえずのビールジョッキを片手に、メニューから一番高価で美味しそうなツマミだけを選んで、店員に注文した。

「で、今日の彼女、何人目だっけ?」
「さあ? 三人目?」
「適当に言うな!」
「だって、そんなん覚えてねえもん」
「で、つまんだの?」
「……だ」
「ったく! その気が無いならつまみ食いなんかしなきゃいいじゃない。あんたがいい加減なことする度に振り回されるこっちの身にもなってよね!? なんでいつもいつも私が尻拭いに付き合わされなきゃなんないのよ」
「一度だけでいいからって泣かれたらさぁ。だって、ほら、据え膳食わぬは……って言うだろ? 男の性ってやつ?」
「泣けば誰とでもやるわけ?」
「そんなわけ……俺にだって好みはあるって。ねえ、もう勘弁してくれよ、頼むから。そうだ、俺だってお前に付き合ってやってんだろ? 前回なんか、俺、危うく殴り飛ばされるところだったんだぞ?」
「それいつの話よ?」
「……さあ?」
「ここ三年、私は何も無いからね」
「え? おまえ、そんなに長いこと男日照りなのかよ?」
「ほっといて!」

 まったく、話をしているだけでムカついてくる。このチャラ男はいつもこうだ。ああでもないこうでもないと、いい加減なことばかり言う。今、ここで、こいつをぶん殴れたら、どれだけ気分がスッキリすることか。

「あの子、まさかおまえにコーヒーぶっかけるとは思わなかったな」

 枝豆を口に放り込みながら、俊輔はクックッと思い出し笑いをしている。

「なによ? 他人事みたいに。誰の所為だと思ってるの?」
「悪い悪い。俺の所為だって。わかってるよ。わかってるけど、思い出すとおかしくて……」
「あんたも経験してみる? ビール頭からかけてあげようか?」

 ギロッと睨むと、途端に笑いを引っ込めてシュンと萎縮する。変わり身の早い奴だ。こんな奴となぜ九年も友だちやっているのか自分でも不思議だが、こいつとの付き合いを気楽で楽しいと思っていることも確かだ。

「俺だってさ、別に彼女が欲しいわけでもないんだし、本当はこんなことしたくないわけよ。でも、外野が煩いだろ? だから、やっぱり女のひとりもいなきゃいけねえのかな? とか、思うときがあるんだよね。それで……ついね」
「で、つい・・つまみ食いするわけ?」
「それ反省したから、もう言うなって」
「どうだか! まったく。外野がどうとかって言うくらいなら、ちゃんとすればいいだけじゃない?」
「ちゃんとってなんだよ?」
「だから、ちゃんと彼女作るとか、ちゃんと結婚するとか……」
「冗談! 俺はそんな気、さらさら無い・・もんね。恋愛はまだいいよ? 女はいないよりいる方がいいし。でも、結婚なんてごめんだわ。一生独身で結構。自分の生活スタイル大事にして何が悪いの? おまえだってそうだろ? だから、もう三十路目前だっていうのに、独り身通してんじゃねえの?」
「酷い。私が三十路ならあんたも三十路でしょ?」
「違うよ。おまえ、もうじき誕生日だろ? 俺はまだ先」

 本当にいっぺん絞め殺してこの減らず口を塞げたら、どんなに小気味好いかと思う。枝豆を握り潰す勢いで鞘から口へ放り込みながら、頭の中で俊輔の首を何度もシメた。
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