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第3章 幸せな告白
04 変化
しおりを挟む田代店長に聞いたところ、四葉さんは今日はバイトが初めから休みだったらしい。じゃあいつバイトの日かとシフトを教えて欲しいとお願いしたら、それは個人情報だから教えられないなあとはぐらかされた。
それから、教えてくれなさそうと思いつつも、私は田代店長に四葉さんに最近変わったことはなかったかと聞いた。すると、田代店長は意味深げに「病気かもしれないねえ」と教えてくれた。それが奇病なのか、癌とか流行病なのかわからなかったけど、四葉さんが私に隠し事をしていることが判明した。
私を悲しませない為、という四葉さんの優しさが伝わってきたが、少しは私を信用してほしいと思った。仮にも恋人で、確かに私は四葉さんの言う通り子供かもしれないけれど、それでも頼ってくれないことに寂しさを感じた。
私は学校帰りだったということもあって、一度家に帰ることにした。今から探しに行こうと思っても、病院も閉まっているだろし、そもそも四葉さんの家を知らなかった。田代店長も知らないといっていたし、望みは薄い。知っていたとしても、また個人情報だといわれて追い返されるだけだと思った。
私はそんなもやもやを抱えながら家に着いた。珍しく明かりがついていて、お母さんが帰ってきていることに気が付いた。今はお母さんと話すよりももっと重要なことがあると思って、リビングを通り過ぎようとしたとき、お母さんの方から私に声をかけてきた。
「幸」
「何? 忙しいんじゃないの」
と、お母さんとの話し方がいまだによくわからなくて、お母さんのように冷たい態度をとってしまった。お母さんはそんな私の言葉に怒ることもなく、顔色変えずに「忙しいわよ」と返してきた。冷たい声色に、怒っているのか、そうではないのかという判断はできなかった。
それで、引き留めて何の用だろうと、苛立ちながらお母さんを見る。
「幸、来年受験生でしょ。塾とか通わなくていいの?」
「通いたくても、お母さんと話し合えないんじゃ意味ないじゃん」
「言ってくれれば、手続するわよ」
そうお母さんは言うと目を細めた。
いつもと違う態度に戸惑いつつも、何が狙いなのかよくわからなくて身構えてしまう。
「何で、今日はそんなこと言うの?」
「……幸太郎くんのところが、塾に通いだしたらしいじゃない。だから、貴方もどうかと聞いているのよ」
と、お母さんは視線をそらしながら言った。大人でも、面と向かっていえないことがあるのかと、お母さんの珍しい姿に私は驚いて声も出なかった。最近、幸太郎を見ないなあと思ったら、部活と塾で忙しいのだと知った。前までは、休み時間中、男子たちと馬鹿をやっていたのに、その男子たちも単語帳を開くなど意識が変わったなあとは思っていた。一般受験は約一年後だが、学校推薦や、公募推薦は早いため数か月後には……という子もいる。二年生もほとんど終わりに差し掛かってきて、皆受験に向けて意識を変え始めたんだろうと。元々自称進学校だったこともあって、勉強には力を入れていた。難関国公立を狙うなんて子もいる。
私は、進路のことをお母さんと話せなかったことあって、まだどこに行きたいとかそういう願望はない。これは言い訳になるんだろうけど、本当に何がやりたいのか、なりたいのかという未来の自分を描けなかった。
小学生みたいに「何で勉強しなきゃダメなの?」と今でも疑問に思っている。将来どうなるか想像できないから、勉強のモチベも上がらなかった。
「塾は、まだ考えておく……」
「早めにしなさいよ。定員だってあるんだし。出遅れたら、貴方おいて行かれるわよ」
「分かってるって」
そういうことでしか返せなかった。もっと言い返し方とか、素直にそうだよね、と返せればよかったけれど、私はお母さんに素直に慣れなかった。ようやく、お母さんから私に話しかけてくれたというのに、冷たい態度をとってしまった。これでは、昔のお母さんと一緒だと思った。
お母さんは、それだけ言うと自分の部屋に戻っていってしまった。
(お母さんも、変わろうとしてくれているのかな……)
それか、自分がいい大学を出て、いい会社に勤めているから娘もいいところに行ってもらわなければと思っているのかもしれない。そう思うと、放任主義な気がするけど。
私は、リビングの机の上に置かれた塾のパンフレットを見た。五教科全て見てもらうこともでき、一教科からでも通えるという。だが、どれもかなり時間がとられ、平日十時までというコースもあった。そうでなくとも下校してから九時までとか、食事も塾でとる、みたいな感じだった。さすがに、こんなに勉強できなし、四葉さんとの時間も取れないんじゃないかと思った。
私はパンフレットを鞄にぐしゃぐしゃに入れて自室へ戻る。塾のことは後回し。明日は学校が臨時休業だし、四葉さんをもう一回探して、話を聞いてみようと、私は四葉さんの連絡先を開いて、これまでのメッセージを確認した後、メッセージを送ることなく閉じた。
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