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第3章 幸せな告白
02 ため息
しおりを挟む「はあ……」
「珍しい、幸がため息なんてついて」
「ため息をつくと、幸せが逃げてっちゃうのよ?」
四葉さんとのカフェデートは悪くなかった。たくさんお話もできたし、田代店長の面白話だって聞けた。でも、どこか二人とも遠慮しているというか、私のことを気遣って無理しているといった感じが伝わってきて、私が何か悪いことでもしてしまったのではないかと少し居心地が悪かった。その理由を聞こうにも、そのタイミングがなくて、聞けずじまいだったが、私の予想通り、四葉さんには何か人に言えないような隠し事があるんじゃないかと思った。
その日も、次の日も授業が頭に入ってこなくて、忘れ物だってした。葵と優にはしっかりしなさい、と怒られ呆れられたが、そんな二人の話を聞いている余裕は今の私にはなかった。
休み時間になって、二人は心配そうに私の方によってきて、どうしたのかと、わけを訪ねてきた。私は机に伏したまま、何でもないから、と彼女たちを追い返そうとした。
「何でもないって、また失恋したとか? そういう顔してるよ。幸」
「海沢さんとはうまくいっているって言ってたじゃん。違ったの?」
と、二人は質問攻めにしてきた。
ちゃんと連絡は取り合っているし、上手くいっていないわけじゃないと思う。確かに前の恋人よりかは、連絡の頻度は少ないかもだけど、それで満足している。私も大人になったんだと思う。
「うまくいってる。心配しなくても!」
「じゃあ、何?」
葵はもったいぶらずに教えなさいよ、と私の肩をたたいた。私はそれが鬱陶しくて、痛いなあと葵の手を払いながら起き上がる。すると、目に飛び込んできた葵の顔は不満げで怒っているようだった。
「せっかく心配してあげたのに」
「まあ、まあ。葵」
そう言って葵をなだめる優もあまりいい顔をしていなかった。
(二人して何……)
さすがの私でも、「心配して何て言っていない」とは親友の二人には言えないなあと思って言わなかったけど、それがポロリと口から出てきそうだった。
「ごめんって」
私は、取り敢えず自分に非があるような気がして謝った。二人は、顔を見合わせて「仕方ないなあ」と呆れたように言う。そんなに私は心配されないといけないほどの人なのかと思ってしまう。
でも、精神が不安定なのは事実だった。
恋人が何かを隠してる。それも人に言えないような何かを。
この間奇病の講和があってから、心の中でもやもやとしたものがたまっていた。それが何なのかまでは正直判らなかったけど、いいものでないことは確かだった。
もしかしたら、四葉さんは奇病かもしれない。
「もしかして、海沢さん病気?」
「え?」
そう言ったのは優だった。
タイミングのせいで、私が図星みたいに思われたが、私は首を横に振った。可能性をすべて否定できるほどの根拠はなかったが、違うという意味を込めて首を振る。
「ち、違うよ。でも、病気っぽいなあって思って。ちょっと心配で」
「そうだったの。でも、フラれたわけじゃないんだしいいんじゃない?」
「で、でも、癌とかだったら」
「そこまで、真剣に向き合っているの?」
と、優が言う。
確かに、いつもはそこまで恋人のことを思っていなかった気がする。それも失礼な話だが、四葉さんのことはとても気になるし、心配にもなった。私がいてあげないと、という酷く傲慢で勘違いも甚だしい話だが、そう思ってしまうほどに。
(本気で好きなのかも……)
今まで、愛されることが恋人である私の特権だと、恋人のことを見下していたのかもしれない。ブランド物のバックとは思っていないけれど、限りなくそれに近い扱いをしていたかもしれない。恋人に愛される私って幸せって、自分によっていたのかもしれない。
だから、その反動でか、今までの自分では抱かなかった恋人に対する思いに戸惑っていた。四葉さんのことが心配で眠れなかった。連絡がこないことに怒るんじゃなくて、倒れているんじゃないかと心配になった。
「幸、珍しい」
「珍しいって、私にもそういうことぐらいあるって。でも、それぐらい惚れ込んでいるってこと!」
「幸に似合わないセリフ、ナンバーワンだね」
と、二人は笑っていた。
でも、私がいつもと違うと察してくれているのか、いつものように小ばかにしたように笑わなかった。
「それなら、直接聞いてみた方がいいんじゃない?」
「確かにそうかもだけど、話してくれるかどうか、分かんないし」
「分かんないのは今も一緒だと思うよ。だから、行ってきなって。私たち、応援してるから」
「葵、優……」
二人の友達に励まされて、私は四葉さんとちゃんと向き合ってみようと思った。こんなに好きだって思える人に、初めて出会ったから。大切にしてほしいじゃなくて、大切なんだって思える人に。
そうと決まれば、私の行動は早かった。私は学校帰りにカフェに行き、四葉さんの話を聞こうと思った。だが、田代店長に今日は休みだよ、と言われ振出しに戻ってしまう。仕方ないので今日は家に帰ろうと思い、何故かいつもとは違う道を通って帰ろうととぼとぼと足を進め始めた。
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