一年後に死ぬ予定の悪役令嬢は、呪われた皇太子と番になる

兎束作哉

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第3部2章

04 気分転換

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「――なあ、お嬢、お嬢ってば!」
「……ゼイ? どうしたの? ああ、それとシュタール……」


 公爵家の青いバラの庭園でも見て落ち浮こうかと思っていたけれど、心ここにあらずと、私はボーっとしているだけで、気は全然晴れなかった。それどころか、色に作用されるように心がブルーになっている気がしてならず、私は首を横に振る。
 顔を上げてそこにいたのは、少し怒り気味な水色頭のゼイと、彼とは反対に私を心配したようにじっと見つめるシュタールだった。ずいぶんと私の名前を呼んでいたようで、ようやく反応した、とゼイはほっと息を吐いた。


「お嬢、話は聞いたぜ。災難だったな」
「災難、って……そうね」
「別に、オレに当たってもいいけどよ。お嬢の気がはれるなら」


 と、ゼイは柄にもないことを言いながら頭を掻いていた。
 シュタールも、それに賛同するようにうなずいていたが、彼に関しては言葉をかけてこなかった。なんていえばいいのかわからないのだろう。彼は私とかかわってまだ間もないから。
 ゼイも言葉を選んでいってくれたのだろうが、どうしてもすべてがチクチクと心に刺さってしまっていて、気分転換でもしないとやっていけないな、と思いながら私はため気をつく。傷ついていないふりをしていたけれど、やっぱり大好きな人に拒絶されるのは心に来る。しかも、記憶を取り戻すのはかなり難しいといわれてしまってもう……
 意気消沈してるが、ずっとそうしてはいられない。隣国がいつ攻めてくるかもわからないし、ヴァイスがいつ興味を失って私たちに仕掛けてくるかわからないから。
 きっとどこかで見ているんだろうけど、警戒してか姿は現さない。でも、どこかで私たちを見てほくそ笑んでいる気がするのだ。


(みじめなものね……私には何の力もない)


 もっと力があれば、殿下を救えたかもしれない。それだけじゃなくて、守れたかもしれない。記憶を取り戻すことだって。
 ないものねだりをしても仕方ないとわかりつつも、ついついあれができれば、これができればと思ってしまう。願うくらいなら、行動したほうが早いとわかっていても、腰が重くなってしまって、引けてしまっ……イッとまた拒絶されるのを恐れているんだろうと自分でもわかってしまった。


「お嬢、病人みたいな顔してるからよ。ちょっとは、気分転換しようぜ」
「したいけれど、そんな余裕はないの。ゼイも知っているでしょ? あの恐ろしい悪魔を……ヴァイス・ディオス。あいつがいつ攻めてくるかもわからないのよ。だから」
「でもな、お嬢」


 と、ゼイは私の言葉にかぶせるように言うと、グイっと私の腕を引っ張って立ち上がらせる。座っていた椅子ががたんと音を立てて後ろに倒れ、それをシュタールが律儀に直しつつ、私たちの動向を見守っていた。


「放してよ」
「いーや。はなさねえよ。やっぱ、気分転換だろ、こういう時は」
「だから、気分じゃ……」
「俺も、ゼイ……様に同感です。今の公女様は、本当に病人みたいな顔をしています。少しは気分転換をして休むべきだと」


 護衛の分際で、厚かましいですが。と、付け加えたうえで、シュタールは首を縦に振る。
 ゼイも、な? と私に問いかけてきて、彼らがそこまで言うのなら、と私は気遣ってくれる二人の思いを無下にすることができず、わかったわ、と抵抗していた手から力を抜く。それを見て、ゼイは手をはなし、少し開けたところまで歩いていくと、私のほうを見て、近づかないようにと指示した後で息を吸う。そして、およそ人間の声帯から出せるような声ではない咆哮をすると、彼の体は風に包まれ、次の瞬間には、青いうろこが光る飛竜へとゼイは姿を変える。


「……」
「すごいですね。俺は初めて見ました」
「ゼイ、は、竜人族だからね……」


 シュタールは感嘆のような声を漏らしながら、まじまじと、飛竜へと変化したゼイを見ていた。彼が人の形をとってばかりいるので、竜人だったこと、加えて飛竜へ変化できることを忘れていて、その姿に驚いた。けれど、あの時見た美しい青い飛竜で間違いないと、私は心がくすぐられる。せっかくファンタジー世界に転生したのだから、魔法以外のファンタジー要素を見たいものよね、と思っていた矢先の出来事だったので、彼が飛竜に変身した時の感動は今も覚えている。そして今も、その姿がファンタジーの世界から飛び出してきたものとそっくりで感動に私は足を進めていた。


「ゼイ」
『お嬢、背中に乗れ!』
「せ、背中にって。まさか飛ぶの? 空を?」
『当たり前だろ。気分転換っつったら、空だ!』


 と、よくわからない理論を展開するが、リードも何もない状態で、彼の上にのって落ちないかというほうが心配だった。また、彼は直接脳に語り掛けてきているようで、口は開いていない。口を開いたら、火球ブレスが飛んでくるかもしれないと、あのクラーケンとの戦いを思い出した。そうえいば、ゼイは青いのに、炎の竜なのかと疑問に思っていると、それにこたえるようゼイが、基本は、と語りかけてきた。


「待って、ゼイ。私の思考が読めるの?」
『違う。お嬢がなんとなーく誤解してそうだったことをただしただけだぜ? あと、落とさねえから乗れよ」
「それが、主人に言うことなのかしら……」


 ゼイの思い切りの良さは嫌いじゃない。また、それに救われてきたこともあるし。
 それに、落としたらゼイは自分の首が問ことを理解しているだろうから、私は彼を信じ、私が乗りやすいように足……後ろ足を踏み台にと出してくれ、私はそれに足をかけながらゼイの上にのぼった。上に乗るだけで、かなり景色が違い、それだけでも感動を覚えたが、背中は固いうろこだけではなく、やわらかい毛が生えていることに気づき、飛竜の人体……体のつくりにも興奮する。


『お嬢は変わってるよな』
「変わってないわよ。誰だって珍しく思うんじゃない?」
『みんな怖がるんだよ。お嬢は違う』


 と、どことなく暗いトーンで言いながら、ゼイは体を起こす。私は落ちないようにとゼイの背中の毛を思わずつかんでしまう。


「い、痛くない?」
『痛くねえから気にすんなって。あ、シュタールはお留守番か? お留守番頼むな!』
「……いい、ですけど。公女様に無礼なことは……」
「シュタール、大丈夫よ。すぐに戻ってくるわ」
「……公女様が言うのなら」


 シュタールもつれて行ってあげるべきだろうか。だが、彼はあまり気乗りしないようにも見えて、私はゼイに出発するようにと指示を出す。お留守番はしてくれるだろうけど、やはりおいていくのはさみしい気もする。
 だが、彼を乗せる前にゼイは飛び立ってしまい、私は振り落とされまいとまた彼にしがみつく。飛躍し、ものの数秒で空高く飛び上がる。風圧を全く感じないのが気になり目を開ければ、公爵邸がミニチュアサイズに見えるくらい小さくなっていた。


「す、すごい」
『よほど身を乗り出さなけりゃあ、落ちねえぜ。あと、俺が全部風や抵抗はお嬢の体に問題ないよう調節してるからよ。楽しんでくれ』
「え、ええ……すごいのね。竜人は」


 やっぱり、思考が読めているんじゃないかというくらいすぐに反応をするゼイ。これは問い詰めなければいけないかもしれない、と思いつつも、そよ風程度に吹く風が心地よく、私は恐る恐る下を見た。雲よりも高い位置にまで来ており、領地や、城下町もが見えた。飛竜が運搬用、人を運ぶようなサービスを提供したら儲かりそうだな、なんて考えてしまい、笑うとゼイに「今、またおっかないこと考えただろ」と言われてしまった。


「ううん、心地いいって言ってくれたの。確かに、いい気分転換になるわね。ありがとう。ゼイ」
『ああ……お嬢、絶対に大丈夫だからな! くよくよするのはお嬢らしくねえからよ! もし、皇太子殿下が記憶を取り戻さなかったら殴ってやろうぜ! あと、オレの番になってくれてもいいからな!』
「それ、殿下が聞いていたら不敬罪って首はねられるわよ。それと、私は殿下一途だから」


 ふふ、と笑えば、ゼイは悲しそうにしゅんと首を下げた。少し傾き落ちそうになったが、何とか持ち直してまっすぐと空を飛ぶ。
 空も海も好き。今度殿下と空のデートなんて楽しそうと思ったけれど、ゼイが嫌がりそうだなとも思った。
 でもいつかこの景色も彼と見れたら――


(取り戻して見せるわ。絶対に。もう、後ろを向かない)


 たとえ確率が低かったとしても。あの二年が消えるわけじゃないと信じているから。まぐれで彼に好かれたんじゃない。それを証明して見せるから。
 それこそが、真実の愛だというのではないかと、私は思いながら広がる青い空の海を見ながらもう一度前を向きなおした。

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