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第二部 絆ぐ伝説
第一話七章 漂着
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ピクリ。
指先がかすかに動いた。
『動かした』ではない。『動いた』のだ。指先ひとつと言えど『自分から』動かすほどの意識はまだ戻っていない。軽く曲がった指先に感じるものはジットリと濡れた感触。そして、なにか柔らかいものに包まれている感覚。
――これは……砂?
砂⁉
その意味に気がついたとき、ロウワンの頭のなかに天啓が閃いた。
「砂だって……⁉」
ロウワンは跳ね起きた。体の下に広がるのは波に濡れた白い砂浜。あたりにはまばらにヤシの木が生えている。そして、視線の先に広がるものは鬱蒼たる森……。
「やった! 僕は陸地に着いたんだ!」
ロウワンは顔いっぱいに喜びを爆発させた。立ちあがろうとした。膝が崩れて倒れ込んだ。柔らかい砂地に足をとられた、と言うこともある。しかし、それ以上に体の自由が効かない。疲れきっているのか、自覚がないだけで全身にひどい痛手を負っているのか、その両方なのか。
体の反応が鈍い。
なんとなく全身がぼんやりと麻痺しているような感じでうまく体を動かせない。
当然だろう。夜の海に飛び込み、あげくに気を失った状態で砂浜に打ちあげられていたのだ。それですぐに動けたらその方が不思議だ。気を失っている間に野生の獣にでも襲われなかっただけ幸運と言うべきだった。それを言うならそもそも海で溺れもしなかったことが奇跡なわけだが。
「……でも、僕は確かに生きて、陸地にたどり着いた。奇跡が起こったんだ」
ロウワンは身を包む服を握った。年端のいかない少年にはまだまだ大きすぎる船長服。千年前、世界を守り抜いた騎士マークスの服を。
服はたっぷりと水を吸い込んでいた。ボタボタと音を立てて際限なく水をたらしつづけるほどに。
したたる水滴を一滴、指について舐めてみる。塩辛い。たしかに、海の水だ。
「……やっぱりだ」
ロウワンは確信した。
「こんなにも水を吸った服を着たまま気を失っていたんだ。普通なら、そのまま溺れて死んでいるところだ。でも、僕は生きている。こうして、生きて陸地にたどり着いた。この服が、騎士マークスの服が僕を守ってくれたんだ」
――ありがとう、マークス。僕は必ずあなたに認められるおとなになる。だから……そのときこそ僕を迎えに来て。
ロウワンはそう誓った。
そして、もうひとつ。その場にはロウワンにとって特別な意味をもつものがあった。
それは、一振りの大刀。
鉈のように肉厚の、大きく湾曲した刃をもつ巨大な刀。
その大刀が刃を砂浜に突き立てる格好で立っていた。
見間違えるはずもない。それはあの男、〝鬼〟の愛用していた大刀だった。
「……そうか。〝鬼〟も僕を応援してくれたのか」
ロウワンはそのことを察した。
大刀の柄に右手をかけた。砂浜から引き抜こうとした。ビクともしない。両手で握りしめ、思いきり力を込めて抜こうとした。それでも、足りない。うんと上半身を反らせ、体全体の力で引き抜いた。砂を巻きあげて大刀の先端が砂浜から引き抜かれた。その勢いでロウワンは後ろに倒れ込んだ。音を立てて背中が波に濡れた砂浜に落ちた。その上に――。
巨大な大刀が落ちた。
「うげっ!」
大刀が腹の上に落ちてきたその重みで、ロウワンはまるでカエルが潰されるときのような声をあげてしまった。
「……うう。やっぱり、とんでもない重さだ。へたをしたら僕と同じぐらいあるかも。こんなものを片手で軽々と振りまわしていたなんてやっぱり、〝鬼〟はすごい」
〝鬼〟はすごい。
そう語る口調にははっきりと憧れの響きがあった。
ロウワンにはすでにわかっている。なぜ、どうして、強制されたわけでもなく、誘われたわけですらないのに〝鬼〟の船に居着いていたのか。
憧れていたからだ。
〝鬼〟の圧倒的な強さに。
なにものも怖れず、警戒すらせず、すべての掟を無視して自分ひとりの価値観で生き抜くその姿に。まさに、それこそは、ロウワンが幼い頃から物語のなかで見てきた海賊の姿、ロウワンが憧れていた海賊の姿そのものだった。
だから、〝鬼〟に憧れた。
だから、〝鬼〟の側にいた。
でも――。
「……〝鬼〟は悪党だ。多くの人々を殺し、苦しめてきた。憧れてはいけない相手だ。僕はいつか必ず〝鬼〟の前に立つ。そして、退治してみせる」
ロウワンは苦労しながら腹の上の大刀をのけると立ちあがった。両手で柄をつかみ、刃の先を砂浜に立ててもちあげる。そのまま刃を砂浜に突き立てた。どれだけの人間の、いや、どれだけの生物の血を吸ってきたかわからない刀身が太陽の光を受けて白く輝いた。
「いまの僕では両手でつかんだってこの大刀を扱うことなんて出来はしない。でも、いつか必ず扱えるようになる。自在に振るえるようになる。そのときこそ……僕はもう一度、〝鬼〟に会うんだ」
〝鬼〟に会って、そして――。
「〝鬼〟を倒す」
ロウワンはそう誓った。
人ひとりいる気配のない海岸。潮風が吹き、遠くに海鳥の声が響き、太陽の照りつける砂浜でのことだった。
「ところで、ここはどこなんだろう?」
陸地であることだけは確かだが、それ以上のこととなるとさっぱりだ。
自分の知っている場所なのか、知らない場所なのか。大陸なのか、島なのか。島だとしたら離れ小島なのか、近くに他の陸地があるのか。
「まずはそれを知ることからだな」
ロウワンはそう呟いた。そのときだ。
ググゥ~。
恐ろしく大きな音を立ててロウワンの腹の虫が鳴った。まわりに誰もいないのに思わず赤面してしまったぐらい大きな音だった。
恐ろしく腹が減っていた。
それ以上に喉が渇いていた。
一息入れたことではじめてそのことに気付いた。気付いたら途端に、水と食糧に対する耐えがたい欲求が襲ってきた。あまりにも激しい欲求だったので一瞬、飢え死にの恐怖に襲われたほどだった。
「まずは水と食糧を手に入れないとな」
砂浜に真水など湧いているはずもない。しかし、内陸に目をやればそこには無数の木々が立ち並ぶ鬱蒼たる森が広がっている。あれだけ大きな森だ。泉や川もきっとあるだろう。実をつける木だってあるだろうし、鳥や動物もいるはずだ。森に入れば水と食糧には不自由しないだろう。とは言え――。
「いきなり、森に入るのは不用心すぎるよな」
ロウワンはそう自分に言い聞かせた。
「海賊船に飛び乗ったときみたいな失敗は出来ない。もっと慎重に、注意深く行動しないと。もう一度、あんな幸運に恵まれるはずなんてないんだからな」
海賊船に襲われる客船を見つけたとき――。
自分の力量も省みず、なんの準備もしないままに現場に飛び込み、なにもできないまま血の匂いに気分を悪くし、吐いていただけだった。たまたま〝鬼〟がやってきたから助かったものの、そうでなければ殺されるか、どこかに売り飛ばされるかだったのだ。同じまちがいを繰り返すわけにはいかない。
「まずはあたりの探索。水を飲んで、なにか食べて、一晩休んで体力を回復させる。森に入るのはそれからだ」
そう判断出来る程度の分別はすでにもっていた。
幸い、あたりには何本ものヤシの木があって、多くの実をつけていた。ロウワンは『早くはやく!』と急かす喉と胃袋をなだめながら木に登った。若い実を選んでたたき落とす。ヤシの実のなかの水を飲めば喉の渇きは癒やせるだろう。問題はどうやってヤシの実の固い殻を割るかだ。
もちろん、ヤシの実の殻を割るための道具などどこにもない。しかし、〝鬼〟愛用の大刀がある。ロウワンは大刀の背を砂浜に埋める形で寝かせた。切っ先に座り込み、両足で大刀をはさんで固定した。ヤシの実を両手でもち、大きく振りかぶった。天を向いた大刀の刃にヤシの実のほうを叩きつけることで殻を割った。割れ目からしたたる白い液体をむさぼるように飲んだ。それでようやく喉の渇きは癒やせた。
それから、あたりを歩いているヤシガニを何匹か捕まえた。落ちている枯れ枝や木ぎれを集めて火をおこした。ヤシガニの殻を割ってなかの肉を取り出し、火で炙って食べた。
このあたりの生存技術はガレノアの船に乗っているときに、船のコックであったミッキーから下仕事の合間に教わった。
「いいか、小僧。海岸で一番、手に入りやすい水はヤシの実だ。若いヤシの実のなかには水がたっぷりとつまっている。殻を割ればなかの水を飲めるってわけだ。ただし、若い実だけだぞ。熟したヤシの実では水分が固まっちまってるからな。だから、海岸で水を飲みたくなったら若いヤシの木を探すんだ。
それと、ヤシの木と言ったらヤシガニがつきもんだ。こいつはデカくて、味もいいから、食糧としてはうってつけだ。ただし、気をつけなきゃいけないことがある。消化管だけは絶対に食っちゃダメだ。ここには毒が溜まっていることが多い。知らずに食うと中毒を起こして死んじまうぞ。
それから、火のおこし方だが……勘違いしてるヤツが多いが、火ってのは木と木をすりあわせればおこるってもんじゃない。木と木をすることで木クズが出る。その木クズに熱が溜まることで小さな火種ができるんだ。だから、木クズの溜まる場所を作らなくちゃいけない。そして、その火種に空気を送り込むことで火にかえていく。こうやってな……」
ミッキーはそう言って実演しながら教えてくれた。そうでなかったらどうしていいかわからずに途方に暮れるしかなかった。
「海賊なんぞやってりゃあ、離れ小島への流刑ぐらいは一度や二度はあるもんだ。生き残りたけりゃあ、島での生存技術は必須だぞ」
ミッキーはそう『笑えない表情』で話していたが……まったく、その通りだ。大切な技術を教えてくれたことには感謝するしかない。
ヤシの実の水を飲み、ヤシガニの実を食い、渇きと飢えを満たした。
すでに夕暮れだった。白い砂浜を赤い夕陽が真っ赤に染めあげている。海の向こうを見れば大きな太陽がいまにも海に沈もうとしている雄大な景色が広がっている。
ロウワンは砂浜の上に手足を投げ出して寝転んだ。不思議と胸が高鳴るのを感じていた。
「さあ、明日からは森の探索だぞ。そのためには今日はきちんと休まないとな」
そして、ロウワンは眠りについた。
指先がかすかに動いた。
『動かした』ではない。『動いた』のだ。指先ひとつと言えど『自分から』動かすほどの意識はまだ戻っていない。軽く曲がった指先に感じるものはジットリと濡れた感触。そして、なにか柔らかいものに包まれている感覚。
――これは……砂?
砂⁉
その意味に気がついたとき、ロウワンの頭のなかに天啓が閃いた。
「砂だって……⁉」
ロウワンは跳ね起きた。体の下に広がるのは波に濡れた白い砂浜。あたりにはまばらにヤシの木が生えている。そして、視線の先に広がるものは鬱蒼たる森……。
「やった! 僕は陸地に着いたんだ!」
ロウワンは顔いっぱいに喜びを爆発させた。立ちあがろうとした。膝が崩れて倒れ込んだ。柔らかい砂地に足をとられた、と言うこともある。しかし、それ以上に体の自由が効かない。疲れきっているのか、自覚がないだけで全身にひどい痛手を負っているのか、その両方なのか。
体の反応が鈍い。
なんとなく全身がぼんやりと麻痺しているような感じでうまく体を動かせない。
当然だろう。夜の海に飛び込み、あげくに気を失った状態で砂浜に打ちあげられていたのだ。それですぐに動けたらその方が不思議だ。気を失っている間に野生の獣にでも襲われなかっただけ幸運と言うべきだった。それを言うならそもそも海で溺れもしなかったことが奇跡なわけだが。
「……でも、僕は確かに生きて、陸地にたどり着いた。奇跡が起こったんだ」
ロウワンは身を包む服を握った。年端のいかない少年にはまだまだ大きすぎる船長服。千年前、世界を守り抜いた騎士マークスの服を。
服はたっぷりと水を吸い込んでいた。ボタボタと音を立てて際限なく水をたらしつづけるほどに。
したたる水滴を一滴、指について舐めてみる。塩辛い。たしかに、海の水だ。
「……やっぱりだ」
ロウワンは確信した。
「こんなにも水を吸った服を着たまま気を失っていたんだ。普通なら、そのまま溺れて死んでいるところだ。でも、僕は生きている。こうして、生きて陸地にたどり着いた。この服が、騎士マークスの服が僕を守ってくれたんだ」
――ありがとう、マークス。僕は必ずあなたに認められるおとなになる。だから……そのときこそ僕を迎えに来て。
ロウワンはそう誓った。
そして、もうひとつ。その場にはロウワンにとって特別な意味をもつものがあった。
それは、一振りの大刀。
鉈のように肉厚の、大きく湾曲した刃をもつ巨大な刀。
その大刀が刃を砂浜に突き立てる格好で立っていた。
見間違えるはずもない。それはあの男、〝鬼〟の愛用していた大刀だった。
「……そうか。〝鬼〟も僕を応援してくれたのか」
ロウワンはそのことを察した。
大刀の柄に右手をかけた。砂浜から引き抜こうとした。ビクともしない。両手で握りしめ、思いきり力を込めて抜こうとした。それでも、足りない。うんと上半身を反らせ、体全体の力で引き抜いた。砂を巻きあげて大刀の先端が砂浜から引き抜かれた。その勢いでロウワンは後ろに倒れ込んだ。音を立てて背中が波に濡れた砂浜に落ちた。その上に――。
巨大な大刀が落ちた。
「うげっ!」
大刀が腹の上に落ちてきたその重みで、ロウワンはまるでカエルが潰されるときのような声をあげてしまった。
「……うう。やっぱり、とんでもない重さだ。へたをしたら僕と同じぐらいあるかも。こんなものを片手で軽々と振りまわしていたなんてやっぱり、〝鬼〟はすごい」
〝鬼〟はすごい。
そう語る口調にははっきりと憧れの響きがあった。
ロウワンにはすでにわかっている。なぜ、どうして、強制されたわけでもなく、誘われたわけですらないのに〝鬼〟の船に居着いていたのか。
憧れていたからだ。
〝鬼〟の圧倒的な強さに。
なにものも怖れず、警戒すらせず、すべての掟を無視して自分ひとりの価値観で生き抜くその姿に。まさに、それこそは、ロウワンが幼い頃から物語のなかで見てきた海賊の姿、ロウワンが憧れていた海賊の姿そのものだった。
だから、〝鬼〟に憧れた。
だから、〝鬼〟の側にいた。
でも――。
「……〝鬼〟は悪党だ。多くの人々を殺し、苦しめてきた。憧れてはいけない相手だ。僕はいつか必ず〝鬼〟の前に立つ。そして、退治してみせる」
ロウワンは苦労しながら腹の上の大刀をのけると立ちあがった。両手で柄をつかみ、刃の先を砂浜に立ててもちあげる。そのまま刃を砂浜に突き立てた。どれだけの人間の、いや、どれだけの生物の血を吸ってきたかわからない刀身が太陽の光を受けて白く輝いた。
「いまの僕では両手でつかんだってこの大刀を扱うことなんて出来はしない。でも、いつか必ず扱えるようになる。自在に振るえるようになる。そのときこそ……僕はもう一度、〝鬼〟に会うんだ」
〝鬼〟に会って、そして――。
「〝鬼〟を倒す」
ロウワンはそう誓った。
人ひとりいる気配のない海岸。潮風が吹き、遠くに海鳥の声が響き、太陽の照りつける砂浜でのことだった。
「ところで、ここはどこなんだろう?」
陸地であることだけは確かだが、それ以上のこととなるとさっぱりだ。
自分の知っている場所なのか、知らない場所なのか。大陸なのか、島なのか。島だとしたら離れ小島なのか、近くに他の陸地があるのか。
「まずはそれを知ることからだな」
ロウワンはそう呟いた。そのときだ。
ググゥ~。
恐ろしく大きな音を立ててロウワンの腹の虫が鳴った。まわりに誰もいないのに思わず赤面してしまったぐらい大きな音だった。
恐ろしく腹が減っていた。
それ以上に喉が渇いていた。
一息入れたことではじめてそのことに気付いた。気付いたら途端に、水と食糧に対する耐えがたい欲求が襲ってきた。あまりにも激しい欲求だったので一瞬、飢え死にの恐怖に襲われたほどだった。
「まずは水と食糧を手に入れないとな」
砂浜に真水など湧いているはずもない。しかし、内陸に目をやればそこには無数の木々が立ち並ぶ鬱蒼たる森が広がっている。あれだけ大きな森だ。泉や川もきっとあるだろう。実をつける木だってあるだろうし、鳥や動物もいるはずだ。森に入れば水と食糧には不自由しないだろう。とは言え――。
「いきなり、森に入るのは不用心すぎるよな」
ロウワンはそう自分に言い聞かせた。
「海賊船に飛び乗ったときみたいな失敗は出来ない。もっと慎重に、注意深く行動しないと。もう一度、あんな幸運に恵まれるはずなんてないんだからな」
海賊船に襲われる客船を見つけたとき――。
自分の力量も省みず、なんの準備もしないままに現場に飛び込み、なにもできないまま血の匂いに気分を悪くし、吐いていただけだった。たまたま〝鬼〟がやってきたから助かったものの、そうでなければ殺されるか、どこかに売り飛ばされるかだったのだ。同じまちがいを繰り返すわけにはいかない。
「まずはあたりの探索。水を飲んで、なにか食べて、一晩休んで体力を回復させる。森に入るのはそれからだ」
そう判断出来る程度の分別はすでにもっていた。
幸い、あたりには何本ものヤシの木があって、多くの実をつけていた。ロウワンは『早くはやく!』と急かす喉と胃袋をなだめながら木に登った。若い実を選んでたたき落とす。ヤシの実のなかの水を飲めば喉の渇きは癒やせるだろう。問題はどうやってヤシの実の固い殻を割るかだ。
もちろん、ヤシの実の殻を割るための道具などどこにもない。しかし、〝鬼〟愛用の大刀がある。ロウワンは大刀の背を砂浜に埋める形で寝かせた。切っ先に座り込み、両足で大刀をはさんで固定した。ヤシの実を両手でもち、大きく振りかぶった。天を向いた大刀の刃にヤシの実のほうを叩きつけることで殻を割った。割れ目からしたたる白い液体をむさぼるように飲んだ。それでようやく喉の渇きは癒やせた。
それから、あたりを歩いているヤシガニを何匹か捕まえた。落ちている枯れ枝や木ぎれを集めて火をおこした。ヤシガニの殻を割ってなかの肉を取り出し、火で炙って食べた。
このあたりの生存技術はガレノアの船に乗っているときに、船のコックであったミッキーから下仕事の合間に教わった。
「いいか、小僧。海岸で一番、手に入りやすい水はヤシの実だ。若いヤシの実のなかには水がたっぷりとつまっている。殻を割ればなかの水を飲めるってわけだ。ただし、若い実だけだぞ。熟したヤシの実では水分が固まっちまってるからな。だから、海岸で水を飲みたくなったら若いヤシの木を探すんだ。
それと、ヤシの木と言ったらヤシガニがつきもんだ。こいつはデカくて、味もいいから、食糧としてはうってつけだ。ただし、気をつけなきゃいけないことがある。消化管だけは絶対に食っちゃダメだ。ここには毒が溜まっていることが多い。知らずに食うと中毒を起こして死んじまうぞ。
それから、火のおこし方だが……勘違いしてるヤツが多いが、火ってのは木と木をすりあわせればおこるってもんじゃない。木と木をすることで木クズが出る。その木クズに熱が溜まることで小さな火種ができるんだ。だから、木クズの溜まる場所を作らなくちゃいけない。そして、その火種に空気を送り込むことで火にかえていく。こうやってな……」
ミッキーはそう言って実演しながら教えてくれた。そうでなかったらどうしていいかわからずに途方に暮れるしかなかった。
「海賊なんぞやってりゃあ、離れ小島への流刑ぐらいは一度や二度はあるもんだ。生き残りたけりゃあ、島での生存技術は必須だぞ」
ミッキーはそう『笑えない表情』で話していたが……まったく、その通りだ。大切な技術を教えてくれたことには感謝するしかない。
ヤシの実の水を飲み、ヤシガニの実を食い、渇きと飢えを満たした。
すでに夕暮れだった。白い砂浜を赤い夕陽が真っ赤に染めあげている。海の向こうを見れば大きな太陽がいまにも海に沈もうとしている雄大な景色が広がっている。
ロウワンは砂浜の上に手足を投げ出して寝転んだ。不思議と胸が高鳴るのを感じていた。
「さあ、明日からは森の探索だぞ。そのためには今日はきちんと休まないとな」
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