【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。

白(しろ)

文字の大きさ
44 / 90
第二章 ヒノデの国(下)

勝負と確信

しおりを挟む
 いくら攻撃が当たらないといっても、直立不動であれば確実に当たる。ラファエルが避けるという意思を持ってはじめて効力を発揮する加護にこの時ばかりは舌打ちが出た。

『せいぜい楽しめよ。あの世界にはお前の見たことも聞いたこともねえもんが沢山ある。特別に俺の加護を授けてあるから並大抵のことじゃ死なねえぞ』

 ラファエルをこの世界に連れきた張本人である自称神様の言葉だ。
 当時はこの言葉の意味を病気や怪我をしにくい体になるのか程度の認識だったのだがそれは違っていた。この加護の力は絶大だ。ラファエルに命の危機が迫り、ほんの少しでも避けようと身体を動かしただけでなぜだか知らないが攻撃はラファエルに当たらない。
 だからラファエルは無茶をするようになったし、多少の怪我も厭わなくなった。
 命に関わる攻撃でなければ当たる、というのがなんともザルな判定だが、ラファエルは別に構わなかった。今この時までは。

「でもさあ…っ!」

 鋭く、けれど重く風を切る音に反射で飛び上がり薙ぎ払うように振られた尻尾を避けて続けざまにやってきた鋭い牙を剣で受け止め、その勢いのまま後ろへと飛んで砂浜に着地する。

「…さすがに、しんどい…!」

 いつの間にか龍の身体のほとんどは陸地に上がっており。今では砂浜で対峙している。もう一度津波を引き起こされたらまず勝ち目はないからだ。
 ラファエルは肩で呼吸をして目の前で同じように疲弊しているらしい龍を睨んだ。
 この龍にも余力はあまり無いのだろう。もう身体に雷はまとっておらず、炎による攻撃も格段に減った。今では泥臭い肉弾戦だが、それでも一瞬の油断が命取りになるこの状況はあまりよろしくない。

 いくら攻撃が当たらないといっても体力の限界は来るし、一撃でも食らって動けずにいる間に自分はきっと食い殺される。意思が伴っていても身体が動かないのであれば当然攻撃は当たるし、その場合は神様のいう「並大抵」から外れるだろうとラファエルは予測していた。

(…いつまで保つかな)

 ラファエルの腕力では龍の硬い鱗を貫くことはできず、出来るとしたら既にアルフレッドが負わせた傷に再度攻撃するくらいだが、そんな針の穴を通すようなことがそう何回も出来るはずがなく現状はラファエルの防戦一方だ。体力と気力の限界はすぐそこまで見えているが、アルフレッド達の動向を気に掛ける余裕なんて一欠片もありはしない。
 ラファエルは今一度剣の柄を握り直した。
 今自分に出来ることは彼らを信じてチャンスを作ることだけだからだ。


△▼△


「本当にうまくいくかしら」

 大粒の雨が降り頻る中、マヅラは目を凝らして龍とラファエルが戦っている様子を見守っていた。三人は今ラファエル達から少し離れた場所にいる。
 離れたといっても龍が巨大すぎるあまりにいつでも攻撃が降りかかって来る圏内だが、今のところその心配はなさそうだ。

「うまくいかせんだよ。いいか、俺とお前もミスれねえぞ」

 二人は向き合うようにして立っていた。

「わかってるわよ。共同作業なんて何年ぶりかしら、とういうかしたことあった?」
「気持ち悪ぃ言い方してんじゃあねえよ。てめえと手ぇ繋いだ記憶なんて俺にはねえ」
「繋ぐとか気持ち悪いわね。でもまあそれ以外にどう言ったらいいかアタシにもわからないわ」
「…完全に陸に乗り上げたな、そろそろだ」

 二人の会話を背に真剣な表情で龍の動向を見ていたアルフレッドが静かに呟いた一言に緊張感が増した。
 失敗は許されない一発勝負。もし失敗すれば自分はともかくラファエルは限界を迎える。
 それだけは阻止しなくてはいけない。アルフレッドは一つ深く呼吸をして二人に向き直った。

「頼んだ。…俺をあのデカブツの上まで飛ばしてくれ」


△▼△


 それは遡ること数分前。

「一撃って言ったってどうするのアルフレッド様。あんなデカいのさすがのあなたでも難しいと思うんだけど」

 距離を取った三人は先程アルフレッドのいった言葉に難色を示す。
 散々三人で攻撃を繰り返してきたが決定打は与えられておらず、何よりあの硬い鱗が厄介だった。拳では当然裂ける筈もなくアルフレッドによる切り傷だけが龍には目立っていた。

「上から首を斬り落とす」
「はあ?」

 目を剥いたのはオヅラだ。

「どうやってやるんだよ。あんたの剣だって深傷は負わせられなかったろ」
「ああ。だが遥か上からなら斬れる」

 アルフレッドは空を指差した。

「……ああ、成程。そういうことか…!」
「ちょっとアタシにもわかるように説明してっ!」
「要はアルフレッドが全力で剣を振り抜ける状況にすりゃあ良いってことだ」
「……アルフレッド様をぶん投げるってこと⁉︎」

 驚きに目を丸くするマヅラに頷いてオヅラが人差し指を翳した。

「けどそれにゃあ問題があるぜ。あの魔物は動きが速え上に不規則だ。てめえを空に投げれたとして、あれがそのまま止まってくれるとは思えねえ」
「大丈夫だ」

 強く言い切る。

「俺はエルを信じる」

 
 ラファエルは全身を雨だか汗だかわからない雫で濡らして大きく呼吸を繰り返していた。

(もう、少し…!)

 なんの根拠もないのにこの戦いはもうすぐ終わるとラファエルは確信していた。
 それがどんな結末かまではわからないが、少なくとも負けるつもりはさらさらない。
 けれど、もう次が最後だというのもわかっていた。
 身体が鉛のように重たい。何度も龍の攻撃を受けたせいか両腕は麻痺しているし、避け切れなかったせいで出来た傷からは血が流れて服を赤に染めている。
 極度の緊張状態で興奮が痛みを上回っているだけで身体にはダメージが蓄積していた。
 ふー、と大きく息を吐いた。左手で今にも破裂しそうなほど脈打っている首筋に触れてからぎゅっと剣をしっかり握り込み、龍を睨む。

「──勝負だ」

 砂を蹴ったと同時に龍から繰り出される尻尾を受け流すことはせず垂直に飛ぶことで避けてそのまま龍の体に着地する。バチ、と靴底から電気の弾ける音が聞こえるがラファエルは構うことなく龍の身体を走る。
 振り落とされる前に足に力を入れて跳躍し、躍り出るのは龍の目の前。
 大きな目玉がぎょろりとラファエルを捉えるのとラファエルが剣を逆手に持ったのはほぼ同時。
 躊躇することなく自身が切り裂いた右目にもう一度剣を深く突き立て、そして柄から手を離す。

 ギャオオオオオオオオオオオ!

 絶叫が天を貫き暗雲の中を稲光が迸る。
 残った左目が憎悪を宿して無防備に空中に投げ出されたラファエルを睨み、禍々しい程大きな口を開けて牙を剥く。
 その牙が眼前に迫ったその時、ラファエルは勝ちを確信する。

「アルフレッドーーーー‼︎」

 声の限りに叫んだ瞬間、鋭く風を斬る音が聞こえた。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布
BL
完璧っぽいエリート騎士×無自覚な愛され系

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

BLゲームの展開を無視した結果、悪役令息は主人公に溺愛される。

佐倉海斗
BL
この世界が前世の世界で存在したBLゲームに酷似していることをレイド・アクロイドだけが知っている。レイドは主人公の恋を邪魔する敵役であり、通称悪役令息と呼ばれていた。そして破滅する運命にある。……運命のとおりに生きるつもりはなく、主人公や主人公の恋人候補を避けて学園生活を生き抜き、無事に卒業を迎えた。これで、自由な日々が手に入ると思っていたのに。突然、主人公に告白をされてしまう。

処理中です...