魔王軍に転生した元人事部長、三十路ボディで職場改革します~おっさん、異世界で“人事改革”はじめました

中岡 始

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第4章 静かなる波紋、そして注目され始めるおっさん

魔王の命令は、突然に

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玉座の間は、朝から低く張り詰めた空気に包まれていた。

黒曜石の壁が光を鈍く跳ね返し、深紅の絨毯の中央には、堂々とそびえる漆黒の玉座が据えられている。その玉座に腰かけるのは、この国の主――魔王ヴァルグラド。

その姿は威容そのものだった。  
肩幅は広く、黒銀の甲冑はまるで生き物のように身に馴染み、背には濃い紫色の外套が垂れている。まだ若き王でありながら、その眼光には支配者としての力と狂気が宿っていた。

その前に、幹部たちが一列に並んでいる。

戦略軍将、暗黒騎士団長、魔術監、補給総官――いずれも一軍を率いる猛者たちだ。  
そしてその末列に、ひときわ異質な姿があった。  
山本孝一。人間。スーツの上から軍用の簡易マントを羽織り、右手には革の手帳を携えていた。

この場に呼ばれた理由は、まだ告げられていない。  
だが、ここに立っている時点で、何か“大きな節目”が迫っていることは、容易に察せられた。

ヴァルグラドの眼が、集まった一同をゆっくりと見渡した。

そして、重い声が響いた。

「遊撃隊の動きが良いらしいな」

誰も答えなかった。

沈黙の中、ヴァルグラドの視線が山本に向けられる。  
その圧は凄まじく、言葉を伴わなくとも、骨の芯にまで届くようだった。

「人間。お前の手か」

唐突な問い。

山本はわずかに口元を引き締めたが、動揺の色は見せなかった。

「私がしたのは、正しい配置を提案しただけです。  
実際に動いたのは、兵士たちです。判断したのは、部隊の指揮官です」

淡々とした口調だった。

言い訳でも虚勢でもない。事実としての説明に徹していた。

玉座の上で、ヴァルグラドが鼻を鳴らした。

「ふん、謙遜か。だが結果は事実として残っている」

彼が手を軽く振ると、側近が手渡した報告書を指で弾いた。

「連絡の速さ、損耗率の減少、部隊士気の安定――これまでの軍とは思えん数字が並んでいる」

幹部たちの間にざわめきが走る。

「それは遊撃隊の特性による偶発的な結果にすぎません」

「いや」

ヴァルグラドの声が空気を裂くように響いた。

「偶発ではない。人間が仕組んだのだ。  
ならば――その手腕、次は全軍規模で見せてみろ」

その言葉に、幹部の列が揺れた。誰かが思わず言葉を漏らす。

「な……全軍だと?」

「馬鹿な。我が部隊の内政に、人間の手を入れるなど……」

「我が軍の統制が崩れたとでも?」

否定、驚愕、侮蔑。それぞれの思惑が、口々にあふれ出す。  
だが、誰も正面から魔王の命令に逆らおうとはしなかった。

ヴァルグラドは、興味深そうにその混乱を見ていた。  
そして、再び山本を見据える。

「お前に一月の猶予を与えたのは、“役立てば”という条件付きだった。  
どうやら、それなりの成果を出したようだ。  
ならば――次は組織の骨格そのものに、メスを入れてみろ」

山本は目を伏せ、一瞬だけ思考を巡らせた。  
それが命令である以上、断れば命はないだろう。  
しかし、受ければ全軍の視線が自分に集まる。  
もはや“外野”ではいられない。踏み込むなら、次は“組織の中核”に切り込むことになる。

静かに顔を上げる。

山本の瞳には、光が宿っていた。  
覚悟、というよりは“道が見えた”者の目だった。

「わかりました」

それだけだった。無駄のない返答。だが、芯の通った声だった。

ヴァルグラドの口元に、わずかな笑みが浮かんだように見えた。

「ならば、動け。部隊構成の見直し、配置案、能力評価――すべてを自由に調べていい。  
ただし、一月以内に“目に見える結果”を出せ。  
できなければ、その命、ここで終わりだ」

「承知しました」

山本は再び静かに頭を下げた。

幹部たちは、言葉を失っていた。  
この男がここまでの圧力の中で一切動じず、むしろ一歩踏み出したその事実が、彼らの警戒心を刺激していた。

会議はそこで解散となった。

山本が玉座の間を出ると、リリシアが無言のまま脇を歩いていた。  
彼女の横顔には、まだ読み切れない感情の波が潜んでいた。

山本は歩きながら、自分の手帳をそっと開いた。  
真っ白なページの最上段に、ひとつだけ言葉を書き加える。

『全軍配置再編――起点:斥候遊撃隊実績』

手帳を閉じる音が、夜の石廊下に小さく響いた。

命令は下された。  
それは試練であり、挑戦であり――あるいは、希望だった。
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