魔王軍に転生した元人事部長、三十路ボディで職場改革します~おっさん、異世界で“人事改革”はじめました

中岡 始

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第3章 希望の一手、最下級兵ゴブタの発見

初陣、遊撃の端で

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日の出からわずかに時間が経った頃、遊撃斥候部隊の訓練地では、すでに実戦形式の演習が始まっていた。  
高低差のある岩場、密集した灌木、足元の悪い湿地帯。地形は意図的に複雑に構成されており、正面突破ではなく「機動と偵察」を重視する部隊向けの訓練場だった。

その中央に、ゴブタの姿があった。

従来の鎧ではなく、軽装の革防具を身につけ、背には短剣と簡易魔導標。体の動きを妨げない服装に変わったことで、ゴブタの動きは驚くほど滑らかになっていた。  
それでも彼の目は、怯えたように揺れながらも、決して一点に留まることはなかった。左右、後方、木々の隙間、足元のぬかるみ。彼は常に「何かが起こる前」を探している。

遊撃第七斥候小隊の演習任務は、架空の敵軍による伏兵をいかに早期発見し、味方主力に情報を伝達できるか、というものだった。

そのための連携は、緻密さと即時性を求められる。  
些細な判断の遅れが、後続部隊全体の損耗に繋がる。  
ここに配属されるのは、本来ならば熟練者ばかりのはずだった。

だが。

「前方、左三十度、音の乱れ!」

誰よりも先に声を上げたのは、ゴブタだった。

その言葉に反応して、小隊の隊長が即座に指示を飛ばす。

「全隊、遮蔽物へ散開! スモーク用意!」

その直後、草むらの奥から魔導閃光が炸裂する。  
本来なら直撃していたはずの奇襲攻撃は、すでにゴブタの警告によって隊列は分散されていた。

隊長が僅かに目を見張る。

「……今の、確実に先読みしていたな。音か、気配か。どこで察知したんだ?」

ゴブタは岩陰に身を潜めながら、小型の報告筒に指を滑らせる。  
自らの視界と音の違和感を即座に文章化し、煙による信号で後方へ伝達を試みていた。

その一連の動作は、訓練された兵士顔負けの手際だった。

「隊長、中央小径の奥に伏兵二。待ち伏せの構えです」

「あの小僧……よく動くぞ。これまでの奴と同じとは思えん」

遊撃斥候部隊の隊長、バルグレムは岩に身を伏せたまま、信じられないというように呟いた。  
これまで同様の任務をこなしてきた兵士たちは、たいてい伝達に時間がかかり、緊張で手が止まることが多かった。  
だが、ゴブタは違った。怯えながらも動きは止まらない。恐怖を押し殺すのではなく、恐怖ごと利用しているようだった。

突入から十分後、訓練は無事に終了した。  
模擬敵軍役の訓練兵が、こちらの動きを全く予測できずに撤退を余儀なくされ、小隊の損耗判定も最低限で済んでいた。

その夜。

山本の部屋には、報告書の速報が届けられていた。

戦果:仮想敵兵力撃退、被害判定2名(軽傷)  
報告速度:斥候信号平均より23秒短縮  
特記:G-784-β(ゴブタ)による初期警戒信号2回、戦術伝達補助1件を記録

山本はそれを読み終えると、静かに手帳を閉じた。  
そこには、ゴブタの名前と共に「遊撃適性 確認」と走り書きされている。

「やっぱり、配置なんだよな」

小さな声で、山本はつぶやいた。

どれほどの能力を持っていても、それが埋もれたままであれば意味がない。  
評価とは、表面の結果だけでなく「どこに置くか」「何をさせるか」で決まるものだ。  
そしてその判断こそが、山本が担うべき“役目”だった。

彼は椅子にもたれ、目を閉じた。

浮かぶのは、訓練場で小さな身体を懸命に動かしていたゴブタの姿。  
泥にまみれ、声を震わせながらも、確かな役割を果たしていた少年。

あれはただの偶然ではない。配置された先で“光った”のではなく、もともと光を持っていた。  
それを見つける目と、信じて任せる手続き――それが揃ったとき、初めてその光は発揮される。

「次は……どう動くかだな」

山本の手は、すでに次の人材ファイルへと伸びていた。

誰かの目に留まることなく、静かに朽ちていこうとしている“可能性”は、まだ数多く眠っている。  
ゴブタは、その一人目だったにすぎない。

戦場は剣や魔法だけで動くわけではない。  
人の配置と意志の流れ――それこそが、真の“勝敗”を左右する。

山本の眼差しは、その夜も変わらず、静かに次の光を探していた。
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