キュートなSF、悪魔な親友

月那

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キュートなSF、悪魔な親友

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 仕事は順調。
 恋人はいないけれど、親友が何故かそれ以上の関係になってしまって。だからなのか、プライベートだって、別に寂しいとか虚しいとか、マイナスなイメージの単語なんて全然出てこない、フラットな生活で。
 二十代半ばを過ぎて今、田村がそんな日々を送っているのも総てこの会社の居心地の良さがあるから。
 営業部と企画部は、中でも花形と言われる以上求められる仕事も中途半端は許されない。けれど、それが遣り甲斐と思えるくらい、上層部がちゃんと評価してくれているのがわかるから、時として無茶なスケジュールや課題も乗り越えることができるのだ。
「お疲れさん」
 そう、久々に無理難題を突き付けられた田村は、本気で今日はかなりのお疲れ具合で車の助手席でぐったりしているのだが、運転している先輩である志麻が言ってポンポンと、肩を叩いた。
 本来なら自分が運転するのだが――実際向かう時は運転したし――、高城を始めとする「強い女性」の団体にがっつり遣り込められた田村の精神状態が笑えるくらいに憔悴しきっていたのを見て、志麻が帰りの運転を買って出てくれたのである。
「……きれーな女の人って、こええ」
 心の底からのそのセリフに、志麻がクスクス笑う。
「そんなに怖がることないよ。俺はほんと、今回田村連れてって大正解だったなーとつくづく感じたね」
 手応え抜群、とばかりに片手で拳を握る様子に田村が「えー?」なんて声を漏らすと。
「だってさ、会社入った瞬間結構女の子たちキャーキャーゆってたよ? やっぱ、田村ってモテるよなー。高城さんも、田村ならイケメンだから絶対クライアントに気に入られるし、まず間違いないって言ってたからねー」
 女の子のハートマークな視線気持ち良かったー、と志麻が続けたが、田村は、
「違いますよ。あれ、俺じゃねーっス」と完全に否定した。
 まったく、どの口がそんなことを、と。
「志麻さん、何で自覚ないんスか? 俺の同期女子だってほぼほぼ志麻さん狙いっスよ?」
「ははは、うまいねえ、たむちゃん。俺にそんなゴマすんなくてだいじょぶだよー」
 ものすごく軽い口調でケラケラと笑いながら志麻が言う。完全に田村の言葉を信じていない口調なので、田村もムキになってしまう。
「すってないっス! 何でかなー、志麻さん自分が美人って絶対わかってるっしょ?」
「えー? 俺、美人? そりゃ笑えるなー。ありがとさん」
「志麻さん?」
「いやいやいやいや、だから美人ってのはね、かぐちゃんみたいなコのことを言うんだよ? あ、コレってパワハラ? セクハラ?」
 ハンドルをトントン叩いて笑い続ける志麻に、田村は頭を抱えそうになる。
 こんなに自覚がないとは思っていなかった。
 確かに鹿倉は美人である。それは否定しない。が。鹿倉とは全然雰囲気が違うけれど、整った顔立ちや物腰の上品な志麻が「美人」であるというのは、誰がどうみても否定なんてできない事実なのに。
「三十過ぎのおっさんがキミは美人さんだねーなんて、言ってたらかぐちゃんに訴えられるかな? たむちゃん、かぐには内緒ねー」
「いや、あいつは言われたら喜ぶヤツだから全然そんなの構わないっスけど」
「そっか、かぐちゃんは言われ慣れてるよなー。最近はさー、ちょっとした発言がパワハラとかセクハラとか言われるし、ほんと気を付けないと怖くてね」
「あれは世間がおかしいだけっスよー。コミュニケーションが上手くとれないヤツの逃げだと俺は思ってますけど」
「じゃあ、田村は今日あんだけゴリゴリに叩かれたけど、平気?」
「全然平気です! ……いや、ヘコんでますけどー」
「ヘコめヘコめー。俺も高城さんにはゴリゴリにやられてるけど、あの人信念あるから絶対後で感謝しか残らないからねー」
「うおー、志麻さんでさえ、やられてるって。んじゃ俺今回ヤバいことにしかなんないじゃないっスか」
 ぐわーっと田村が頭をかきむしるように言うと、ケラケラ笑いながら志麻が、
「しょーがないから、今日は俺がグチを聞いてあげよう。直帰でいいって話だし、このまま呑みに行こうぜ」
とハンドルを切ると、目的地を変えた。
「え? この車は?」
 社内で使用している営業車は複数あり、営業部と企画部はほぼ自由に使用しているのだが、志麻も個人持ちの自家用車で通勤しているはずで。
「代行で俺が家に乗って帰るからいいよ。田村、自分の車会社に車置いてても大丈夫だろ?」
「あー、そっスね。明日も通常出勤だし」
「よしよし、んじゃ、行こ行こ」
 志麻が嬉しそうに言ってくれたので、田村はその言葉に甘えることにした。
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