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「偏見なんて持ってないつもりだった。同性を好きになるっての、全然アリだと俺は思ってた」
「え?」
「でもそれは知識として。ほら、こんな世の中だし、もうそんなの今じゃ当たり前だしさ。でも、リアルに友人がそうなのかって思うと、やっぱりびっくりするよ」
「あー、あたしもそれ、だな。だから、あいつが櫂斗のことを好きなんて言って、そんなんふざけてんじゃねえ気持ち悪いってのは、やっぱ、驚いてゆっちゃうもんなんだよ」
 櫂斗を挟んで、二人が横に座り込んだ。ぴったりくっついて。

「別に、いいじゃん。櫂斗、可愛いし。カレシってのがどんな男か知らねーけど、おまえがすっげー幸せそうなのずっと見て来てるしさ。大事にされてんだろうなってのは、わかるから」
 莉沙が言うと。
「相手がオトコだろうと美女だろうと、そんなん関係ないんだよ。櫂斗が好きになった相手が、櫂斗のこと大事にしてくれてんなら、それだけでいいじゃん」
 穂高が笑う。

「櫂斗、大丈夫?」
 莉沙が心配そうに目を見た。
「さっきまですっごい震えてた。怖かったでしょ?」
 そう言えば、震えは止まっている。
 二人がくっついていることで伝わってくる温かさで、体の強張りが溶けたようだ。
「ん……すげ、怖かった。つか、ちょお気持ち悪かった」
 舌の動きとか、想い出したら虫唾が走る。

「じゃあ、今日、カレシんちに行って慰めてもらいなよ」
 莉沙が頭を撫でながら言う。
「されたことはさ、カレシが心配するだろうから言わなくてもいいけど。でも、傍にいて貰いな?」
 穂高も、同じように頭を撫でてくれる。

「じゃあ、莉沙も穂高に慰めてもらいなよ」
 櫂斗が、くふ、と笑って言う。
「え?」
「だって、莉沙だって似たようなこと、されたんじゃん」
 櫂斗が体当たりする前に、男に組み敷かれていた莉沙。
 体型が似ているから、薄暗い中で恐らく見間違えて押し倒されたのだろう。

「あ、あたしは別に、何も」
「押し倒されたのは事実じゃん。女の子なら、それだけでも十分怖かったろ? 穂高、男見せろよ」
 櫂斗が言うと。
「ん。ごめんな、俺が待たせたから。一人にさせて、悪かった」
 意外と素直に莉沙に微笑みかけて。

「……別に、あんなんどってこと」
「なくないよ、莉沙。いいから、こーゆー時くらいちゃんと穂高に甘えろ」
 もはや、命令。
「おまえは意地張り過ぎ。女子が俺たちみたいなマネして強がる必要、ないから。女性差別だとかジェンダーがどうこうとかじゃなくて、女の子は女の子として、護られるべき時には護られるもんなの。その権利、持ってんだから」
 櫂斗は立ち上がった。

「俺、帰る。鍵締めるし、ココ出よう」
「櫂斗?」座ったままの穂高が、櫂斗を見上げた。
 穂高を見下ろす、なんてめったにないから。
 ぽんぽん、とその頭を撫でて。

「穂高は、莉沙をちゃんと送り届けること。ま、そのついでにホテル寄るのはアリかもね」
「おい!」櫂斗の小悪魔的ウィンクに穂高が突っ込む。
「俺は、とっとと帰って今日はカレシんちに押し掛けるから」
 部室を出て、ちゃんと施錠。

 そして。
「莉沙は、穂高に甘えてちゃんと受け入れること。これ、命令。でもヤったかどうかの報告は任せる」
「櫂斗!」ニヤニヤ嗤いの櫂斗に、今度は莉沙が突っ込んで。
「じゃね」

 言い逃げ。
 もう、たまんないから。だって、泣きそう。
 うれし泣きなのか、安心した涙なのか、もうわけわからないけど。
 ついでにあの二人もくっついてしまえ、と思う。
 雨降って地固まる、だ。
 さっきの怒涛のレイプ事件は、稀に見る大事件だけど。でも、もういい。
 されたことは朋樹に洗い流して貰って、綺麗に上書きするから。
 そんなことより、あの二人のことの方が大切で。

 大好きだ、と思う。
 受け入れて貰える幸せは、きっと“友情”も“恋愛”も同じ。
 穂高と莉沙が、前よりもっと好きになった。
 ごめんね、トモさん。でもこれは浮気じゃないからね、なんて言い訳して。
 大好きな二人が、ちゃんとらぶらぶな二人になっていることを信じて、櫂斗は家に向かって自転車を漕いだ。
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