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何の前触れもなくさらり、と言ってのける櫂斗に。
思わず瞠目する。
そして、小さくため息を一つ。
「……気付かないわけ、ないか」
「ないねえ。こないだキョウさん、うっかり呼び捨てにしてたし」
「目敏いよなー、まじで」
「俺とかーちゃんに、隠し通せるわけないっしょ?」
「はいはい、知ってます。二人が人外だっつーのは」
「人のこと化け物扱いすんなよ」
「人間じゃねーよ、もう。何なんだよ、まじで」
「だって俺、ほのかのこと大好きだもん」
「だからそれ、芳賀が聞いたら泣くぞ?」
「大丈夫。トモさんのことは俺、愛してるから」
恥ずかしげもなく言い切るから何も返せなくて。
「ほのかがね、幸せなのが嬉しい」
散々遠藤に振り回されて、泣いたほのかのことも知っている櫂斗だから。
心の底からそう思う。
「キョウさんがさ、めっちゃいい人なのは俺も知ってる。だから、ほのかにちゃんと見る目あったんだって思うと、安心した」
「おまえいつも口説かれてんじゃん」
「うん、口説かれてるよー。だって楽しいじゃん。あの人手が早いからすぐケツ揉んでくるけどさ」
「いいのかよ、それ」
「ただのスキンシップ。ま、エロい触り方されたら蹴るけど、キョウさんのは全然だし」
「傍から見りゃ、エロい触り方してると思うけど」
「ほのかのことはエロい触り方しかしねーだろーけど」
「……だからセクハラだっつの」
何でも話せる、という相手が櫂斗にとっては今、きっとほのかだけで。
仕事はともかく、気持ちの上で一番甘えているのが自分なんだろうということはほのかもわかっているから。
逆に、自分も杏輔のことは櫂斗に知られたところで問題はない。
店では当然素知らぬ顔をしてくれるし。
「ほのかもノロケていいよ? まあ、俺と違ってノロケる相手は他にいるかもしんないけどさ」
「……誰にも、言ってないよ。言うつもりもないし」
「なら俺が根掘り葉掘り聞いてやるよ。ほのかが話したくなったらさ」
ああ、敵わないな、と思う。
自分なんかよりよっぽど老成しているこの高校生は、こっちの気持ちに絶対負担をかけない。
話せること、話したいこと、話せないこと。
そんなの全部、わかっていて。相手のプライバシーに関して、ほのかの裁量に総てを任せてくれる。
聞きたい、というプレゼンの場を作ってくれるくせに、話せという強要はしない。
それは心地よいプレッシャー。
「ま、酒飲み友達だよ。店、終わった後ひたすら飲ませてくれる」
「キョウさんの給料、飲み潰すつもりかよ」
「オトナだから遠慮って言葉は知ってんだよ」
「最高どんくらい飲んだのさ?」
「ギネス十五本」
「ひでーな」
「向こうが酔い潰そうとしただけだし」
「あーじゃあ、キョウさん自業自得か」
実際のところ、もう潰すことは諦めたらしく、大抵いつもの店で二杯くらい飲んだら出るようにはしている。まあ、その後杏輔の部屋で缶ビールを空けるわけだが。
酒には酔わないけれど、雰囲気には酔う。
と言いかけて、慌てて自制する。
確実に惚気だ、これは。
「ほのか、幸せが溢れてる」
くっそ、こっちの内心完全に見透かしてやがる。と小さく舌打ちする。
「誰も見てなくても、俺だけは見てるからね」
頭を、撫でられて。
きっとそれはイロイロと見透かされているけれど、でも一番嬉しい言葉。
いろんなこと、努力したり踏ん張ったり、そういう全部、多分櫂斗は感じ取るから。
多分きっと、朋樹はこんな櫂斗に完全にオちたんだろうな、と思う。
ポンコツで、何やってもグダグダだけど、それを可愛いとフォローしてそれすらも朋樹の“魅力”なんだと、他の誰でもなく朋樹本人に伝えて。
どういう育て方をしたら、こんな怪物ができるんだろうか。
ただただ愛されて、溢れかえった愛を分け与えているのだろうか。
「櫂斗……」
「ん?」
「浮気してるって芳賀が泣くようなこと、あんまししてやんなよ」
「ほのかに対しては、無理。俺、多分浮気するとしたら相手はほのかしかいねーから」
「ええー。も、めんどくせーことには巻き込まんでくれよ」
「大丈夫。トモさんにはほのかが想像もできないような愛情注いでるから」
「……なんか、おまえが言うとエロいからムカつく」
男のくせに超絶可愛い顔をしてくふくふ笑う櫂斗に、ほのかは完全に敗北宣言していた。
そんな二人の様子を、何の表情もなく見ている者の存在を、櫂斗はまだ知らない。
思わず瞠目する。
そして、小さくため息を一つ。
「……気付かないわけ、ないか」
「ないねえ。こないだキョウさん、うっかり呼び捨てにしてたし」
「目敏いよなー、まじで」
「俺とかーちゃんに、隠し通せるわけないっしょ?」
「はいはい、知ってます。二人が人外だっつーのは」
「人のこと化け物扱いすんなよ」
「人間じゃねーよ、もう。何なんだよ、まじで」
「だって俺、ほのかのこと大好きだもん」
「だからそれ、芳賀が聞いたら泣くぞ?」
「大丈夫。トモさんのことは俺、愛してるから」
恥ずかしげもなく言い切るから何も返せなくて。
「ほのかがね、幸せなのが嬉しい」
散々遠藤に振り回されて、泣いたほのかのことも知っている櫂斗だから。
心の底からそう思う。
「キョウさんがさ、めっちゃいい人なのは俺も知ってる。だから、ほのかにちゃんと見る目あったんだって思うと、安心した」
「おまえいつも口説かれてんじゃん」
「うん、口説かれてるよー。だって楽しいじゃん。あの人手が早いからすぐケツ揉んでくるけどさ」
「いいのかよ、それ」
「ただのスキンシップ。ま、エロい触り方されたら蹴るけど、キョウさんのは全然だし」
「傍から見りゃ、エロい触り方してると思うけど」
「ほのかのことはエロい触り方しかしねーだろーけど」
「……だからセクハラだっつの」
何でも話せる、という相手が櫂斗にとっては今、きっとほのかだけで。
仕事はともかく、気持ちの上で一番甘えているのが自分なんだろうということはほのかもわかっているから。
逆に、自分も杏輔のことは櫂斗に知られたところで問題はない。
店では当然素知らぬ顔をしてくれるし。
「ほのかもノロケていいよ? まあ、俺と違ってノロケる相手は他にいるかもしんないけどさ」
「……誰にも、言ってないよ。言うつもりもないし」
「なら俺が根掘り葉掘り聞いてやるよ。ほのかが話したくなったらさ」
ああ、敵わないな、と思う。
自分なんかよりよっぽど老成しているこの高校生は、こっちの気持ちに絶対負担をかけない。
話せること、話したいこと、話せないこと。
そんなの全部、わかっていて。相手のプライバシーに関して、ほのかの裁量に総てを任せてくれる。
聞きたい、というプレゼンの場を作ってくれるくせに、話せという強要はしない。
それは心地よいプレッシャー。
「ま、酒飲み友達だよ。店、終わった後ひたすら飲ませてくれる」
「キョウさんの給料、飲み潰すつもりかよ」
「オトナだから遠慮って言葉は知ってんだよ」
「最高どんくらい飲んだのさ?」
「ギネス十五本」
「ひでーな」
「向こうが酔い潰そうとしただけだし」
「あーじゃあ、キョウさん自業自得か」
実際のところ、もう潰すことは諦めたらしく、大抵いつもの店で二杯くらい飲んだら出るようにはしている。まあ、その後杏輔の部屋で缶ビールを空けるわけだが。
酒には酔わないけれど、雰囲気には酔う。
と言いかけて、慌てて自制する。
確実に惚気だ、これは。
「ほのか、幸せが溢れてる」
くっそ、こっちの内心完全に見透かしてやがる。と小さく舌打ちする。
「誰も見てなくても、俺だけは見てるからね」
頭を、撫でられて。
きっとそれはイロイロと見透かされているけれど、でも一番嬉しい言葉。
いろんなこと、努力したり踏ん張ったり、そういう全部、多分櫂斗は感じ取るから。
多分きっと、朋樹はこんな櫂斗に完全にオちたんだろうな、と思う。
ポンコツで、何やってもグダグダだけど、それを可愛いとフォローしてそれすらも朋樹の“魅力”なんだと、他の誰でもなく朋樹本人に伝えて。
どういう育て方をしたら、こんな怪物ができるんだろうか。
ただただ愛されて、溢れかえった愛を分け与えているのだろうか。
「櫂斗……」
「ん?」
「浮気してるって芳賀が泣くようなこと、あんまししてやんなよ」
「ほのかに対しては、無理。俺、多分浮気するとしたら相手はほのかしかいねーから」
「ええー。も、めんどくせーことには巻き込まんでくれよ」
「大丈夫。トモさんにはほのかが想像もできないような愛情注いでるから」
「……なんか、おまえが言うとエロいからムカつく」
男のくせに超絶可愛い顔をしてくふくふ笑う櫂斗に、ほのかは完全に敗北宣言していた。
そんな二人の様子を、何の表情もなく見ている者の存在を、櫂斗はまだ知らない。
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