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 大学生なんて遊んでるだけ、なんて思っていた櫂斗だったけれど、さすがに三年生ともなるととにかく忙しいらしくて。
 店も総て完全に休みだった三日間を終え、八月も終わりに近づくと今度は何やら、研究や実験やそのプレゼンなどで朋樹は店に来れない日が続いていた。

「つまんない」
 ほのかと二人体制の日々が続く中、櫂斗がぐちぐちと口を尖らせる。
「でも芳賀んトコ、泊まりに行ってんだろ?」
 まだオープンしてすぐなので、来客は少ない。
 ので、ほのかと喋りながら、盛り付けられたお通しを冷蔵庫に並べる。
 余裕がある時に、こういった前準備をしておくとピークの時間に慌てなくて済む。

「トモさんちから帰ってからはまだ、行ってない。週末は行こうかなって思ってるけど、なんか忙しそうだから悩み中」
「あー、そいえば実家、一緒に行ったんだって?」
 ほのかが、その話を出した瞬間櫂斗の顔色が変わった。
 
「そう! ほのか、聞いて」嬉しそうに言う。
「やだ」
「もおねー、ほのかに話したいってか、聞かせたい!」
「だからやだっつの。なんでのろけ話、聞かなきゃなんないんだよ」
 しまった、この話をフっちゃいけなかった、と後悔しても遅いわけで。

「だって、俺この話ほのかにしかできねーもん」
「櫂斗、友達いないのかよ」
「友達にはトモさんのこと、ゆってないもん」
 ふと、冷静な櫂斗の目にその意味を察する。

「……さすがに、言えないか」
「ん」

 関係が関係なだけに、誰にでも話せるわけじゃないだろう。
 そういうトコ、子供じゃないよなーと感心する。
 TPOを弁えて状況判断を瞬時にやってのけるから。

「わかったよ。明日、昼間に聞いちゃる」
 だからこそ逆に、たまには甘えさせてやりたいとも思うわけで。
「まじで?」
「そん代わり、おまえ奢れよ」
 カレシじゃないからこっちが奢るギリはない、と。

「マックならね。じゃあ、明日デートしよ」
「またそーゆー、芳賀が聞いたら泣きそうなことを」
「ほのか、トモさんはヤキモチなんかやかない、つったじゃん」
「でも実際ゴリゴリに焼きまくったじゃん。わけわかんねーこと言ってたし、あいつアホだろ」
「なんでほのか、トモさんに冷たいのさ?」
「冷たかねーよ、超平熱だよ」
「俺がトモさんばっかり好きって言ってるから? もお、ほのかってば可愛いなあ。俺、ほのかも大好きだよ?」
 ウィンクなんかしてくるから。

「はいはい、自分も櫂斗は大好きだよ」
 思い切り平坦な声で棒読みしてやる。

 可愛いんだか、可愛くないんだか。
 ほのかとしては小生意気なこの弟みたいな存在を、でもやっぱり大切だと思ってしまうわけで、今のセリフはきっと本心なのだろう。

「んじゃ、デート楽しみにしとくね」
「……地獄かよ。一番高いヤツ奢らせてやるからな」
「所詮マックだけどね」
 くふくふ笑いながら櫂斗が言うと、次の瞬間から“おがた”は来客が押し寄せてきた。
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